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第六章

111:それは、反省してます。後で殴ってください

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「そう落ち込むな。こういうのがオレの当たり前なんだから」
 アドリーが笑う。
「オレができることは、アフメト一世にできるだけ長く在位についてもらって、次のスルタンが育つのを願うだけ。でもさ、駒みたいに自由に扱われるのは御免だから、マッティオって野郎が小鳥と宮廷に面倒をかけたなら、一泡吹かせるっていう仕返しをアフメト一世の目の前でしてやろう。使える親族と思ってもらえれば好都合。細くとも宮廷に繋がりができればいざという時に助かる」
「おばあにジリ貧って言われたことを気にしてるんですか?」
「一代限りの家業でいいって小さくまとまろうとしていたツケだろ」
「随分自虐的ですね。今後に向けて何かお考えで?」
「まあ、見てろって。ここはお前が出られる幕じゃないからさ、牢に入っている小鳥から本名を聞き出してきてくれねえか。サフィア妃に調べてもらうならそれが必要だ」
「でも、あいつ、名前を神様に捧げたと。簡単には吐かないかもしれないですよ」
「宿でもそんなことを言っていたな」
「アドリー様は、宮廷時代からあいつのことを小鳥って呼んでたんですか?」
「う~ん。多分そうだと思う。何で、あいつ、名前を捧げたんだっけなあ?そこんとこは思い出せねえや」
「絞め上げて、聞き出します」
「ほとほどにな。悪いが俺は宿で休んでいく。言っとくけど、足の痛みじゃねえからな」
「胃痛でしょ?」
「さすが、百万アクチェ。……っ」
 急にアドリーが顔をしかめ、身体を折り曲げたので、バットゥータは駆け寄る。
 記憶の中から顔すら消した母親と再会。
 場合によっては現スルタンと関わりを持つかもしれない。
 お前が出られる幕ではないとアドリーは言ったから、おそらくそこまで予測しているのだろう。
 そんな状況に自分がした。
 小鳥なんかを拾ったばっかりに。
 アドリーから杖を奪って、強引におぶう。
「小鳥なんて、 ヴァヤジットの奴隷商館で処分されちゃえばよかったですね」
「今更」
「目先の利益なんて追うんじゃ無かった」
「オレのためだろ?」
とアドリーが静かに言った。
「あいつが現れてから、オレの過去が戻って来始めたし」
 アドリーがバットゥータの首に腕を回しながら言った。
「それに、助けられるのに、助けないのは卑怯なんだろ?」 
「ですが、ご自分の立場まで危うくなるのはちょっと」
「なあなあなままでいたい男だってお前に言われちゃったしね」
「それは、反省してます。後で殴ってください」
「殴ったことねえだろ」
「パン投げてきたじゃないですか」
「何年前の話してんだよ。小鳥が現れる前から分かってたんだ。このままじゃいけないって。お前に依存して小さくまとまって、醜いのは足よりも感情の方だってのも気付いていた。小鳥はきっかけになっただけだ」
 アドリーの急激な精神的成長は、バットゥータを驚かせる。
 もうすでに自分は追い抜かれて、その背中は見えなくなりつつあるんじゃないかと不安になってくる。
 宿につき、アドリーを寝台に寝かせた。
 長衣越しに、腹部に触れる。
 アドリーは目を瞑ったままで、何もしゃべらないので眠ってしまったのかと手を離すと、「そういやあさあ。昨晩もオレ、お前に求めたよな。しかも、館で。最近とんとケジメがなってねえな」
と急に口を開いた。
「覚えてるんですか?」
「ぼんやりと。また、歌唄いの夢を見た。顔どころか姿すら見えないのに不思議なもんだ」
「気持ちよかったですか?」
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