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第七章
125:自分がうまくいったから、僕もうまくいくって?僕はそこまで割り切れないよ
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『帰らない』
と僕は首を振った。
「お前、まだそれ言うか」
『理由を……聞いて欲しい』
「理由?」と問い返すアドリーは面倒くさそうだったが、
『僕、話をするのが上手じゃないから、長くなると思う。途中で怒らせちゃうかもしれない。でも、聞いて欲しい』
と必死に訴えかけると、「おう。話せ」と渋々言ってくれた。
『僕、こんな身体だから、ローマに帰りたくないって言った。でも、それは、帰りたくない理由の一割ぐらい。僕が小鳥になったのは七歳のときで、望んで小鳥になったんだと思っていた』
途中で「何、当たり前のことを言ってるんだ?」とアドリーは口を挟んでくるのかと思ったが、真剣に耳を傾けてくれた。
『でも、ずっと心はモヤモヤしていた。小鳥になるのを勧めてくれたのは、聖歌隊の偉い人と両親で、僕の家は兄弟がたくさんいて貧しくて、小鳥になるしかない、そのためには去勢手術を受けるしかないと小さい頃から言われてきた。ずっとそれが正しかったんだと思ってたんだけど、この国に置き去りにされた十八歳のときに、誘導され思い込まされてたんだって気づいたんだ。それは、まるで神の啓示を受けたかのようだった。どうしてこんな単純なことに気づかなかったんだろうって、自分にびっくりした。去勢手術を自分の意志でするんだよね?と何度も確認は取られたけれど、どうやっても七歳じゃ判断できないよ。男の象徴がなくなるってどんな気分なのか、背ばかり大きくなって筋肉のつかない身体がどういうものなのか。きっと両親だって、聖歌隊の偉い人だって知らなかったと思う。だって、彼ら小鳥になったことないんだもの。だから、その……僕の言いたいことは終わり、です』
そこで、急に沈黙がやってくる。
アドリーが僕の顔をちらっと見て言う。
「親元に帰らなくても、国に帰るって方法もあるだろ?」
『僕、そんなに邪魔?』
「こんなことを、言いたくはないがな」
とアドリーが前置きしながら言った。
「お前を見ていると苦しくなるんだよ。まるで自分を見ているかのようで。オレも足を壊した母親のことを恨んできたし、和解できたのはつい最近」
『自分がうまくいったから、僕もうまくいくって?僕はそこまで割り切れないよ』
絨毯にあぐらをかいていた僕は、かっとなって立ち上がる。
そして、一瞬迷ったけれど、もう金輪際こんな機会は無いと思って、長衣の裾を少したくしあげ、宦官用にとバットゥータが用意してくれた下着を乱暴に脱ぎ去る。
「何だよ、急……」
僕は覚悟を決め、ギュッと目を瞑って腹の上まで長衣を上げると、下半身に視線が注がれたのが分かった。
だから、ボクは薄い茂みを自らかき分ける。
きっとアドリーの目にかろうじて映るだろう。
僕の小指の先ほどしかない変わり果てた男の象徴が。
『見た?』
口を動かすが反応は無い。
きっと、驚きすぎて目が離せないのだ。
僕は片足のつま先を上下させ、合図を送った。
『見た?』
「あ、ああ」
返事があったので、長衣を戻した。
『アドリー様は、宦官が大勢いる宮廷にいたから、きっと、彼らの下半身を見たことがあるかもしれないね。それでも、驚くってことは、僕の性器が彼らよりかなり短いからだよね。もう、無いに等しいぐらいだよね』
なんの言葉も返ってこなかった。
慰めて欲しいわけじゃない。
でも、男としてかわいそうだと同情はされたくない。
いろんな感情が忙しくせめぎ合う。
『僕っ』
ボタボタッと涙が溢れた。
と僕は首を振った。
「お前、まだそれ言うか」
『理由を……聞いて欲しい』
「理由?」と問い返すアドリーは面倒くさそうだったが、
『僕、話をするのが上手じゃないから、長くなると思う。途中で怒らせちゃうかもしれない。でも、聞いて欲しい』
と必死に訴えかけると、「おう。話せ」と渋々言ってくれた。
『僕、こんな身体だから、ローマに帰りたくないって言った。でも、それは、帰りたくない理由の一割ぐらい。僕が小鳥になったのは七歳のときで、望んで小鳥になったんだと思っていた』
途中で「何、当たり前のことを言ってるんだ?」とアドリーは口を挟んでくるのかと思ったが、真剣に耳を傾けてくれた。
『でも、ずっと心はモヤモヤしていた。小鳥になるのを勧めてくれたのは、聖歌隊の偉い人と両親で、僕の家は兄弟がたくさんいて貧しくて、小鳥になるしかない、そのためには去勢手術を受けるしかないと小さい頃から言われてきた。ずっとそれが正しかったんだと思ってたんだけど、この国に置き去りにされた十八歳のときに、誘導され思い込まされてたんだって気づいたんだ。それは、まるで神の啓示を受けたかのようだった。どうしてこんな単純なことに気づかなかったんだろうって、自分にびっくりした。去勢手術を自分の意志でするんだよね?と何度も確認は取られたけれど、どうやっても七歳じゃ判断できないよ。男の象徴がなくなるってどんな気分なのか、背ばかり大きくなって筋肉のつかない身体がどういうものなのか。きっと両親だって、聖歌隊の偉い人だって知らなかったと思う。だって、彼ら小鳥になったことないんだもの。だから、その……僕の言いたいことは終わり、です』
そこで、急に沈黙がやってくる。
アドリーが僕の顔をちらっと見て言う。
「親元に帰らなくても、国に帰るって方法もあるだろ?」
『僕、そんなに邪魔?』
「こんなことを、言いたくはないがな」
とアドリーが前置きしながら言った。
「お前を見ていると苦しくなるんだよ。まるで自分を見ているかのようで。オレも足を壊した母親のことを恨んできたし、和解できたのはつい最近」
『自分がうまくいったから、僕もうまくいくって?僕はそこまで割り切れないよ』
絨毯にあぐらをかいていた僕は、かっとなって立ち上がる。
そして、一瞬迷ったけれど、もう金輪際こんな機会は無いと思って、長衣の裾を少したくしあげ、宦官用にとバットゥータが用意してくれた下着を乱暴に脱ぎ去る。
「何だよ、急……」
僕は覚悟を決め、ギュッと目を瞑って腹の上まで長衣を上げると、下半身に視線が注がれたのが分かった。
だから、ボクは薄い茂みを自らかき分ける。
きっとアドリーの目にかろうじて映るだろう。
僕の小指の先ほどしかない変わり果てた男の象徴が。
『見た?』
口を動かすが反応は無い。
きっと、驚きすぎて目が離せないのだ。
僕は片足のつま先を上下させ、合図を送った。
『見た?』
「あ、ああ」
返事があったので、長衣を戻した。
『アドリー様は、宦官が大勢いる宮廷にいたから、きっと、彼らの下半身を見たことがあるかもしれないね。それでも、驚くってことは、僕の性器が彼らよりかなり短いからだよね。もう、無いに等しいぐらいだよね』
なんの言葉も返ってこなかった。
慰めて欲しいわけじゃない。
でも、男としてかわいそうだと同情はされたくない。
いろんな感情が忙しくせめぎ合う。
『僕っ』
ボタボタッと涙が溢れた。
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