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第四章

76:アドリー様がここまで半狂乱になるのって、ガジアンテプ以来。いや、今の方が強烈かな

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「オレは、別に、今はっ」
「足はそこまで痛くないって?それは結構なことです。でも俺、今は鎮痛剤代わりになるつもりないんで」
「じゃあ、何?何がしたいんだ?」
「何って、口づけですよ」
 バットゥータの息が唇にかかる。
「ロクでも飲んできたのか?」
「これからです。アドリー様にフラれて泣くだろうから」
 バットゥータが再び両手でアドリーの手を掴んだ。
「これから、俺のありったけの思いを告げるんで」
「止めろっ!!」
 思いの外、大きな声が出た。
「俺は、ガジアンテプであなたと二人で暮らし始めた頃から」
「止めろっって!!」
 バットゥータの手を振り飛ばす。
 そして、耳を塞いだ。
「それ以上、言うな!」
「好きとか愛しているとか、使用人の分際で、気持ちの悪い言葉をその口から吐くなって言いたいんですか?」
と聞かれ、激しく首を振る。
「知ってます。アドリー様は全てにおいて、なあなあがいいんです。そうやって拒絶されるの分かってました」
 冷静な声でバットゥータにそう言われ、頭の中が真っ白になった。
「知ってました?アドリー様は、足の痛みで激しくうなされる夜、必ず、『母上、どうして?』って言うんです。きっと、房に閉じ込められて立てなくなるほど足を痛めつけられたときの夢を見ているんでしょう。死ぬしか無い運命だったのに足一本駄目にしただけで、命は助かったんだからアドリー様は笑うけれど、心の奥底では全然納得できていないんですよ」
 聞きたくもない真実を突きつけられ、足が痛みだす。
「もう、止めろ!出て行け!」
 寝台に上半身を折って突っ伏すと、バットゥータが上から抱えてくる。
「離せ!離せって」
「アドリー様がここまで半狂乱になるのって、ガジアンテプ以来。いや、今の方が強烈かな」
「お前、いい加減にっ」
 懇親の力でバットゥータを跳ね除け、殴りかかろうとすると、ひょいと避けられた。
 無様に寝台の上に倒れる。
「さっきまであいつの話をしてたんだろうが。なんで、こんな展開になる?!」
 悔し紛れに寝台を叩く。
 すると、背中に手を当てられた。
 それがことの外ムカつく。
 払いのけようとすると、その手を取られた。
 いつの間にバットゥータはあぐらをかいていて、その中にアドリーは引き寄せられる。
 こっちは全力で暴れているのに、びくともしない。
 その体格差に、劣等感がむくむくと湧いてくる。
 成長期前に足を壊されたので、食事を減らして背が伸びるのを避けた。このままでは痛めつけられた片足だけ、他の身体の成長に追いつけなくなり、さらに激痛に苦しめられることになるとララに言われたからだ。
 バットゥータの身体の大きさまでとはいかなくても、集団で群れても埋もれない普通の身長が欲しかった。
 好きな相手の前で何の躊躇もなく裸を晒してみたかった。
 自分の身体は、胸板や腕の筋肉が発達していても、片足が細いので全裸になるとますます不格好だ。
 心のなかで渦巻く劣等感は「チクショウ」という言葉に形を変え、アドリーはバットゥータの胸を拳で叩く。
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