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第八章

136:小鳥との逢瀬、どうでした?

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「小鳥との逢瀬、どうでした?」
 バットゥータは真顔だ。
「逢瀬??」
「さっき、抱き合っていたじゃないですか」
「お前、見てたの?オレは、あいつが結構考えているのを知って抱擁してやっただけ。スレイヤーにもなんとか近づこうとしてたし。で、お前は?」
「あいつに用があって。グランドバザールの薬商のじいさんの店、居抜きで空くそうなんです。資金はふんだんにあるんだし、多少積んでも押さえといたほうがいいぞっていう情報提供が一つ。あと、その見返りに、あんたから、アドリー様がブチ切れる件を上手く伝えてくんねえかなって言いに」
「グランドバザールが一区画開く?そりゃいいな。で、わざわざ、小鳥経由でオレは何を聞かされようとしていたんだ?」
 すると、バットゥータが意地悪げに笑う。
「おばあのところに修行に行かせてもらおうと思って」
 その瞬間、本当に目の前で何かが切れた気がした。
 気が付いたときには、時すでに遅し。
 バットゥータを引っ叩いた後だった。
「---っっっ」
「悪い。バットゥータッ。オレ……」
 呆然としていると、バットゥータが今度は満足そうに笑う。
「頭がおかしくなったのか?お前、今、殴られたんだぞ?」
「アドリー様は奴隷も使用人も殴らないって、固く心に決めてますよね。それを破ってまでの殴打なんて、勃ちます」
「阿呆が」
 殴った頬に手を当てると、そこにバットゥータがさらに自分の手を当ててきた。
「マルキのところに修行に行くって聞こえたんだが?お前はこの館のバシュ(室長)になったばかりなんだぞ?早々と放棄か?」
「サフィア妃への面会を頼みに行ったとき、おばあが俺を修行に出させなと言ったこと、ずっと気にしてたんでしょう?だから、俺を急にバシュにした」
「そうだよ。悪いかよ。でも、前々から考えてはいた」
 アドリーはバットゥータの長衣の襟を掴んで揺さぶった。
「なれる実力はあっても、年齢的にまだ早いと思っていたはず。バシュが若すぎると、周りは言うこと聞きません」
「お前ならできるだろ?オレの使用人なんだから」
「嬉しい」
 猫みたいにバットゥータが頬を擦り寄せてくる。
「だから、おばあのところに行くのは週三で」
「何が、だからなんだよ。騙されねえぞ!お前は一生、この館のバシュだ!」
「一生ときたか。じゃあ、俺、死ぬまであなたの使用人ですか?」
「そうだ。絶対に解放しない」
「子供」
「何だとっ!?」
と言い返す前に唇を塞がれた。
「おばあのところでは、学べることがいっぱいあります。ユダヤの商法。あとは、語学も」
「語学?!」
「小鳥から、本格的な西洋の診療所を開けたらいいのにと、相談を受けました。だとしたら、言葉が分かる者がもっといないと。小鳥から読み書きは習い始めたのですが、発音は無理ですし。おばあのところには、ローマ人はもちろん、ユダヤ人もいれば他のもいます。一緒に働きながら、語学も学べたらと思って。もちろん、新体制になった館が上手に回るようになってからです。俺がいない日は、ファトマだけでも大丈夫なようにしていきますんで」
「つまり、この館のために、お前はマルキのところに週三で行くって?」
「それに、週四はアドリー様の側にいますよ」
「週七でいろっ!」
 ごねると、また唇を塞がれた。
「参ったなあ。ここまでとは」
「嬉しいだろ?なあ?」
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