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第五章
90:この館の使用人用の服で一番でかいのを持ってきたんだけど、全然、丈が足りねえな
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バットゥータが扉のところまで行って、僕に背を向けて立つ。
見ないからさっさと着替えろと言いたいらしい。
奴隷相手に細やかな人だ。
そういえば、さっき彼の周りに集まった女性陣も彼に卑屈な様子はなかった。
主のアドリーにこれだけの信頼を置かれていれば、威張り腐っていいはずなのに。
館自体の雰囲気も、僕には異世界さながらだった。
両手の指を折ってもまだ余るほど僕はいろんな館で暮らしたが、こんなに統制が取れているのに、心地よい雰囲気の所はこれまで無かった。
濡れた服を脱ぎ、身体をタオルで拭いて、渡された服を羽織った。
少し小さい。
通常の長衣は、くるぶしが隠れる丈なはずなのに足首まで丸見えだ。
「もういいか」
と聞かれ、拳を「いいよ」の意味で一回床に叩きつけた。
彼が振り向き、ふっと笑う。
「この館の使用人用の服で一番でかいのを持ってきたんだけど、全然、丈が足りねえな」
でも、表情は厳しい。
ヴァヤジットの奴隷商館で、僕を助けることを乗り気でないアドリーをバットゥータが説得していた。だから、彼は、いざこざを持ち込んできた僕を、自分の足を引っ張るお荷物だと思っているのかもしれない。
「ひとまず、広間へ。女たちはきっと全員集まってるだろうから軽く説明しとかねえと。男も何人かいるけれど、そっちは後日な」
先程の広間に戻ると、絨毯に座っている女の人がいて、片胸をはだけて赤ん坊に乳をあげていた。
当然、乳を吸っているのは、さっき存在を知った僕の子なのだが、生きるためにしている懸命な行為を直視できなくて慌てて視線を逸らす。
ソファーに座って辺りを眺めていたアドリーが、挙動不審な僕に気づき「お前、何、純情ぶってんだ?」という視線を投げかけてきて、ますますいたたまれない気分になった。
バットゥータが、素早くアドリーの側に寄っていって耳打ちをする。
さっき見せた眉間のシワより、さらに深いのが寄った。
そして、「皆を」とバットゥータに命じる。
バットゥータがパンパンと手を叩いて注目を集めた。
アドリーが喋り始める。
「夜も更けてから、騒がせて悪かったな」
騒がしかった広間はすぐにしんとなる。
アドリーが僕を顎でさした。
「こいつは、俺の古い知り合い。小鳥って言う。声は出せない。会話は筆談か口術だ。見た目は白人だが、この国の言葉は理解できるから安心しろ。ちなみに出身はローマだ。こさえたはずのない赤ん坊を突きつけられて、頭が真っ白になってオレを頼ってきたってわけ」
頷いていた女性たちは、少し笑った。
「暫くこの館に滞在する。だが、口外しないでくれ」
「わかりました」
「もちろんです」
という声が上がる。
アドリーが僕ではなく、バットゥータを見た。
「乳が余ってしょうがないそうだから、乳母役を正式に頼むことにした」
その後、乳母を見る。
「名前はハリメだ。よろしくな。乳をやる以外は、赤ん坊の面倒は男どもも交えて順番に見る。一応、オレもな。バットゥータが無理するだろうから、皆で監視を」
「はーい」
「それじゃ、解散。寝るのが遅くなっても、明日の朝は普通どおりだ。だから、さっさと寝ろ」
女性たちが散っていき、乳母も赤ん坊に乳を飲ませ終わると広間の奥の部屋に案内された。
僕と、アドリーとバットゥータ、それに、バットゥータに手渡された赤ん坊が残された。
バットゥータが赤ん坊を抱いて僕の側にやってくる。
だから僕は逃げた。
見ないからさっさと着替えろと言いたいらしい。
奴隷相手に細やかな人だ。
そういえば、さっき彼の周りに集まった女性陣も彼に卑屈な様子はなかった。
主のアドリーにこれだけの信頼を置かれていれば、威張り腐っていいはずなのに。
館自体の雰囲気も、僕には異世界さながらだった。
両手の指を折ってもまだ余るほど僕はいろんな館で暮らしたが、こんなに統制が取れているのに、心地よい雰囲気の所はこれまで無かった。
濡れた服を脱ぎ、身体をタオルで拭いて、渡された服を羽織った。
少し小さい。
通常の長衣は、くるぶしが隠れる丈なはずなのに足首まで丸見えだ。
「もういいか」
と聞かれ、拳を「いいよ」の意味で一回床に叩きつけた。
彼が振り向き、ふっと笑う。
「この館の使用人用の服で一番でかいのを持ってきたんだけど、全然、丈が足りねえな」
でも、表情は厳しい。
ヴァヤジットの奴隷商館で、僕を助けることを乗り気でないアドリーをバットゥータが説得していた。だから、彼は、いざこざを持ち込んできた僕を、自分の足を引っ張るお荷物だと思っているのかもしれない。
「ひとまず、広間へ。女たちはきっと全員集まってるだろうから軽く説明しとかねえと。男も何人かいるけれど、そっちは後日な」
先程の広間に戻ると、絨毯に座っている女の人がいて、片胸をはだけて赤ん坊に乳をあげていた。
当然、乳を吸っているのは、さっき存在を知った僕の子なのだが、生きるためにしている懸命な行為を直視できなくて慌てて視線を逸らす。
ソファーに座って辺りを眺めていたアドリーが、挙動不審な僕に気づき「お前、何、純情ぶってんだ?」という視線を投げかけてきて、ますますいたたまれない気分になった。
バットゥータが、素早くアドリーの側に寄っていって耳打ちをする。
さっき見せた眉間のシワより、さらに深いのが寄った。
そして、「皆を」とバットゥータに命じる。
バットゥータがパンパンと手を叩いて注目を集めた。
アドリーが喋り始める。
「夜も更けてから、騒がせて悪かったな」
騒がしかった広間はすぐにしんとなる。
アドリーが僕を顎でさした。
「こいつは、俺の古い知り合い。小鳥って言う。声は出せない。会話は筆談か口術だ。見た目は白人だが、この国の言葉は理解できるから安心しろ。ちなみに出身はローマだ。こさえたはずのない赤ん坊を突きつけられて、頭が真っ白になってオレを頼ってきたってわけ」
頷いていた女性たちは、少し笑った。
「暫くこの館に滞在する。だが、口外しないでくれ」
「わかりました」
「もちろんです」
という声が上がる。
アドリーが僕ではなく、バットゥータを見た。
「乳が余ってしょうがないそうだから、乳母役を正式に頼むことにした」
その後、乳母を見る。
「名前はハリメだ。よろしくな。乳をやる以外は、赤ん坊の面倒は男どもも交えて順番に見る。一応、オレもな。バットゥータが無理するだろうから、皆で監視を」
「はーい」
「それじゃ、解散。寝るのが遅くなっても、明日の朝は普通どおりだ。だから、さっさと寝ろ」
女性たちが散っていき、乳母も赤ん坊に乳を飲ませ終わると広間の奥の部屋に案内された。
僕と、アドリーとバットゥータ、それに、バットゥータに手渡された赤ん坊が残された。
バットゥータが赤ん坊を抱いて僕の側にやってくる。
だから僕は逃げた。
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