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おまけのバットゥータ おかわり
176:君はそれだけのことをした。子供であっても許されない。そこはちゃんと自覚して
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「どうしよう。お父さん。ボク、バットゥータに嫌われてしまったよっ。ボク、お父さんみたいに過去を背負っていないから、バットゥータに見せられるものがないよっ」
『そんなことないよ。正しい恋への向き合い方を覚えた』
「でも、でもっ。言っちゃいけないことを言ってしまったんだ。アドリー父様のことがずっと好きなんでしょ。いつまでも忘れられなくて気持ちが悪いって」
『バットゥータの気持ちを知ったのは、薬を盛ったとき?初恋の古傷をえぐったなら、こういう報復をされてても文句は言えないね。君はそれだけのことをした。子供であっても許されない。そこはちゃんと自覚して』
「はい」
とボクは素直に頷く。
『でもね、可能性が完全に絶たれたわけじゃないと思うよ。きっと、バットゥータはスレイヤーが恋だけじゃなく、あらゆる面で成長するのを待っている。君がちゃんと大人になって謝れたら、そこで初めて、バットゥータとスレイヤーの恋が始まるんじゃないかな?きっと、バットゥータは意地悪だから、君に館を継げ、伴侶を娶れって言ってくるけれど、アドリー父様だってあれしつこくやられたらしいし、それでも今、館はなんとかなっている。つまり、未来はまだ決まっていないから、どうにでもなる』
ここまで話し終えて、お父さんはクスクス笑い出した。
『あとね、さっきも言ったけれど、スレイヤーがいい男になれば、バットゥータは黙っていても寄ってくるから、しつこく言い寄らなくていい。いい距離感保って。これが、お父さんにできる最大の助言かな」
秋の終わりから春の初めまで、ボクはイスタンブールで過ごすのが恒例で、普段なら半年、西洋で働いているから半年自由にさせてよねと家業なんて、バットゥータがいるときだけ手伝って、彼がいないときは遊んでいたのだけど、心を入れ替えた。
ボクは好きな人と、あれ以来会っていない。
自分で思っていたほど面の皮は厚くなかったらしく、どうしても顔を合わせづらいのだ。
出来ることなら春に一緒に西洋に旅立ちたくないが、そこまでやってしまうと永久に会えなくなってしまいそうで、だから、今、帳簿の読み方や、質の良い品の仕入れ方法や交渉術などを、アドリー父様やお父さんに習って必死に彼に追いつく努力をしている。
それを聞きつけたのか、バットゥータからは一度、ロクムの差し入れがあった。
殴ってしまったとアドリー父様とお父さんに詫びに来たらしい。
悪いのはボクなのに。
結局、自分は何の責任も取れない子供なのだ、と痛感した。
ロクムには、白紙の手紙が添えられていた。
「頑張って」
なのか、
「成長するのを楽しみにしている」
なのか、
「もう、顔も見たくない」
なのか。
アドリー父様に相談したら、
「書き忘れじゃないか?」
とあっさり言われた。
いや、そんなことはず無いだろ!
