上 下
61 / 183
第三章

60:催淫効果のあるやつだぞ?

しおりを挟む
「村は、オスマン帝国の兵が火をつけて焼き払っていったよ」
 アドリーが片手で顔を被った。
「そうだったのか。なら、両親は?どこかにいるだろ?」
「父さんも母さんも村から一緒に連れ去られて、奴隷商にバラバラに売られた。俺にそんなところに帰れって言うの?」
「オレは、お前のこと、考えているようでそれは上辺だけで、結局、なーんにも見てなかったんだな。そりゃ、ララも怒るはずだ」
 その最中、バリバリバリバリッと音がして、バットゥータは大きく身体を震わせた。
 アドリーが右足を伸ばし、そこにバットゥータを座らせた。そして、右腕でバットゥータの身体を抱きしめてくる。
 そして、耳元に口を寄せてきた。
「オレは、奴隷商でもねえし、お前の村に火を付けた兵士でもねえけど、……その……悪かったな」
 バットゥータはアドリーの胸に顔を埋めた。
 謝ってくれた。
 こんな人、初めて出会った。
 コーカサスだって、戦争をし、略奪民を奴隷にしている。
 一方的な被害者ではないはずだ。
 それでも、バットゥータという個人に、アドリーはきちんと謝ってくれた。
 こみ上げてくるものがあって、嗚咽をこらえるので精一杯だった。
 これまでは、他の主よりアドリーがましだからという理由で彼の側にいたかった。
 でも、今は違う。
 この人にしか仕えたくない。
「じゃあ、お前はずっとオレの使用人な」
 この話の流れで行けば大円団となるはずだった。
 なのに。
「---っっっ。我慢してたけど、もう本当に限界だ」
とアドリーは言って、しがみつくバットゥータを引き剥がしにかかったのだ。
 そして、机の上にある油紙の袋を指さした。
「一仕事してくれ。あの袋に粉が入ってると思うからそれを香炉台に。ろうそくで炙り始めたら、お前は部屋を出て行け」
「やだ……です」
 すると、アドリーが大人びた顔で笑った。
「お前、オレの本当の姿を見たら、引くぞ」
「何ですか、本当の姿って?」
 バットゥータが質問すると、
「ああ、でも、それがいいかもな」
とアドリーは一人勝手に納得する。
 バットゥータはアドリーの命令通り、小机の上にあった香炉に粉を入れて、キャドルをその下に。しばらくして部屋には淫靡な香りが漂い始めた。
 アドリーは一人喋っている。
「そこまですれば、お前、後ろ髪引かれることもなくなるか。いや、よく考えたら駄目だ。お前が香りにやられる。倒れられても困る」
 バットゥータは深呼吸する。 
「早く出て行けって」
とアドリーは急かすが、 
「変な匂いはするけど、平気です」
とバットゥータが答えると怪訝な顔をした。
「催淫効果のあるやつだぞ?」
「ちょっと臭いけど、俺はなんともないです」
「お前がガキ過ぎて催淫効果が伝わらないとか?」
「催淫効果があるって、い、いやらしくなるためのものでしょう?」
 さすがにどもってしまった。
 アドリーは夢現の顔をしている。
「人種が違うと効きやすさにも違いが……あるの……かな?」
 寝台の壁に持たれていたアドリーがずるずると身体を横たえ沈んだので、バットゥータは駆け寄る。
「アドリー様!!大丈夫ですか?辛いならこれ、消したほうが」
 荒い息を付き始めたアドリーが薄目を開けた。
「何のために使うのかって?痛みをごまかすんだよ」
 アドリーが、けだるけに寝巻きの裾をたくしあげはじめた。
 怒鳴るアドリーとはまるで別人だ。
 艶っぽく、しっとりしていて。
「あっ」
 ヘソのあたりまで寝間着がたくしあげられ、下半身の付け根の雄が上を向いて主張していた。しずくまで垂らしている。
「ちゃんと見たか?お前を部屋を入れない夜はなあ、これを握り込んで、精を解放する寸でのところで止めてってのを明け方まで繰り返して気を紛らわしてたんだよ。今後も、足の痛みは収まることは無いだろうし、こういうオレの痴態は続く。だから、出てい---おい」
 バットゥータはアドリーのあらぬ方向に曲がった左足の付け根に手を添えた。
「アドリー様は、自分のを慰めて、俺はこっちを触ればいい話じゃないですか?」
「お前、分かって物を言ってる?」
「はい」
「本当に大丈夫か?香りとか、その、オレのこういう姿を見せられるのとか」
「平気です。アドリー様は、俺のこと邪魔ですか?」
「……」
「アドリー様?」
 問いかけると、アドリーは顔に片手を当てて、天井を向いた。
「……気が紛れる。……ものすごく」
「なら、旅先でも、イスタンブールでも俺のこと手放せないですよね?」
「さっきまで鼻水垂らして泣いてたくせに、もう売り込みか?」
「はい。俺、一生アドリー様に、ギャーッ」
 窓の外がピカッと光って今までないぐらい特大の雷が炸裂して、バットゥータはアドリーにしがみつく。
 彼の右手は、今度はさっきより強くバットゥータを抱きしめてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

処理中です...