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第九章

148:出せない手紙のようだ

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 絶対に自分に頼んでくるだろうなと思ったとバットゥータは思っていたらしく、意外だという顔をした。そして、面白くないという表情がそこに加わる。
 バットゥータが紙に目を落とし、たどたどしいながらも、全文を読み上げていく。

 拝啓。
 お父さん、お母さん。
 お元気ですか?
 急に連絡が途切れてしまってごめんなさい。
 去勢手術が実は失敗していて、小鳥ではいられなくなってしまって、ただの恥ずかしい存在になってしまったから、連絡できなかったんだ。
 昼の小鳥、夜の小鳥と両方こなして、褒美もたくさん貰ったはずなんだけれども、きっと送金はされていないよね。
 僕は馬鹿だからプロフに騙されて、最後にはこの国に置き去りにされてしまったんだ。
 さらには、子供までできてしまって。
 どんな子供でも見たかったかな?
 すぐに死んでしまったけれど。
 こんな不格好な僕の身体にまだ子種があって、女の人を孕ませられるなんて思いもしなかった。一瞬でも僕の血を分けた子がこの世で産声を上げたなんて、気持ちが悪くてしょうがない。
 ごめんね。こんなの、親に向けて書く手紙じゃないね。
 
 読み終えて、バットゥータが顔を上げる。
「どうしたんですか?これ?」
「小鳥が宿に忘れていった紙の束を何気なく見たら、書かれてあった。出せない手紙のようだ」
「いくら命を救ったからといって、人の手紙を勝手に読むのは」
「んなことは、百も承知だ。でも、同じようなのが二十枚近くあった。紙の色があせているのとそうではないのがあるから、思いついたときにあいつは書いているようだ」
「へええ」
 バットゥータは不機嫌そうな声を出す。
「バットゥータ。使って悪いがこっちに来てくれ」
「何です?」
「いいから」
 アドリーはぎりぎりまでバットゥータを引き寄せる。
 首を傾け、
「渡したいものは唇---ではなくてな」
 懐からさっと紙を取り出して、バットゥータの顔に叩きつける。
「痛ってえ」
「お前は、身体が合わねえからオレを捨てるって言った人でなしだから、それぐらい耐えろよ」
「んな、横暴な」
 顔から紙を引き剥がしたバットゥータの時が止まった。
 ただじっと渡された物を眺めている。
「マルキの船団は、次は春には出る。行きたきゃ行ってこい。西洋に行くとしたら、その紙、あった方がいいだろ?」
「別に、自由民じゃなくたって異国には行けるでしょうが!」
 バットゥータが貰った紙をくしゃっと握りしめ震わせながら言う。怒っているようだ。
「確かに、俺は、おばあの貸付金の回収の旅についていきたいとは言いましたよ?でも、そのために自由民になりたいなんて一言も、言ってねえしっ!」
「誰かの使用人として行くより、格段に動きやすいだろ?それに、お前に見合った身分も用意しておいた」
「それは、もっと要らないっ!!」
「金で買える身分とはいえ、そこそこいい値段した。長年勤めてくれたことへの礼だ」
「俺にはもうこの館に居場所は無いってことですか?」
「通常なら、な」
「信じられないっ!!」
「お前、自由になったんだ。好きな場所に家を借りられるし、商売もできる。異国に行ったって、自分の商用で来たんだって胸を張れる」
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