上 下
146 / 183
第九章

145:また、乱れちまった

しおりを挟む
 香がどんどん効いてきて、いないはずのバットゥータまでアドリーの脳内に登場してきて、小鳥と入れ替わる。
 尻の穴をこれでもかと広げられ、喘がされる。
 何本も指を沈められ、内部をこねくり回されるうちに、それが指なのか性器なのか分からなくなってくる。
 ただ、痛みはない。
 違和感もない。
 だから、全身を委ねられる。
 恥ずかしくて堪らないが、とても気持ちのいい行為だ。
 だって、これは間違いとは思わない。
 違和感がないからだ。
 求められた後は、求める。
 それは正解だと、夢現の中でアドリーはわかっている。
 しかし、唇をねだろうとすると、そこに人差し指を当てられた。
 目が霞んで、それをしているのがバットゥータなのか、小鳥なのかわからない。
 はっきりしているのは、かつて、自分もこうやって誰かに同じことをしたということだ。

 翌朝、目覚めると身体は綺麗に拭かれていた。
 部屋は空気が入れ替えられていて、香炉は使った形跡もないぐらいに掃除されていた。
 小鳥は明け方、全ての始末をして帰って行ったのだろう。
 一人部屋に残され、虚しさが募る。
「また、乱れちまった」
 アドリーは髪をかきむしりながらぼやく。
 小鳥とスレイヤーが館にやって来て半年。多くのことが少しずつ進み始めてはいる。
 薬商の老人が使っていたグランバザールの店は、小鳥が手に入れ、引き続き、薬屋として営業している。
 館の方は、西洋式の看護指導ができる医者が見つかって、女奴隷の希望があればそっちの勉強を重点的にやらせている。どうしても向かないものは刺繍や料理など何かしらに技術が飛び抜けている者が多いので、それを生かせる道を考え中だ。
 小鳥は医者と患者を繋ぐ速記兼通訳に周り、日中はそっちで忙しく、夜はアドリーの足が痛めば宿に顔を出す。
 スレイヤーの世話はほとんどできず、ファトマに任せっぱなし。
 触れられない自分に落ち込んで、たまにアドリーに泣き言を言う。
 肝心のバットゥータは、マルキの元に週三で通い、週四はアドリーの館に。館の方は、ファトマやその他の古株を使いそつなく回している。恋に破れる経験は初だろうし、仕事の方だけでもなんとか上手くやろうと必死なのかもしれない。 
 ほとんど話すことが無くなったので、いつ休んでいるのかは不明だ。
 アドリーとバットゥータに訪れた精神的な別れは、やっぱり綺麗にはいかず、なんとなく距離が出来ているのが現状だ。 
「人生の円みたいなものがあるとしてさ、それはデカくなったけど、やっぱりおんなじ場所をぐるぐるしている気がする」
 どうやったらそれを突き抜けることができるのだろう?
 これまで、現状維持が最上の策と思っていたが、最近考え方が変わってきた。
 バットゥータの精神的な成長や、小鳥との再会、それも大いにあるが、やはり、スレイヤーという未来の当主に館をいずれ譲るということを考え始めたのが大きなきっかけだ。
 アドリーは自分の足を軽く叩く。
「この足を診られる医者がいれば、かかるつもりではいるんだが」
 しかし、西洋まで医者を探しに行くというバットゥータには賛成できない。
 異国は遠い。
 心が離れてしまった今、バットゥータの姿も見ることができなくなってしまったら、自分はどうしたらいいんだ。
「はあ。鬱陶しい」
 そこまで考えて、アドリーは杖を手繰り寄せ立ち上がる。
 ふと、机の上にある紙の束に目が止まった。
 小鳥が忘れていったらしい。
「館で渡すか」
と紙の束をパラパラとめくる。
 書いてあるのは、医者の言葉をそのまま訳したものだと思われる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...