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第六章
113:おい。さすがに不謹慎だって
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親がいるってのも、大変だねえ。俺の親は、俺が幼いときに村に攻め入ってきたオスマン帝国の兵にとっ捕まって、途中でバラバラに売られたから生死不明。そこんとこの感情は察することができねえや」
小鳥の目が泳ぐ。
「動揺すんなって。貧困の村に住んでたって、いつか飢えて死んでいた。だから、俺は幸運の星の下に生まれてきたんだって思うようにしている。アドリー様みたいな主に出会えるのは、砂漠に落とした針を拾うぐらいの確率だからな。まあ、あの方も最初はひどかった。今、あんたに取っている態度の数十倍は」
『そんなに?でも、バットゥータは優秀だから気に入られたんだろ?僕は軽蔑されているし』
「尽くして尽くして尽くして、その後に、腹を割って話したからだ。何もせずにただ指を咥えていても関係は変わらない。うーん、説教臭くなったな」
バットゥータは、牢の柵から離れる。
そして、
「アドリー様の側にいたいのなら」
と先輩風を吹かせて、自分の頭を突いて見せる。
「ここをめいいっぱい使うことだ」
そして、いい人ぶる自分が嫌になって、乱暴な口調で言った。
「それが無理なら、とっととこの国を去れ」
アドリーとサフィア妃の面会は、二日後に叶った。
曜日は金曜日の昼。
小さなモスクだ。
この曜日のこの時間帯は、大きなモスクに皆集まるので、規模の小さいモスクはもぬけの空になる。
サフィア妃は、旧宮殿からやってくる。
新宮殿には、現スルタンのアフメト一世とその妃が住んでおり、それ以前の代の妃や寵姫たちは旧宮殿と場所を分けられているのだ。
旧宮殿は海が望める場所に立つ新宮殿からは少し離れていて、グランバザールを抜けさらに行ったところにある旧市街に建っている。
古い街なので、大小のモスクが至るところにあり、新宮殿近くの青空市場とはまた違った賑やかさがある。
館からは少し遠いので、休み休み行く。
アドリーは、面会が現実のものとなってからあまり喋らない。
ペチャクチャ喋るファトマもいなくなり、館では赤ん坊の泣き声だけが響いている。
「バットゥータ」
待ち合わせ場所に指定された小さなモスクの前でアドリーが立ち止まる。
顔色がよくない。
きっと、昨晩もそのまた前の晩もほとんど眠れていないんだと思う。
きっと一生会わずに過ごすつもりだったのに、それが覆ってアドリーは相当動揺している。
望んでこうしたはずなのに、心がこの状況に追いついていけてないのだ。
「俺だけ行って来ましょうか?」
サフィア妃は共を連れてきている。話はマルキが事前に伝えてあるはずだから、挨拶だけしておけばいい。
「いや、行くけどさ」
アドリーがムキになるので、バットゥータは彼をモスク横の路地裏に連れ込んだ。
「何、すんだよっ」
と怒るので、腹に手を当てる。
「キリキリします?」
「別に。けれど、気持ちが落ち着かない」
バットゥータは杖を握るアドリーの腕ごと抱きしめる。
「おい。さすがに不謹慎だって」
とアドリーは言うが、バットゥータの肩に顔を埋めたままにした。
「片時も目を離さず、隣室に控えてますから、安心して会ってきてください」
「病人じゃないんだけど、オレ」
「目の下に立派なクマをこさえてますが」
アドリーがドンッとバットゥータを体ごと押してくる。
小鳥の目が泳ぐ。
「動揺すんなって。貧困の村に住んでたって、いつか飢えて死んでいた。だから、俺は幸運の星の下に生まれてきたんだって思うようにしている。アドリー様みたいな主に出会えるのは、砂漠に落とした針を拾うぐらいの確率だからな。まあ、あの方も最初はひどかった。今、あんたに取っている態度の数十倍は」
『そんなに?でも、バットゥータは優秀だから気に入られたんだろ?僕は軽蔑されているし』
「尽くして尽くして尽くして、その後に、腹を割って話したからだ。何もせずにただ指を咥えていても関係は変わらない。うーん、説教臭くなったな」
バットゥータは、牢の柵から離れる。
そして、
「アドリー様の側にいたいのなら」
と先輩風を吹かせて、自分の頭を突いて見せる。
「ここをめいいっぱい使うことだ」
そして、いい人ぶる自分が嫌になって、乱暴な口調で言った。
「それが無理なら、とっととこの国を去れ」
アドリーとサフィア妃の面会は、二日後に叶った。
曜日は金曜日の昼。
小さなモスクだ。
この曜日のこの時間帯は、大きなモスクに皆集まるので、規模の小さいモスクはもぬけの空になる。
サフィア妃は、旧宮殿からやってくる。
新宮殿には、現スルタンのアフメト一世とその妃が住んでおり、それ以前の代の妃や寵姫たちは旧宮殿と場所を分けられているのだ。
旧宮殿は海が望める場所に立つ新宮殿からは少し離れていて、グランバザールを抜けさらに行ったところにある旧市街に建っている。
古い街なので、大小のモスクが至るところにあり、新宮殿近くの青空市場とはまた違った賑やかさがある。
館からは少し遠いので、休み休み行く。
アドリーは、面会が現実のものとなってからあまり喋らない。
ペチャクチャ喋るファトマもいなくなり、館では赤ん坊の泣き声だけが響いている。
「バットゥータ」
待ち合わせ場所に指定された小さなモスクの前でアドリーが立ち止まる。
顔色がよくない。
きっと、昨晩もそのまた前の晩もほとんど眠れていないんだと思う。
きっと一生会わずに過ごすつもりだったのに、それが覆ってアドリーは相当動揺している。
望んでこうしたはずなのに、心がこの状況に追いついていけてないのだ。
「俺だけ行って来ましょうか?」
サフィア妃は共を連れてきている。話はマルキが事前に伝えてあるはずだから、挨拶だけしておけばいい。
「いや、行くけどさ」
アドリーがムキになるので、バットゥータは彼をモスク横の路地裏に連れ込んだ。
「何、すんだよっ」
と怒るので、腹に手を当てる。
「キリキリします?」
「別に。けれど、気持ちが落ち着かない」
バットゥータは杖を握るアドリーの腕ごと抱きしめる。
「おい。さすがに不謹慎だって」
とアドリーは言うが、バットゥータの肩に顔を埋めたままにした。
「片時も目を離さず、隣室に控えてますから、安心して会ってきてください」
「病人じゃないんだけど、オレ」
「目の下に立派なクマをこさえてますが」
アドリーがドンッとバットゥータを体ごと押してくる。
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