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第三章
52:ララの寝床ばっかもぐこんでねえで、オレのところに来たっていいんだぞ
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「こんな小さい服、この家で誰が着るって?」
バットゥータは。藤の籠の中身をかき回した。
「わ!綿のたっぷり入った長衣だ!下着も寝巻きもある!!丈夫な革のサンダルも!」
夢中になって覗きこんでいたら、ヘリに体重を掛けすぎて、籠がひっくり返る。
頭から大量の服を浴びて、
「夢みたいだ」
とうっとりするバットゥータを見てアドリーが笑い転げる。
「こっちは、イスタンブールと違って結構冷えるからな。火鉢をララにお願いして、お前の部屋にも入れてくれって言ったんだけど、お前がまだ小さすぎて火の始末ができないから駄目だって」
「火鉢?」
「足がついた陶器の中に灰と墨を入れて、手を炙るんだ。これはイスタンブールにもあるが、囲いをして毛布を掛けて温まるってのは、こっち独特の文化みたいだな。部屋もそこそこ温まる。だから」
ここで、アドリーは言葉を区切って咳払いする。
「ララの寝床ばっかもぐこんでねえで、オレのところに来たっていいんだぞ」
バットゥータは、激しくまばたきをした。
そして、初日のララの言葉を思い出す。
主が使用人をおだてるのは、気持ちよく働いてもらいたいからだ。
(なるほど、これがおだてられるということか。危ない、危ない。本気にするとこだった)
「はい。アドリー様。分かりました。じゃあ、オレはもう下がりますね。食事が終わる頃に、また来ます」
と返事をして、
「おい。ちょっと、なあ??」
と何か言いたげなアドリーに、
「バブーシュ。大切にします」
とお礼を言って、藤の籠を部屋を出る。
バットゥータは、自分の部屋の扉を開けて、すぐ閉めた。
「いけない。他の部屋と間違えた。オレの部屋に大きくて厚手の絨毯なんてあるわけないし、あんなに布団も立派じゃ……あれ?じゃあ、俺の部屋はどこなの?」
先程、間違えたと思った部屋はやはり自分の部屋だった。
でも、アドリーやララの部屋あるような厚手の絨毯があり、布団も新しくなっている。
バットゥータは貰ったばかりのバブーシュをじっと眺めた。
そして、手に持っていた藤の籠を床に置くとすぐに廊下を駆け出し、先程、退出したばかりの部屋へと入っていく。
「アドリー様!」
「おう。なんだ」
アドリーはバットゥータの声に顔も上げず、本を眺めている。
「あの、あの、あの、あの」
それ以上、口がきけなくなって、口ごもってしまった。
アドリーが本を傍らに置き、こちらを見る。
「俺の部屋に絨毯とか、新しい布団が。贈ってくださったのはアドリー様ですよね?」
「さあな」
「絶対、絶対、アドリー様ですよね?」
バブーシュに衣類に、家具と寝具。
バットゥータが嬉しくて気持ちがはち切れそうな思いでいると、アドリーが言った。
「オレは、お前の身の回りのことは全部、ララがやってくれていると思いこんでた。だから、未だに夏用のペラペラの布団を使ってるなんて知らなかったし、擦り切れそうなほど痛んだ絨毯の上に座って勉強しているのも気づかなかった。オレがずっとお前に気を払わなかった場合、真冬に凍えて死ぬ可能性だってあったってことだよな?恐ろしいじいさんだ」
「別の部屋に間違えて入っちゃたのかと思いました!」
バットゥータは興奮気味に訴える。
「店の連中に頼んでこっそりやってもらったからな。ララにも協力してもらって」
「俺の部屋、見に来てください!前と全然、違うから」
アドリーがバットゥータがそのまま水色のバブーシュを履いているのを、小さく微笑して眺めていた。
バットゥータは。藤の籠の中身をかき回した。
「わ!綿のたっぷり入った長衣だ!下着も寝巻きもある!!丈夫な革のサンダルも!」
夢中になって覗きこんでいたら、ヘリに体重を掛けすぎて、籠がひっくり返る。
頭から大量の服を浴びて、
「夢みたいだ」
とうっとりするバットゥータを見てアドリーが笑い転げる。
「こっちは、イスタンブールと違って結構冷えるからな。火鉢をララにお願いして、お前の部屋にも入れてくれって言ったんだけど、お前がまだ小さすぎて火の始末ができないから駄目だって」
「火鉢?」
「足がついた陶器の中に灰と墨を入れて、手を炙るんだ。これはイスタンブールにもあるが、囲いをして毛布を掛けて温まるってのは、こっち独特の文化みたいだな。部屋もそこそこ温まる。だから」
ここで、アドリーは言葉を区切って咳払いする。
「ララの寝床ばっかもぐこんでねえで、オレのところに来たっていいんだぞ」
バットゥータは、激しくまばたきをした。
そして、初日のララの言葉を思い出す。
主が使用人をおだてるのは、気持ちよく働いてもらいたいからだ。
(なるほど、これがおだてられるということか。危ない、危ない。本気にするとこだった)
「はい。アドリー様。分かりました。じゃあ、オレはもう下がりますね。食事が終わる頃に、また来ます」
と返事をして、
「おい。ちょっと、なあ??」
と何か言いたげなアドリーに、
「バブーシュ。大切にします」
とお礼を言って、藤の籠を部屋を出る。
バットゥータは、自分の部屋の扉を開けて、すぐ閉めた。
「いけない。他の部屋と間違えた。オレの部屋に大きくて厚手の絨毯なんてあるわけないし、あんなに布団も立派じゃ……あれ?じゃあ、俺の部屋はどこなの?」
先程、間違えたと思った部屋はやはり自分の部屋だった。
でも、アドリーやララの部屋あるような厚手の絨毯があり、布団も新しくなっている。
バットゥータは貰ったばかりのバブーシュをじっと眺めた。
そして、手に持っていた藤の籠を床に置くとすぐに廊下を駆け出し、先程、退出したばかりの部屋へと入っていく。
「アドリー様!」
「おう。なんだ」
アドリーはバットゥータの声に顔も上げず、本を眺めている。
「あの、あの、あの、あの」
それ以上、口がきけなくなって、口ごもってしまった。
アドリーが本を傍らに置き、こちらを見る。
「俺の部屋に絨毯とか、新しい布団が。贈ってくださったのはアドリー様ですよね?」
「さあな」
「絶対、絶対、アドリー様ですよね?」
バブーシュに衣類に、家具と寝具。
バットゥータが嬉しくて気持ちがはち切れそうな思いでいると、アドリーが言った。
「オレは、お前の身の回りのことは全部、ララがやってくれていると思いこんでた。だから、未だに夏用のペラペラの布団を使ってるなんて知らなかったし、擦り切れそうなほど痛んだ絨毯の上に座って勉強しているのも気づかなかった。オレがずっとお前に気を払わなかった場合、真冬に凍えて死ぬ可能性だってあったってことだよな?恐ろしいじいさんだ」
「別の部屋に間違えて入っちゃたのかと思いました!」
バットゥータは興奮気味に訴える。
「店の連中に頼んでこっそりやってもらったからな。ララにも協力してもらって」
「俺の部屋、見に来てください!前と全然、違うから」
アドリーがバットゥータがそのまま水色のバブーシュを履いているのを、小さく微笑して眺めていた。
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