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第五章
104:それじゃ、罪人だって言っているようなもんじゃねえか!
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「奥の部屋に、乳母のハリメと赤ん坊がいる。連れてきてくれ。男がいきなり入ってきたたびっくりするだろうから、脅かさずに冷静に要件を伝えろ」
「アドリー様の方はどうしましょう?」
「今、調子を崩して寝ている。だから、この件は、俺が対応する」
「はい」
ムアーウィアが踵を返して駆けていく。
「なんでまた、人目を避けた早朝に憲兵の野郎が来やがったんだ。小鳥、とにかく行くぞ」
バットゥータが先頭に立ち、中庭を抜けていく。
「話を聞きたいだけなのかもしれない。挙動不審になるなよ。疑われる。お前が伝えたいことは、俺が頑張って唇を読むから」
門には二人の憲兵がいた。
「この館の主は?」
「アドリー様だ。具合を悪くして寝ているので起こせない。この館の最古参は俺だから、俺が対応する。あんたらがここに来た理由は聞き込みか?行方不明の赤ん坊ならたしかにこの館にいるが、小鳥は急に押しつけられただけだぞ?雨の中この館にやってきたから、赤ん坊は風邪気味で介抱していたからムルサダへの連絡が遅れただけで」
憲兵の一人が首を振る。
「赤ん坊はどうでもいい。我々は、そこの白人に殺人容疑がかかっているのでここに潜伏しているのではないかと思ってやってきた。イスタンブール市内で、ここの館の主と親しくしている姿を見たという報告があったものでな。さあ、引き渡してもらおうか」
「待て。殺人容疑って何の証拠があって」
すると、憲兵の一人が首を押さえた。
「女は首を絞められ死んでいた。そして、この者は、女の館にいた奴隷の唖者。それが充分な証拠ではないか。それに、殺された娘の腹を裂いたら、腹の中には別の白人男の赤ん坊がいた。この男は、自分の赤ん坊を奪い、他の男の赤ん坊を孕んだ女を憎んで殺したのだ」
オギャアという泣き声に、僕は振り向く。
ムアーウィアとハリメが息をはずませていた。ハリメの腕の中には、僕の赤ん坊がいる。
憲兵が有無を言わさず僕の首に縄をかけてきた。
「おい!話を聞きにきたんだろ?勝手に決めつけやがって。それじゃ、罪人だって言っているようなもんじゃねえか!」
とバットゥータが激高する。
罪人?
僕は何もしていないのに、罰せられるのか?
僕をはめようとしている誰かに?
首にかかった縄が引かれ、僕は一瞬抵抗した。
ハリメを手で呼び寄せ、赤子の頬に触れる。
宿の前にこの子が置かれて以来の触れ合いだった。
触れた頬は熱く、そしてとても柔らかい。
こんなときだからこそ、愛おしいという感情が湧いてくるんじゃないかと思ったが、この柔らかさはやっぱり気持ちが悪いなと思っただけだった。
新宮殿近くまで歩かされた後に入れられた独房は、薄暗く床が湿っていて、ムルサダのお仕置き部屋を彷彿とさせた。
僕を引っ立てにやってきた憲兵より遥かに上等な服を着た親玉みたいな男がやってきて、「自由民になるための手続きをしていたようだが、取り消された。奴隷時代に起こった犯罪なので、奴隷として裁かせてもらう」と告げ去っていった。
きっと、アドリーとバットゥータが少しでも自分たちに火の粉がかからないよう早々に手を打ったのだ。
つまり僕は見捨てられた。
『いいんだけど』
人生が上手くいかないのは、小鳥になってからというもの常だった。
男としての象徴を切り取るという大きな犠牲を払って、子供の声のままでいようとして、失敗して。