好きな人と言葉も交わさないまま春になり、ボクは一緒の船に乗り込んだ。
マルキおばあちゃんの船は、大船団だから、海賊に襲われる心配は無いし、凪の季節に船を出すので、スピードは遅いが嵐に巻き込まれる可能性もほとんどない。
だからいつもは少しの間、実家を離れるぐらいの感覚だったけれど、今回は、アドリー父様とお父さんに見送られるのは、ちょっと堪えた。
十代を過ぎて、初めて彼らのちゃんとした息子でいられた気がするからだ。
船が外洋に出ると、ボクら商人は何もすることがない。
必然と船室にいることが多くなるのだが、その間、ずっとバットゥータと一緒だ。
船室は子供の頃から同室だったので、今更別にして欲しいとは言えない。
業務的な会話は幾つかしたが、くだけたのはまだだ。
そのまま夜になり、皆、寝静まってしまった。
二人きりの船室は、ランプの明かりが一つきり。
船が波で揺れると、明かりもゆらゆらと揺れる。
カチコチになって寝台に横たわっているボクにバットゥータが話しかけてきた。
『そんなことないよ。正しい恋への向き合い方を覚えた』
「でも、でもっ。言っちゃいけないことを言ってしまったんだ。アドリー父様のことがずっと好きなんでしょ。いつまでも忘れられなくて気持ちが悪いって」
『バットゥータの気持ちを知ったのは、薬を盛ったとき?初恋の古傷をえぐったなら、こういう報復をされてても文句は言えないね。君はそれだけのことをした。子供であっても許されない。そこはちゃんと自覚して』
「はい」
とボクは素直に頷く。
『でもね、可能性が完全に絶たれたわけじゃないと思うよ。きっと、バットゥータはスレイヤーが恋だけじゃなく、あらゆる面で成長するのを待っている。君がちゃんと大人になって謝れたら、そこで初めて、バットゥータとスレイヤーの恋が始まるんじゃないかな?きっと、バットゥータは意地悪だから、君に館を継げ、伴侶を娶れって言ってくるけれど、アドリー父様だってあれしつこくやられたらしいし、それでも今、館はなんとかなっている。つまり、未来はまだ決まっていないから、どうにでもなる』
ここまで話し終えて、お父さんはクスクス笑い出した。
『あとね、さっきも言ったけれど、スレイヤーがいい男になれば、バットゥータは黙っていても寄ってくるから、しつこく言い寄らなくていい。いい距離感保って。これが、お父さんにできる最大の助言かな」
秋の終わりから春の初めまで、ボクはイスタンブールで過ごすのが恒例で、普段なら半年、西洋で働いているから半年自由にさせてよねと家業なんて、バットゥータがいるときだけ手伝って、彼がいないときは遊んでいたのだけど、心を入れ替えた。
ボクは好きな人と、あれ以来会っていない。
自分で思っていたほど面の皮は厚くなかったらしく、どうしても顔を合わせづらいのだ。
出来ることなら春に一緒に西洋に旅立ちたくないが、そこまでやってしまうと永久に会えなくなってしまいそうで、だから、今、帳簿の読み方や、質の良い品の仕入れ方法や交渉術などを、アドリー父様やお父さんに習って必死に彼に追いつく努力をしている。
それを聞きつけたのか、バットゥータからは一度、ロクムの差し入れがあった。
殴ってしまったとアドリー父様とお父さんに詫びに来たらしい。
悪いのはボクなのに。
結局、自分は何の責任も取れない子供なのだ、と痛感した。
ロクムには、白紙の手紙が添えられていた。
「頑張って」
なのか、
「成長するのを楽しみにしている」
なのか、
「もう、顔も見たくない」
なのか。
アドリー父様に相談したら、
「書き忘れじゃないか?」
とあっさり言われた。
いや、そんなことはず無いだろ!
好きな人と言葉も交わさないまま春になり、ボクは一緒の船に乗り込んだ。
マルキおばあちゃんの船は、大船団だから、海賊に襲われる心配は無いし、凪の季節に船を出すので、スピードは遅いが嵐に巻き込まれる可能性もほとんどない。
だからいつもは少しの間、実家を離れるぐらいの感覚だったけれど、今回は、アドリー父様とお父さんに見送られるのは、ちょっと堪えた。
十代を過ぎて、初めて彼らのちゃんとした息子でいられた気がするからだ。
船が外洋に出ると、ボクら商人は何もすることがない。
必然と船室にいることが多くなるのだが、その間、ずっとバットゥータと一緒だ。
船室は子供の頃から同室だったので、今更別にして欲しいとは言えない。
業務的な会話は幾つかしたが、くだけたのはまだだ。
そのまま夜になり、皆、寝静まってしまった。
二人きりの船室は、ランプの明かりが一つきり。
船が波で揺れると、明かりもゆらゆらと揺れる。
カチコチになって寝台に横たわっているボクにバットゥータが話しかけてきた。
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