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第四章
78:お前に出ていかれると、オレは困る
しおりを挟む「あー。眠っ。にしても、昨夜は何だったんだろうなあ、バットゥータの奴。あのアホが高ぶるからこっちもついつい、本音漏らしちゃったじゃねえか。好きとか愛しているとか、嫌いな言葉だけど、まあ、あいつに言われれるなら悪い気はしねえな---そんなとこですかね、アドリー様」
一夜明けて、渡された包みを持って館を出ると、門の脇にバットゥータが立っていた。
「うわっ。気まずい、みたいな顔しないでください」
「オレの心の声を、勝手に代弁するんじゃないよ」
「先読みは、もともとアドリー様の得意技でしょう?真似してみただけです。で、合ってました?」
いつものバットゥータだと思って、アドリーは歩き出す。
昨夜は、何度も口づけを繰り返され、それで終わってしまった。
素面でどこまでアドリーができるのか、バットゥータは様子を伺っていたようだ。
のしかかられると緊張---というより、身構えてしまってそれ以上、事が進まなかった。
相手は、バットゥータなのに。
「あいつのところに行く気になったんですね」
と言いながらバットゥータがついてくる。
「誰かさんが、行け行けうるせえから」
「……」
「そこで、黙るなよ!何か言えよ!」
「昨夜は俺の気持ちを最後まで聞いてくれてありがとうございました。引っ叩かれて館を出されたっておかしくない状況だったのに」
「お前に出ていかれると、オレは困る」
「そんなの最初だけですよ」
「お前、本気で出ていくこと考えている?それとも、オレが涙ながらにすがれば満足?」
「後者で」
「ふざけんな」
「いつものアドリー様でよかった。もう少し早く館から出てくると思ったんですけど、その分は誤差ってことで」
「朝、起きたらもうお前はいなかったし、館の誰に聞いても知らないって言うし、顔を合わせづらくてどこかに出かけたんだろうなと思ったら」
「なーんと、門の前に」
「ありがとうな」
「え?脈絡無視した礼の意味は?」
「お前の回りくどい気遣い全般に礼を言っただけ」
「大人になりましたね~。アドリー様」
「お前の要望通り小鳥に会いにいくが、一緒に行くか?」
「俺は高台のベンチまでアドリー様を送ってそこで引き返します。やらなきゃいけないことが溜まってますんで」
アドリーはこれみよがしにため息をつく。
「あいつと何を話せばいんだ?」
「昔の話」
「その昔がおぼろげなんだけど」
「ヴァヤジットに口八丁だっていつも褒められるじゃないですか。その話術どこいったんですか?」
「さあな」
「気乗りしない様子ですね」
「どうやって、気を乗せればいいんだ?!」
「俺の好敵手ですよ?邪険にされちゃあ困……」
振り向いてバットゥータを見つめると、空気を読んだのか彼は黙った。
「確かにお前の言う通り、オレは、好きは好きだの愛してるだの、そういう感情がさっぱりわからないよ。でも、お前にだけは、そういう感情はある……と思う。その好きとお前の好きって同じ種類のものじゃないのか?同じだったら、小鳥なんてただの部外者だ」
「だーかーら、確認してきてくださいって言ってんですよ、俺は」
バットゥータが回り込んでくる。
「あんまり怒鳴らないでやってくださいね。初めての頃、アドリー様の怒鳴り声は本当に怖かった」
「ああ」
「あと、冷ややかな目で見るのも止めてください。心が凍るから」
「分かったって」
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