歌唄いとして国賓扱いでこの国やってきたのに、娼婦の真似事をさせられ奴隷落とされて、生まれないはずの赤ん坊は勝手に生まれ、縊り殺されたはずが生きていて。
挙げ句の果てに、孕ませた相手を殺したと牢屋に入れられて。
「アドリー様の方はどうしましょう?」
「今、調子を崩して寝ている。だから、この件は、俺が対応する」
「はい」
ムアーウィアが踵を返して駆けていく。
「なんでまた、人目を避けた早朝に憲兵の野郎が来やがったんだ。小鳥、とにかく行くぞ」
バットゥータが先頭に立ち、中庭を抜けていく。
「話を聞きたいだけなのかもしれない。挙動不審になるなよ。疑われる。お前が伝えたいことは、俺が頑張って唇を読むから」
門には二人の憲兵がいた。
「この館の主は?」
「アドリー様だ。具合を悪くして寝ているので起こせない。この館の最古参は俺だから、俺が対応する。あんたらがここに来た理由は聞き込みか?行方不明の赤ん坊ならたしかにこの館にいるが、小鳥は急に押しつけられただけだぞ?雨の中この館にやってきたから、赤ん坊は風邪気味で介抱していたからムルサダへの連絡が遅れただけで」
憲兵の一人が首を振る。
「赤ん坊はどうでもいい。我々は、そこの白人に殺人容疑がかかっているのでここに潜伏しているのではないかと思ってやってきた。イスタンブール市内で、ここの館の主と親しくしている姿を見たという報告があったものでな。さあ、引き渡してもらおうか」
「待て。殺人容疑って何の証拠があって」
すると、憲兵の一人が首を押さえた。
「女は首を絞められ死んでいた。そして、この者は、女の館にいた奴隷の唖者。それが充分な証拠ではないか。それに、殺された娘の腹を裂いたら、腹の中には別の白人男の赤ん坊がいた。この男は、自分の赤ん坊を奪い、他の男の赤ん坊を孕んだ女を憎んで殺したのだ」
オギャアという泣き声に、僕は振り向く。
ムアーウィアとハリメが息をはずませていた。ハリメの腕の中には、僕の赤ん坊がいる。
憲兵が有無を言わさず僕の首に縄をかけてきた。
「おい!話を聞きにきたんだろ?勝手に決めつけやがって。それじゃ、罪人だって言っているようなもんじゃねえか!」
とバットゥータが激高する。
罪人?
僕は何もしていないのに、罰せられるのか?
僕をはめようとしている誰かに?
首にかかった縄が引かれ、僕は一瞬抵抗した。
ハリメを手で呼び寄せ、赤子の頬に触れる。
宿の前にこの子が置かれて以来の触れ合いだった。
触れた頬は熱く、そしてとても柔らかい。
こんなときだからこそ、愛おしいという感情が湧いてくるんじゃないかと思ったが、この柔らかさはやっぱり気持ちが悪いなと思っただけだった。
新宮殿近くまで歩かされた後に入れられた独房は、薄暗く床が湿っていて、ムルサダのお仕置き部屋を彷彿とさせた。
僕を引っ立てにやってきた憲兵より遥かに上等な服を着た親玉みたいな男がやってきて、「自由民になるための手続きをしていたようだが、取り消された。奴隷時代に起こった犯罪なので、奴隷として裁かせてもらう」と告げ去っていった。
きっと、アドリーとバットゥータが少しでも自分たちに火の粉がかからないよう早々に手を打ったのだ。
つまり僕は見捨てられた。
『いいんだけど』
人生が上手くいかないのは、小鳥になってからというもの常だった。
男としての象徴を切り取るという大きな犠牲を払って、子供の声のままでいようとして、失敗して。
歌唄いとして国賓扱いでこの国やってきたのに、娼婦の真似事をさせられ奴隷落とされて、生まれないはずの赤ん坊は勝手に生まれ、縊り殺されたはずが生きていて。
挙げ句の果てに、孕ませた相手を殺したと牢屋に入れられて。
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