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第三章

60:催淫効果のあるやつだぞ?

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「村は、オスマン帝国の兵が火をつけて焼き払っていったよ」
 アドリーが片手で顔を被った。
「そうだったのか。なら、両親は?どこかにいるだろ?」
「父さんも母さんも村から一緒に連れ去られて、奴隷商にバラバラに売られた。俺にそんなところに帰れって言うの?」
「オレは、お前のこと、考えているようでそれは上辺だけで、結局、なーんにも見てなかったんだな。そりゃ、ララも怒るはずだ」
 その最中、バリバリバリバリッと音がして、バットゥータは大きく身体を震わせた。
 アドリーが右足を伸ばし、そこにバットゥータを座らせた。そして、右腕でバットゥータの身体を抱きしめてくる。
 そして、耳元に口を寄せてきた。
「オレは、奴隷商でもねえし、お前の村に火を付けた兵士でもねえけど、……その……悪かったな」
 バットゥータはアドリーの胸に顔を埋めた。
 謝ってくれた。
 こんな人、初めて出会った。
 コーカサスだって、戦争をし、略奪民を奴隷にしている。
 一方的な被害者ではないはずだ。
 それでも、バットゥータという個人に、アドリーはきちんと謝ってくれた。
 こみ上げてくるものがあって、嗚咽をこらえるので精一杯だった。
 これまでは、他の主よりアドリーがましだからという理由で彼の側にいたかった。
 でも、今は違う。
 この人にしか仕えたくない。
「じゃあ、お前はずっとオレの使用人な」
 この話の流れで行けば大円団となるはずだった。
 なのに。
「---っっっ。我慢してたけど、もう本当に限界だ」
とアドリーは言って、しがみつくバットゥータを引き剥がしにかかったのだ。
 そして、机の上にある油紙の袋を指さした。
「一仕事してくれ。あの袋に粉が入ってると思うからそれを香炉台に。ろうそくで炙り始めたら、お前は部屋を出て行け」
「やだ……です」
 すると、アドリーが大人びた顔で笑った。
「お前、オレの本当の姿を見たら、引くぞ」
「何ですか、本当の姿って?」
 バットゥータが質問すると、
「ああ、でも、それがいいかもな」
とアドリーは一人勝手に納得する。
 バットゥータはアドリーの命令通り、小机の上にあった香炉に粉を入れて、キャドルをその下に。しばらくして部屋には淫靡な香りが漂い始めた。
 アドリーは一人喋っている。
「そこまですれば、お前、後ろ髪引かれることもなくなるか。いや、よく考えたら駄目だ。お前が香りにやられる。倒れられても困る」
 バットゥータは深呼吸する。 
「早く出て行けって」
とアドリーは急かすが、 
「変な匂いはするけど、平気です」
とバットゥータが答えると怪訝な顔をした。
「催淫効果のあるやつだぞ?」
「ちょっと臭いけど、俺はなんともないです」
「お前がガキ過ぎて催淫効果が伝わらないとか?」
「催淫効果があるって、い、いやらしくなるためのものでしょう?」
 さすがにどもってしまった。
 アドリーは夢現の顔をしている。
「人種が違うと効きやすさにも違いが……あるの……かな?」
 寝台の壁に持たれていたアドリーがずるずると身体を横たえ沈んだので、バットゥータは駆け寄る。
「アドリー様!!大丈夫ですか?辛いならこれ、消したほうが」
 荒い息を付き始めたアドリーが薄目を開けた。
「何のために使うのかって?痛みをごまかすんだよ」
 アドリーが、けだるけに寝巻きの裾をたくしあげはじめた。
 怒鳴るアドリーとはまるで別人だ。
 艶っぽく、しっとりしていて。
「あっ」
 ヘソのあたりまで寝間着がたくしあげられ、下半身の付け根の雄が上を向いて主張していた。しずくまで垂らしている。
「ちゃんと見たか?お前を部屋を入れない夜はなあ、これを握り込んで、精を解放する寸でのところで止めてってのを明け方まで繰り返して気を紛らわしてたんだよ。今後も、足の痛みは収まることは無いだろうし、こういうオレの痴態は続く。だから、出てい---おい」
 バットゥータはアドリーのあらぬ方向に曲がった左足の付け根に手を添えた。
「アドリー様は、自分のを慰めて、俺はこっちを触ればいい話じゃないですか?」
「お前、分かって物を言ってる?」
「はい」
「本当に大丈夫か?香りとか、その、オレのこういう姿を見せられるのとか」
「平気です。アドリー様は、俺のこと邪魔ですか?」
「……」
「アドリー様?」
 問いかけると、アドリーは顔に片手を当てて、天井を向いた。
「……気が紛れる。……ものすごく」
「なら、旅先でも、イスタンブールでも俺のこと手放せないですよね?」
「さっきまで鼻水垂らして泣いてたくせに、もう売り込みか?」
「はい。俺、一生アドリー様に、ギャーッ」
 窓の外がピカッと光って今までないぐらい特大の雷が炸裂して、バットゥータはアドリーにしがみつく。
 彼の右手は、今度はさっきより強くバットゥータを抱きしめてくれた。
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