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第二章

39: まさか、あんた一人で来たのか?逃走奴隷って勘違いされないか?

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「こっちは?」
 尻の窄まりを突くと、少し高めの喘ぎ声が上がった。
 快楽の世界にどっぷりとアドリーを漬けるのはこれが一番効果がある。
「します?どうします?」
「……する。……やって」
「どんなに慣らしても痛いって言われるしなあ。した後は翌日は辛そうだし」
「いいからっ……やれって」
「許可もらいましたからね。忘れないでくださいね」
 これは、足が痛む主のために使用人がするただの行為。
 これは、使用人をこき使う主の命令。
 互いに、建前を使ってようやく行為に入る。
 バットゥータは、持ってきた小瓶を手繰り寄せ、逆さにする。
 入っているのは、敏感な部分の摩擦を避けるための香油だ。
 足を開かせ、双球と性器を持ち上げる。
 その下に見える窄まりに、香油をかけた。
「食い物みたい」
 足の間に潜り込んで、尖らせた舌の先で突き回して、その快楽から逃れようと踊る腰を掴んで、窄まりにようやく舌を這わせたらアドリーが完全に我を失った。
 でも、ここからが長い。
 バットゥータの指一本だって受け入れるのに、時間がかかる。
 繋がるなんて、大抵、明け方近くだ。
 また、間髪入れずに雷。
 立て続けに、ドンドンドンドンッという音が。
 いや、扉が叩かれたのか? 
 背後で音がする。
 正体が無くなったアドリーの足の間から顔を上げると振り返るとまた。
「もしかして、館で何かあったのか?」
 アドリーの身体を毛布で包んでから扉を空ける。
「うおっ」
 エミルが言付けにやってきたのかと思いこんでいたので、予想外の客人の姿に、バットゥータは焦った。
 ずぶ濡れの状態で人が立っていたのだ。
 扉の桟の高さを越えているので、見えるのは口元だけ。目鼻は見えない。
 長衣を着た身体から雨水が滴っていて、足元には水たまりができていた。
 腰をかがめて顔を見せたのは、薬商の老人の元に居る名無しだ。
 唇が動く。
『いい?』
 指が部屋の内部を示した。
 もう片方の手には、細い小瓶が握られている。
 中に招き入れると、名無しが懐から紙を取り出した。
『僕の主に、君がやってきて、君の主用に香を買っていったことを伝えた。そしたら、
クローブの香油も持って行けって。お得意様だから。たぶん、君は持っているだろうけれど、これ、痛みを散らすように調合した特別なの物だから使ってみて』
 バットゥータに聞かれることを予め、書いてきたようだ。
「まさか、あんた一人で来たのか?逃走奴隷って勘違いされないか?」
 すると、今度は名無しは紙に文字を書いていく。
『近所の人が、見張りで付いてきていて、下で待っている。だから、あまり時間がない。あの人、どう?』
「普段よりしんどいみたいだけど」
 名無しは、雨で濡れた手を数度払うと、横たわるアドリーを見て、急ぎ足で寝台まで行き額の髪をかきあげた。
「おい。その人はあんたの主じゃねえんだぞ。そういうのは、俺が」
 だが名無しは、焦っているようでバットゥータの話を聞いていない。
 せわしなく香炉を確認し、中身を窓を開けて捨てると、綺麗になった香炉台の隅に円を描くようにして香の粉を一筋の線になるよう撒いていく。そして、バットゥータが先ほど消したろうそくを部屋の隅から持ってきて、香炉の中のと取り替える。
 新たに設置されたろうそくは小さめで、先ほどよりかなり火が香炉台から遠い。
 材料は一切変えていないのに、先ほどより深い香りが立ち始めた。
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