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おまけのバットゥータ おかわり

173:……してもらえなかった

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 暗い道で一人笑うのが虚しい。
 十歳を過ぎてから、半年を西洋、半年をこの国で過ごしてきた。
 実の父と養父と、育ての父。
 そして、母親の影は無し。
 少し特殊な環境で育ったせいか、周りの子供とは少し違うとボクは思っていて、それは優越感と劣等感がない混ぜになった困ったものだった。
 仕方なく、館の方へと足を向ける。
 鼻血はなかなか止まらない。
 そろそろ、血が絞れるそうなぐらいだ。
 高台のベンチまで行く途中、息せき切って走ってくる人がいた。
「うわあ。ローマのララだ」
 ボクはげんなりした気分になった。
「これはボクの恋の問題なのに、どうして、こう、うちの大人たちは出しゃばってくるのかな」
 きっと、バットゥータが宿を使うと言付けたのを聞いて、不穏なものを感じたんだ。
「親の勘って百発百中だなあ」
とボクは他人事とのように言っていた。
 真っ赤なタオルを鼻に押し当てていると、側にやってきたローマのララが声にならない悲鳴を上げる。
 疲れやすい体質だから、この人はあまり走らない。
 仕事が立て込むと、終わった後、たまに寝込むときもある。 
 炎天下や寒いところも苦手だ。
 まるで大切に育てられた花みたいな人。
 それが、ローマのララへの僕の印象。
 なのに、こめかみに汗のしずくを浮かべていた。
 息だって上がっている。
 どう見たってバットゥータの方が健康的で魅力があるのに、アドリー父様はローマのララにベタ惚れ。
 館でもこっそりイチャイチャしているけれど、みんな、気付いている。
 ファトマなんて、「あらあら」と言ってボクに目隠ししてくるぐらい。
 それぐらい、バレバレなのだ。
 だから、恋が上手くいってないボクは、そんな二人がムカついてしょうがない。
 この心配する様子だって、余裕からくるもんでしょって捻くれたことを思ってしまう。
「大丈夫。もう止まりそうだし」
と言ったのに、ローマのララは近所に駆け込んでタライで水を貰ってボクにむりやり顔を洗わせた。
 あれ?タライの水まで真っ赤。
 かなりひどい顔でボクは歩いていたようだ。
 タライをくれた家の軒先でローマのララは少しボクを休ませ、新しいタオルを一枚恵んでもらい、ボクの鼻に押し当ててくる。出血量はもうかなり少なくなっていた。
『どうしたの?喧嘩?』
 ローマのララは、自分の唇に指を当て読むように言ってくる。
「かなあ?」とボクは興味なさげに首を傾げる。
『相手はバットゥータ?』
 破けた長衣を見て、ローマのララはボクの長衣の裾までめくり上げ確認しようとする。
 だから、ボクは裾を押さえ、
「してない」
と言った。
「……してもらえなかった」
 現状を正直に言ったら、何だか、目頭が熱くなった。
 情けない。
 ボクって、泣こうが裸になろうが、何の魅力も無いんだ。
 いつまでも他人の家の軒先にいられないからと言って、ローマのララはボクを高台の石のベンチに連れていき座らせ、隣に腰掛ける。
「ボクはそんなにダメかなあ」
 弱音を吐けば、ローマのララはボクの頭を撫でてくれるだろうなと思ったのだが、
『スレイヤーは、前回の件、バットゥータが心の底から許してくれたと思っているの?』
 予想外に厳しいことを言われ、ボクはさらに落ち込んだ。
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