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第九章
151:おう。こんな小柄な身体でよければな
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「お前が、随分前に宿に紙の束を忘れていったことがあったろ?そのときに、一枚拝借した。オレはローマ語が読めないから他の奴に訳して貰って、あ、そいつは、信用出来るやつだからな。で、手紙の下書きはそのままバットゥータに渡した」
『喧嘩しているせに、何なの、その連携』
と小鳥が少しむくれる。
「で、何て書いてあるんだ?教えてくれよ」
小鳥が唇を震わせながら言う。
『何もわからない年齢のときに、無理にカストラータにしてしまって……ごめんって。ずっと後悔しているって。そして、いつか、会いたいって』
そこまで言うと、小鳥は息が吸えなくなってしまったらしい。
そのまま、アドリーの部屋を飛び出していく。
「おい!待てって」
慌てて杖を手繰り寄せ、ソファーから立ち上がる。
館を出ても、小鳥の姿は見えない。
「どこ行った、あいつ」
心の動揺はあると予想はついていたんだから、隣に座らせて手でも押さえておけばよかった。
アドリーは夜のイスタンブールを見回した。
小鳥は騒がしい性格ではないし、酒も飲まないので、用がない限り街中には近づかない。
「だったら、あっちか?」
アドリーは高い台のベンチへと向かう。
そこに、小鳥が顔に手紙を押しあて泣いていた。
「やっと、追いついた」
とアドリーは隣に座る。
慰めたい相手になかなかたどり着けないなんて情けない、と思いながら小鳥の背中を撫でた。
「まず、謝らせろよ。勝手にこんなことをして悪かった。恨んでいいからな。けどさ、ニ十枚近くお前、出せない手紙を書いてたから、背中を押してやりたかったんだ」
ようやく小鳥が顔を上げてくれた。
『僕、……どうしよう』
その顔は、子供に戻ってしまったように不安げだ。
「気持ちが落ち着いたら、返信してみれば?」
『……うん』
「たくさん気持ちを伝えあって、もう、大丈夫と思えたら会いに行ってみたら?マルキの船団は春と秋に出ているんだし、もっと急ぎたいなら他の船だって」
『うんっ』
小鳥が涙を拭いながら頷く。
アドリーはその様子を見ながら本音を伝えた。
「いい親じゃねえか。大抵、謝りはしないぜ。お前が小鳥になったことを誇りに思うとかって勘違いの自己弁護をするのがオチ。でも、お前の両親は謝っている。きっと、いい人なんだ」
『アドリー様』
「どした?」
『今だけ、肩を貸して』
「おう。こんな小柄な身体でよければな」
小鳥はさめざめと泣き始める。
『アドリー様はっ、小さくないよっ。だって、存在がっ、でかいっ』
と喜ばしくない褒め言葉を切れ切れに言いながら。
「言うね。お前。まるで昔みたい。オレが何か言うと、よく言い返してきてたよな」
小鳥が顔を上げる。
『昔?……え?』
「オレが足が痛む夜、お前、宿で歌ってくれるだろ?必ず戻ってきて」
『僕……歌なんて』
小鳥はこの後に及んで嘘をつこうとしたので、頬を軽く抓る。
「もう何年も前に、バットゥータがバラしているから観念しろ」
『ええっ!そんな前から?』
『喧嘩しているせに、何なの、その連携』
と小鳥が少しむくれる。
「で、何て書いてあるんだ?教えてくれよ」
小鳥が唇を震わせながら言う。
『何もわからない年齢のときに、無理にカストラータにしてしまって……ごめんって。ずっと後悔しているって。そして、いつか、会いたいって』
そこまで言うと、小鳥は息が吸えなくなってしまったらしい。
そのまま、アドリーの部屋を飛び出していく。
「おい!待てって」
慌てて杖を手繰り寄せ、ソファーから立ち上がる。
館を出ても、小鳥の姿は見えない。
「どこ行った、あいつ」
心の動揺はあると予想はついていたんだから、隣に座らせて手でも押さえておけばよかった。
アドリーは夜のイスタンブールを見回した。
小鳥は騒がしい性格ではないし、酒も飲まないので、用がない限り街中には近づかない。
「だったら、あっちか?」
アドリーは高い台のベンチへと向かう。
そこに、小鳥が顔に手紙を押しあて泣いていた。
「やっと、追いついた」
とアドリーは隣に座る。
慰めたい相手になかなかたどり着けないなんて情けない、と思いながら小鳥の背中を撫でた。
「まず、謝らせろよ。勝手にこんなことをして悪かった。恨んでいいからな。けどさ、ニ十枚近くお前、出せない手紙を書いてたから、背中を押してやりたかったんだ」
ようやく小鳥が顔を上げてくれた。
『僕、……どうしよう』
その顔は、子供に戻ってしまったように不安げだ。
「気持ちが落ち着いたら、返信してみれば?」
『……うん』
「たくさん気持ちを伝えあって、もう、大丈夫と思えたら会いに行ってみたら?マルキの船団は春と秋に出ているんだし、もっと急ぎたいなら他の船だって」
『うんっ』
小鳥が涙を拭いながら頷く。
アドリーはその様子を見ながら本音を伝えた。
「いい親じゃねえか。大抵、謝りはしないぜ。お前が小鳥になったことを誇りに思うとかって勘違いの自己弁護をするのがオチ。でも、お前の両親は謝っている。きっと、いい人なんだ」
『アドリー様』
「どした?」
『今だけ、肩を貸して』
「おう。こんな小柄な身体でよければな」
小鳥はさめざめと泣き始める。
『アドリー様はっ、小さくないよっ。だって、存在がっ、でかいっ』
と喜ばしくない褒め言葉を切れ切れに言いながら。
「言うね。お前。まるで昔みたい。オレが何か言うと、よく言い返してきてたよな」
小鳥が顔を上げる。
『昔?……え?』
「オレが足が痛む夜、お前、宿で歌ってくれるだろ?必ず戻ってきて」
『僕……歌なんて』
小鳥はこの後に及んで嘘をつこうとしたので、頬を軽く抓る。
「もう何年も前に、バットゥータがバラしているから観念しろ」
『ええっ!そんな前から?』
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