【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

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プロローグ

1:残念だったな、ざまあみろ

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「真っ白、---じゃあねえんだな」
  エイトは骨壷から骨を掬った。
 百均で買ったすり鉢で細かく砕かれ淡い象牙色をしている。
 場所は、公衆トイレ。便座を上げた個室の中だ。
 自分が死んだら、骨は砕いてトイレに。跡形も無くして欲しい。
 それは、とても世話になった人からの遺言だった
 学のないエイトだって骨は墓に納めるのが普通だと思っているから、いざ骨壷を便器に向かって掲げると躊躇する。だから、
「本当にこれでいいのか?」
としゃがみながら骨壷を揺すって骨に問いかけた。
 サラサラという音は早くやれとエイトを急かしているように思えた。
「あっそ」
と自分で自分を納得させる。
 相手は男だ。エイトにいつまでも干渉に浸って欲しくないはず。
「じゃあな」
 軽い別れの挨拶とともに一気に骨壷を傾けて、便器の中に投入すると細かい骨がふわっと巻き上がる。
 レバーを下げてすぐに水を流した。
 ゴゴゴッとけたたましい音を立てて、粉状の骨が排水管へと吸い込まれていった。そして、数秒後には何もなかったかのように綺麗な便器の陶器が水面下に現れた。
「あっけねえ」
 エイトは空になった骨壷を叩く。
「終わったぜ。あんたの望み通り、跡形も無くなった」
 けれど、その人と過ごした思い出はちゃんと残っている。
「残念だったな、ざまあみろ」
 湿っぽい気分になるのが嫌ですぐさま腰を上げ、個室から出る。
 個室の外にある小便器にはスーツ姿のサラリーマンが一人で用を足していて、手を洗うために手洗いの上にある出っ張りに骨壷を置くエイトをちらっとみて、驚いた表情をした。
 エイトは構いもせず洗った手の雫を払って、骨壷を脇の下で抱える。
「ほんじゃあまあ、行くか」
 うっすら笑って、眩しい外を目指して歩き出した。

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