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第四章

63:尻の穴なんて、短時間で指四本ずっぽり

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「最初が三アクチェ。その次が千アクチェ。ガジアンテプの商家が提示したのが、五千アクチェ。それが今や」
 最初の買値は安くとも手間暇かけてやれば、計算を覚え、文字を覚え、交渉だってできるようになる。そうなれば、周りが欲しがり価格は上がっていく。
 最近では、バットゥータの価格は十万アクチェを超え、それはハレム入りする美貌の女奴隷に負けない。
「お前を百アクチェで売ろうとしていたガジアンテプの奴隷商人が、千アクチェで売ればよかったと悔しがるから、オレは人を見る目があるんだと調子に乗って奴隷仲買い商を始めてみたら、イスタンブールで優秀な奴隷が欲しいなら、アドリーのところで買えって言われるまでになった。ま、お前だけは、売る気はないけどな」
 茶色い髪を撫でてやると、バットゥータが小さく笑った気がした。
 皆、バットゥータが何を考えているのか分からないと言うが、アドリーから見れば、些細な表情や口調から喜怒哀楽が伝わってくる。
 髪を弄んでいると、アドリーは寝台横の机の上に、香炉と紙の束、それに鉛の塊が転がっているのに気づいて、開いている方の手で手繰り寄せた。
 そこには文字が書かれている。
 急いで書いたのか、右上がりの字だ。紙には水滴痕が点々と浮き上がっていた。
「今までで一番ゆっくり、腰を進めて?」
 見覚えの無い字だった。
 大雨、雷の中を誰かがやって来たらしい。
「ずいぶん艶めいた書き置きだな」
 机に手をつき寝台から立ち上がりかけ、腰の鈍痛に気づいた。
 こんな日の朝はいつものことだが、普段よりは軽い。
 それに、内部でドロッとした質感を感じ。
「ああ。そーゆーことね」
 香と痛みで我を忘れて、昨晩も「早く突っ込め」とねだったのだろう。
「けどさ、中に出すなよ、中に」
 額を突いてやろうと振り向くと、バットゥータがすでに目を開けていた。
「起きてたっ!?いつから?」
「最初が三アクチェでどうたらこうたらのあたり、です。うわあ、独り言言ってる。声、かけないでおこうと思って」
「趣味悪いな」
「どうも」
「昨晩、誰か来たのか?」
 すると、バットゥータがアドリーに背中を向けるように寝返りを打った。
 完全に覚醒はしていないようだ。ずいぶん遅れて、
「名無しが」
と言う。
「アドリー様の痛みが気になったみたいで、香油を届けに来ました。あと、香の調節も。アドリー様はそのお陰で急に楽になったみたいで」
 アドリーは無意識に、片耳を抑えていた。
 音楽。
 なにかの。
 昔、聞いたことのあるような。
 でも、はっきりとは思い出せない。
「なあ、バットゥータ。名無しは口無しなんだよな?」
「だから、紙に」
「さっき、読んだ」
 アドリーに背を向けていたバットゥータがノロノロと起き上がる。
 そして、肩先で振り返った。
「俺、今まで雑でしたよね?」
「急にどうしたんだよ、そんなこと聞いてきて。雑って、別に女じゃねえんだし、丁重に扱って欲しいなんて思ってねえよ」
「でも、昨晩のアドリー様の身体、名無しの香と手技でびっくりするほど緩んでました。尻の穴なんて、短時間で指四本ずっぽり」
「もうちょっと、上品な言い方をしろ。確かに今朝は腰の鈍痛は軽いけど、でも、オレ、お前にやられるのは、別に、嫌いじゃ。……朝から何、言わす?」
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