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第七章

120:何すねてんだ?帰すんだよ、ローマに。前々から言ってるだろ?

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『小鳥。いい時を選んで叔父上に伝えて欲しい。金の流れを調べるうちに、ムラト三世の
死因を私は知ってしまった。原因不明の突然死となっているが、おそらく心臓発作だ。ムラト三世は死の何年も前から不能治療薬を投薬されていたようだ。男の部分は活発になる変わり、心臓に過大な負担がかかる代物だ。これは、スルタンを決めるのは兄弟殺ししか策はないと思っていたムラト三世の母后の命令だと思う。母后の命令は、スルタンの意思を超える事がある。なんせ、母后が賢くなければ、男児は生きのびられないし、スルタンの座にもつけないのだからな。しかし、叔父上が生まれて以降、寵姫らは誰も子をなしていない。それは、やはり、ムラト三世も、自分が死んだ後兄弟殺しが起こることに心を痛め、疑問に思っていたからだと思う』

「最後、何、話してたんだ?」
「そもそも手話ができるなんて聞いてねえぞ」
 途方もない広さの宮殿の中庭を三人でゆっく歩いていると、アドリーとバットゥータが聞いてきた。
『あ、うん。いろいろ』
 アドリーの足を壊した母親と、縁あって再会したことで、心の中で燻ぶっていた感情は消え去る方向に向かっているらしい。
「何ですって?アドリー様?」
「いろいろだと。ごまかしやがった」
 隠されてアドリーは少し不機嫌なようだ。
『アドリー様、あのね』
と僕が言いかけると、バットゥータが遮った。
「ふふ。俺らが、宮廷で働きたいです、今までお世話になりましたって言い出すんじゃないかって思ってんでしょう?」
「望むなら、別にいいぜ。ただし、バットゥータだけな」
「へえ?小鳥は、ご自分の手元に置くと?」
「何すねてんだ?帰すんだよ、ローマに。前々から言ってるだろ?」
『待って!勝手に決めないでよ!』
「はあ?なんて?勝手に決めるな?お前、この国に残ってどうすんだ?赤ん坊連れてローマに戻れ。赤ん坊が育てられないなら、お前の親に育ててもらえ」
『僕、帰るつもりないよ。こんな身体じゃ帰れない』
「いや、どんな身体であろうが帰れって。正直、迷惑」
 僕の顔に痙攣が走るのを見て、バットゥータが天を仰いだ。
「あーあーあー!今日はせっかく小鳥が牢を出られたんだから、喧嘩は止めましょ」
「喧嘩ってそもそも、バットゥータが妙な絡み方をしてくるからだろうがっ!?」
とアドリーが怒鳴る。
「そうです。俺が全面的に悪い。この世の悪事、全部が俺のせいです」
 素早くバットゥータがいなした。
 すると、さらにアドリーが怒る。
「お前、まじめに反省しろよ?んで、小鳥はローマに帰れ」
『だから』
 僕がアドリーに詰め寄ると、
「だから、じゃねえ。お前の赤ん坊を今後もオレたちに面倒見させるつもりか」
と彼は言い返してきて、
「面倒って、アドリー様だって、ちょっと抱いてあやしてすぐ飽きるじゃないですか」
とバットゥータが余計な助け舟を出す。
「バットゥータは黙ってろ。いいか、小鳥。オスマン帝国から出る商船は春と秋の二回、大船団を組んで西洋に向かう。間もなくその時期がやってくる。それに乗れば、海賊だって襲ってこない」
『帰らない』
「小鳥っ!!」
「荷馬車呼びましょう、ね、荷馬車。館まで徒歩で延々と喧嘩を聞かされるの勘弁です」
 耐えきれなくなったのか、一番先にバットゥータが音を上げた。

 広間で、「アドリー様、おかえりなさいませ。バットゥータ様も、それに小鳥様も!ご無事で!」
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