上 下
127 / 183
第七章

126:下着を脱いじゃったから、く、臭いと思うし。その、興奮したら尿だって漏れちゃうから。だから、来ないで

しおりを挟む
『二回、去勢手術を受けさせられたんだ。一回目は、七歳のとき。二回目は十五歳のとき。二回目はどう考えも必要のない手術だった。だって、その時、もう声変わりが始まっていたんだもの』
 鼻が垂れてきて、拭う。
『アフメト一世が言っていた。マッティオは、闇医者を使っているって。僕もそいつにやられたんだと思う。ただでさえ短かった性器をほとんど切り取られちゃった。でも、女を孕ますことはできるんだよ。尿は出きらなくて漏れてくるし、自慰だってまともに出来ないくせに』
 僕は立っていられなくて、その場に膝を付いた。
 そして、うずくまる。
 息が上手く吸えない。
「小鳥。もう、いいから」
『よくないよ!』
 僕は、涙と鼻水だらけの顔で言った。
『アドリー様はずっと、赤ん坊をこさえた僕を軽蔑していた。でも、僕は、ムルサダの娘に誘われてすらいない。男奴隷らを三人引き連れて僕の房にやってきて、仰向けにした僕を一人が足を押さえ、もう二人が手を抑えるんだ。嘘じゃない。彼らの名前だって言える。そして、ムルサダの娘は僕の不出来で不細工なここに無理やり乗るんだ。おかしなことに、僕のここ、あふれるほど精液が出るんだ。二回も去勢手術を受けているから孕ませることなんてないと思ってたのに、あいつがっ、勝手にっ、生まれていたっ!!』
 アドリーにだけは、絶対に告げたくない真実だった。
 でも、言った瞬間、僕は体重が一気に十キロは軽くなった気持ちになった。
 それだけ、僕が抱えていたものは重かったらしい。
 走ったわけでもないのに、はあ、はあと息が弾む。
 アドリーの表情を伺うと、彼は呆然としていた。
 そして、頭を抱え天井を見上げながら、
「……ごめん……な」
とかすれ声で言った。
「オレは、勝手な妄想でお前が……」
 僕はアドリーがこっちを見てくれるのを待って口を開いた。
『アドリー様は、一度でも奴隷になったことがないから、知らなくて当然』
 すると、アドリーが思うことがあるというような気まずそうな顔をした。
 やがて、僕に向かって両手を広げる。
 僕らの距離は大人の背丈一人分は離れているので、届きはしない。
「小鳥、ちょっとこっち来て。オレがそっちに行くのが道理だろうが、杖がな」
 アドリーが寝台の方を見る。
 座っている位置から少し遠い場所に、杖が転がっていた。
「来てくんねえかのか。じゃあ、オレが這って行くか」
 本当にアドリーが動き始めたので、僕は座ったまま後退した。
『よくない。下着を脱いじゃったから、く、臭いと思うし。その、興奮したら尿だって漏れちゃうから。だから、来ないで』
「別に、オレ、気にしないし」
『僕が気にすっ、あっ』
 長衣の裾を捕まれ、僕は逃げられなくなった。
 アドリーの腕の力はかなり強く、身長差があるのに、僕は彼に引き寄せられてしまう。
 そして、抱き寄せられた。
『だから、匂いがっ』
「黙れって」
 どうやっても逃げ切れないことが分かって、僕はアドリーの肩に額をくっつけた。
 まるで、十一歳のラシードに出会ったような懐かしい気分だった。
「考えたくないだろうが」
とアドリーが前置きした。
「現実問題、赤ん坊はこに世にいる。どうする?あいつだけでもローマへ届けるか?」
 僕は顔を上げ、言った。
『どうしていいのか分からない』
「この国で養子に出すって手もあるけれど。後は……。ま、今日、明日、急いで出す結論じゃねえな」
『僕は、この館にいていい?』
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...