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第八章
133:ファトマ。俺だったら、この逞しい胸で泣かせてやれるぞ
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「ファトマ。離れてやれって。そいつ、接触が苦手なんだ」
その言葉に、アドリーはこの男は、本当に優秀だと今更ながらに感心する。
マルキが欲しがるのも分からなくはない。
ユダヤの商人は、皆、揃いも揃って優秀だが、バットゥータならそれを超えるかもとすら思ってしまう。
そんな姿を見てみたいが、それは手放すのと同意。
鳥籠から出した鳥が二度と戻ってないように、バットゥータという男も戻っては来ない。
手放したら最後。
それを、アドリーはよく分かっている。
先程は、ファトマに抱きつかれている小鳥のことで胸を苦しくし、今度はバットゥータことで。アドリーの胸の内は忙しい。
『……いいよ。……背中だったら貸せる』
口術の助けを求めて小鳥が振り返った。
「無理するな」と言ってもよかったのだが、
「小鳥が背中を貸すから思いっきり泣けって」
と素直に伝えてしまった。
「うあああああん。小鳥様」
ファトマが泣き始めると、柔らかな物体が背中にくっつくのに未だ慣れないのか、小鳥は背中のを反らせるようにして耐えている。
「ファトマ。俺だったら、この逞しい胸で泣かせてやれるぞ」
バットゥータが、からかいながら割り込もうとすると、
「う、ひっく。バットゥータはいらない」
とファトマは、邪魔だと言わんばかりに手で払ってくる。
「何だと!てめえ」
「そういうとこよ。馬鹿」
暗かった広間は、二人の掛け合いで最後には笑いに包まれた。
小鳥が探してきた医者は若い白人の医者で、ファトマが長年悩んでいた皮膚病を十日もたたずに綺麗に治してしまった。
診察室は、男の使用人や奴隷たちが使う部屋で余っている一番広い部屋を貸し出した。
この国では、女が医者にかかるためでも男の家に行くのは憚られることなので、来てもらうしかないのだ。異国の男ならなおさらだ。
この風習のせいで、異国の医者は太守や大きな商家に雇われるしかなく、街中に医院を開いても余り流行らない。
診察は、短い時間で済んだ。
医者が喋る言葉を、小鳥が紙に書き出しファトマに伝える。
文字が読めるファトマは、読んだ上で医者に質問する。
すると、小鳥が文字を書いて医者に知らせる。
先日、診察を受けるファトマを、アドリーはバットゥータと共に見ていた。
バットゥータは頭が回るので、アドリーが思いつくことは彼も思いついているだろうが、問題点や案を一つも出さなかった。
これは珍しい。
もしかしたら、バシュの仕事が疎かになるから小鳥のやることには口出ししないと決めたのかもしれない。
だったら、アドリーが自分であれこれ考え、小鳥に指図するしかない。
「文字をあいつがいくら早く書けても、異国の言葉が分かるのが小鳥しかいないから、患者が増えてきた場合、時間がかかるのが難だな」
診察の気になる点を思い出しながら、アドリーは広間へと向かう。
「患者が文字が読めなければ、さらにそれを訳す者も必要となるだろうし」
広間の扉を開けると、たすき掛けした白い布でスレイヤーを包んだファトマが満面な笑顔であやしていた。
側には小鳥がいて、思い詰めた顔でファトマに手を差し出している。
スレイヤーを抱こうと挑戦しているらしい。
ひどい経緯でこの世に生まれてきたスレイヤーのことを、小鳥が愛することは無いだろうと思っていたのだが、見えないところでこうやって努力をしていた。
そして、この行為は、アドリーが気づかなかっただけで、何度も何度も繰り返されてきた小鳥なりの挑戦だったのかもしれない。
その言葉に、アドリーはこの男は、本当に優秀だと今更ながらに感心する。
マルキが欲しがるのも分からなくはない。
ユダヤの商人は、皆、揃いも揃って優秀だが、バットゥータならそれを超えるかもとすら思ってしまう。
そんな姿を見てみたいが、それは手放すのと同意。
鳥籠から出した鳥が二度と戻ってないように、バットゥータという男も戻っては来ない。
手放したら最後。
それを、アドリーはよく分かっている。
先程は、ファトマに抱きつかれている小鳥のことで胸を苦しくし、今度はバットゥータことで。アドリーの胸の内は忙しい。
『……いいよ。……背中だったら貸せる』
口術の助けを求めて小鳥が振り返った。
「無理するな」と言ってもよかったのだが、
「小鳥が背中を貸すから思いっきり泣けって」
と素直に伝えてしまった。
「うあああああん。小鳥様」
ファトマが泣き始めると、柔らかな物体が背中にくっつくのに未だ慣れないのか、小鳥は背中のを反らせるようにして耐えている。
「ファトマ。俺だったら、この逞しい胸で泣かせてやれるぞ」
バットゥータが、からかいながら割り込もうとすると、
「う、ひっく。バットゥータはいらない」
とファトマは、邪魔だと言わんばかりに手で払ってくる。
「何だと!てめえ」
「そういうとこよ。馬鹿」
暗かった広間は、二人の掛け合いで最後には笑いに包まれた。
小鳥が探してきた医者は若い白人の医者で、ファトマが長年悩んでいた皮膚病を十日もたたずに綺麗に治してしまった。
診察室は、男の使用人や奴隷たちが使う部屋で余っている一番広い部屋を貸し出した。
この国では、女が医者にかかるためでも男の家に行くのは憚られることなので、来てもらうしかないのだ。異国の男ならなおさらだ。
この風習のせいで、異国の医者は太守や大きな商家に雇われるしかなく、街中に医院を開いても余り流行らない。
診察は、短い時間で済んだ。
医者が喋る言葉を、小鳥が紙に書き出しファトマに伝える。
文字が読めるファトマは、読んだ上で医者に質問する。
すると、小鳥が文字を書いて医者に知らせる。
先日、診察を受けるファトマを、アドリーはバットゥータと共に見ていた。
バットゥータは頭が回るので、アドリーが思いつくことは彼も思いついているだろうが、問題点や案を一つも出さなかった。
これは珍しい。
もしかしたら、バシュの仕事が疎かになるから小鳥のやることには口出ししないと決めたのかもしれない。
だったら、アドリーが自分であれこれ考え、小鳥に指図するしかない。
「文字をあいつがいくら早く書けても、異国の言葉が分かるのが小鳥しかいないから、患者が増えてきた場合、時間がかかるのが難だな」
診察の気になる点を思い出しながら、アドリーは広間へと向かう。
「患者が文字が読めなければ、さらにそれを訳す者も必要となるだろうし」
広間の扉を開けると、たすき掛けした白い布でスレイヤーを包んだファトマが満面な笑顔であやしていた。
側には小鳥がいて、思い詰めた顔でファトマに手を差し出している。
スレイヤーを抱こうと挑戦しているらしい。
ひどい経緯でこの世に生まれてきたスレイヤーのことを、小鳥が愛することは無いだろうと思っていたのだが、見えないところでこうやって努力をしていた。
そして、この行為は、アドリーが気づかなかっただけで、何度も何度も繰り返されてきた小鳥なりの挑戦だったのかもしれない。
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