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第二章
33: 夢……か。声が出ないんじゃあ、相手が歌えることを隠しているとも言えねえしなあ
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それはもう、バットゥータが焼くほどに。
女奴隷をたらすため、面倒なく支配するための術なのだろうが、基本、アドリーは人好きなので、天性のものも多分に混ざっていると思う。
「男児が無事生まれたんですね。この幸せを享受できるのはアドリー様のお陰だと書いてあります」
手紙には、幾ばくかの額を送金したことや、珍しい柄の絨毯を送ったことが書かれてあった。妹達のために使ってくださいと添えられてある。ここでいう妹とは、アドリーの館にやってくる女奴隷たち全てを指し、疑似姉妹のような意味で使われる。
「助かった。首の皮二、三枚のとこで繋がった感じですね」
奴隷仲買い商として商品が多いに越したことはないが、いかんせん、生物だ。
いればいるほど、食費という経費がかかる。
買われた当初はまともな服も持っていないから衣装代もかかるし、病気をすれば薬代もいる。
それに、アドリーに買い取られた女奴隷は、滞在期間が他の奴隷商の元よりかなり長いので、余計に持ち出しが多くなる。
だから、家業はさほど潤っているとはいえず、かといって、明日食べる食事にも事欠くわけでもなく、なんとか日々を保っている感じだ。
このままでいけば下降線を下ると分かっているから、もう少し業態を広げなければならない。もちろん、アドリーだって考えていることだろう。だが、二人してのめり込めるようなこれぞというものが見つからない。
「誕生祝いに何か贈っといて」
アドリーに命じられて、
「はい。できるだけ早いうちに」
と手紙を返しながら、バットゥータは答えた。
アドリーが辺りを見回しはじめる。
女奴隷達が戻って来ていないか、気にしているようだ。
「あの、何か?」
と聞くバットゥータに、アドリーが声を潜めながら言った。
「で、どうだった?口止めできたか?」
「ああ、そのこと」
アドリーが今、一番気にしていることなのだから、普段なら一番に告げるはずなのに、バットゥータは失念していた。
そんな自分に、まだ寝ぼけてんのか、俺はと思いつつ、
「相手は、金髪碧眼の完全な白人で、大男でした。吹聴するようなタイプではなさそうなので、大丈夫だと思います。詫びの品として、ロクムを贈っときました」
「なら、よかった」
とアドリーは胸を撫で下ろす。
「歌の方は?」
アドリーがソファーから身を乗り出してきた。
男が歌う歌だとしても聞きたいものなのかとバットゥータは不思議に思いながら告げた。
「その件なんですけどね。俺とは筆談での会話だったんです。声が出せないようで。歌はアドリー様の夢だと」
伝え終わると、少し気落ちしたような表情で、アドリーがソファーにもたれ直した。
「夢……か。声が出ないんじゃあ、相手が歌えることを隠しているとも言えねえしなあ」
無理ものは、無理!さあ、次!
彼の性格は、何事にも執着せず、さっぱりしている。
だから、このようにこだわるのは珍しい。
「アドリー様?」
と話しかけても上の空だ。
「いや、そのう。なんか、今朝、ものすごく懐かしい気分で目覚めてな」
「昔、歌唄いの知り合いがいたんですか?その方が歌う夢を?」
「記憶が飛んでるから、分からん。でも、歌のせいであの時代のことがこう、喉元まで……そうだ、小鳥だ。オレ、一夏を過ごしたんだった。あいつらと」
アドリーの記憶は、十一歳から十五歳までが飛び飛びになっている。
大きな怪我を被ったからだ。
母親の顔も、黒い鉛で塗りつぶしたかのように消えてしまっていると言う。
「小鳥って、手懐けている野鳥ですか?」
「いや、人間の方の」
女奴隷をたらすため、面倒なく支配するための術なのだろうが、基本、アドリーは人好きなので、天性のものも多分に混ざっていると思う。
「男児が無事生まれたんですね。この幸せを享受できるのはアドリー様のお陰だと書いてあります」
手紙には、幾ばくかの額を送金したことや、珍しい柄の絨毯を送ったことが書かれてあった。妹達のために使ってくださいと添えられてある。ここでいう妹とは、アドリーの館にやってくる女奴隷たち全てを指し、疑似姉妹のような意味で使われる。
「助かった。首の皮二、三枚のとこで繋がった感じですね」
奴隷仲買い商として商品が多いに越したことはないが、いかんせん、生物だ。
いればいるほど、食費という経費がかかる。
買われた当初はまともな服も持っていないから衣装代もかかるし、病気をすれば薬代もいる。
それに、アドリーに買い取られた女奴隷は、滞在期間が他の奴隷商の元よりかなり長いので、余計に持ち出しが多くなる。
だから、家業はさほど潤っているとはいえず、かといって、明日食べる食事にも事欠くわけでもなく、なんとか日々を保っている感じだ。
このままでいけば下降線を下ると分かっているから、もう少し業態を広げなければならない。もちろん、アドリーだって考えていることだろう。だが、二人してのめり込めるようなこれぞというものが見つからない。
「誕生祝いに何か贈っといて」
アドリーに命じられて、
「はい。できるだけ早いうちに」
と手紙を返しながら、バットゥータは答えた。
アドリーが辺りを見回しはじめる。
女奴隷達が戻って来ていないか、気にしているようだ。
「あの、何か?」
と聞くバットゥータに、アドリーが声を潜めながら言った。
「で、どうだった?口止めできたか?」
「ああ、そのこと」
アドリーが今、一番気にしていることなのだから、普段なら一番に告げるはずなのに、バットゥータは失念していた。
そんな自分に、まだ寝ぼけてんのか、俺はと思いつつ、
「相手は、金髪碧眼の完全な白人で、大男でした。吹聴するようなタイプではなさそうなので、大丈夫だと思います。詫びの品として、ロクムを贈っときました」
「なら、よかった」
とアドリーは胸を撫で下ろす。
「歌の方は?」
アドリーがソファーから身を乗り出してきた。
男が歌う歌だとしても聞きたいものなのかとバットゥータは不思議に思いながら告げた。
「その件なんですけどね。俺とは筆談での会話だったんです。声が出せないようで。歌はアドリー様の夢だと」
伝え終わると、少し気落ちしたような表情で、アドリーがソファーにもたれ直した。
「夢……か。声が出ないんじゃあ、相手が歌えることを隠しているとも言えねえしなあ」
無理ものは、無理!さあ、次!
彼の性格は、何事にも執着せず、さっぱりしている。
だから、このようにこだわるのは珍しい。
「アドリー様?」
と話しかけても上の空だ。
「いや、そのう。なんか、今朝、ものすごく懐かしい気分で目覚めてな」
「昔、歌唄いの知り合いがいたんですか?その方が歌う夢を?」
「記憶が飛んでるから、分からん。でも、歌のせいであの時代のことがこう、喉元まで……そうだ、小鳥だ。オレ、一夏を過ごしたんだった。あいつらと」
アドリーの記憶は、十一歳から十五歳までが飛び飛びになっている。
大きな怪我を被ったからだ。
母親の顔も、黒い鉛で塗りつぶしたかのように消えてしまっていると言う。
「小鳥って、手懐けている野鳥ですか?」
「いや、人間の方の」
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