上 下
126 / 183
第七章

125:自分がうまくいったから、僕もうまくいくって?僕はそこまで割り切れないよ

しおりを挟む
『帰らない』
と僕は首を振った。
「お前、まだそれ言うか」
『理由を……聞いて欲しい』
「理由?」と問い返すアドリーは面倒くさそうだったが、
『僕、話をするのが上手じゃないから、長くなると思う。途中で怒らせちゃうかもしれない。でも、聞いて欲しい』
と必死に訴えかけると、「おう。話せ」と渋々言ってくれた。
『僕、こんな身体だから、ローマに帰りたくないって言った。でも、それは、帰りたくない理由の一割ぐらい。僕が小鳥になったのは七歳のときで、望んで小鳥になったんだと思っていた』
 途中で「何、当たり前のことを言ってるんだ?」とアドリーは口を挟んでくるのかと思ったが、真剣に耳を傾けてくれた。
『でも、ずっと心はモヤモヤしていた。小鳥になるのを勧めてくれたのは、聖歌隊の偉い人と両親で、僕の家は兄弟がたくさんいて貧しくて、小鳥になるしかない、そのためには去勢手術を受けるしかないと小さい頃から言われてきた。ずっとそれが正しかったんだと思ってたんだけど、この国に置き去りにされた十八歳のときに、誘導され思い込まされてたんだって気づいたんだ。それは、まるで神の啓示を受けたかのようだった。どうしてこんな単純なことに気づかなかったんだろうって、自分にびっくりした。去勢手術を自分の意志でするんだよね?と何度も確認は取られたけれど、どうやっても七歳じゃ判断できないよ。男の象徴がなくなるってどんな気分なのか、背ばかり大きくなって筋肉のつかない身体がどういうものなのか。きっと両親だって、聖歌隊の偉い人だって知らなかったと思う。だって、彼ら小鳥になったことないんだもの。だから、その……僕の言いたいことは終わり、です』
 そこで、急に沈黙がやってくる。
 アドリーが僕の顔をちらっと見て言う。
「親元に帰らなくても、国に帰るって方法もあるだろ?」
『僕、そんなに邪魔?』
「こんなことを、言いたくはないがな」
とアドリーが前置きしながら言った。
「お前を見ていると苦しくなるんだよ。まるで自分を見ているかのようで。オレも足を壊した母親のことを恨んできたし、和解できたのはつい最近」
『自分がうまくいったから、僕もうまくいくって?僕はそこまで割り切れないよ』
 絨毯にあぐらをかいていた僕は、かっとなって立ち上がる。
 そして、一瞬迷ったけれど、もう金輪際こんな機会は無いと思って、長衣の裾を少したくしあげ、宦官用にとバットゥータが用意してくれた下着を乱暴に脱ぎ去る。 
「何だよ、急……」
 僕は覚悟を決め、ギュッと目を瞑って腹の上まで長衣を上げると、下半身に視線が注がれたのが分かった。
 だから、ボクは薄い茂みを自らかき分ける。
 きっとアドリーの目にかろうじて映るだろう。
 僕の小指の先ほどしかない変わり果てた男の象徴が。
『見た?』
 口を動かすが反応は無い。
 きっと、驚きすぎて目が離せないのだ。
 僕は片足のつま先を上下させ、合図を送った。
『見た?』
「あ、ああ」
 返事があったので、長衣を戻した。
『アドリー様は、宦官が大勢いる宮廷にいたから、きっと、彼らの下半身を見たことがあるかもしれないね。それでも、驚くってことは、僕の性器が彼らよりかなり短いからだよね。もう、無いに等しいぐらいだよね』
 なんの言葉も返ってこなかった。
 慰めて欲しいわけじゃない。
 でも、男としてかわいそうだと同情はされたくない。
 いろんな感情が忙しくせめぎ合う。
『僕っ』
 ボタボタッと涙が溢れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...