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第二章
27:呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます
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それはすなわち、アドリーの伴侶だ。
奴隷商はアドリー一代限りの家業で、子や孫に引き継いで大きくしていくという野望を彼は持ってない。
伴侶を探してくれるような親族は皆無で、当のアドリーもその手のことにまるで積極性が無いので、探すのは自分の役目だとバットゥータは思っている。
奴隷仲買い商の使用人をやっていれば、スルタンの寵姫候補を探しに奴隷商館にやってくる王宮の担当者とも顔見知りになるし、王族、裕福な商家とも繋がりがある。
使用人のバットゥータが彼らに直接願い出ることは出来ないが、彼らの使用人にそれとなく耳打ちすることはそう難しいことではない。
案外、アドリーの周りには良縁が転がっているのだ。
できれば、健康な男児を生んでくれそうな若い女。
快活であれば身分は問わない。
頭がよければ尚良し。
芸事の一つでも秀でていればなおさら。
後半二つは、おまけのようなものなので、そこまで条件は厳しくないはずなのだが、「こんな子がいますよ。あんな子がいますよ」と勧めても「ふうん」と普段は生返事が返ってくるばかり。
なのに、今朝に限って、名前どころか姿すら分からない相手を気にしているようだ。
「……すいません。俺の身体が二つあればいいのにって、自分にイラついただけです」
「このところ、家業はジリ貧だからなあ。お前に苦労かけてるのは分かっている」
「呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます」
バットゥータが言うと、アドリーが苦笑といったように軽く顔を歪めた。
きっと、彼は遠慮して、バットゥータを呼ばない。
最近、倒れそうなほど忙しいのを知っているからだ。
転売を待つ奴隷に高く売れてもらうため、そして、転売先で大切に扱って貰うため、文字や計算を教えなければならないし、文字が得意でない同業者に契約書を読んでやったり、したためてやったりする仕事も請け負っている。契約書におかしな部分があれば奴隷の登記所に出向いて確認作業や訂正も行う。転売先だって日々開拓しなければならない。
正直、これだけこなしていると余暇なんてものは無いけれど、さらにここにアドリーの足の世話が加わってくる。
彼は他人にあらぬ方向に曲がった足を見られるのが嫌なのだ。
もちろん、それはバットゥータも同じで、どんなに疲れていたとしてもアドリーの足を擦って、求められれば、香の催淫効果で我を忘れる彼の精の解放も手伝って、許しが出るなら毎回最後までしたい。
でも、自分は使用人、いや、十一年前アドリーに買われたただの奴隷。
行き過ぎた気持ちを持っていることは重々承知している。
それは誰がどう見ても、恋というものなのだろうが、思いを確定させたらますます苦しくなる。
だから、忙しいのをさらに忙しくして、不自然に見えないよう気を付けながら、距離を置くことを最近がんばって覚えようとしている最中だ。
バットゥータは、淡々とアドリーの着替えを手伝う。
着替えが終わると寝台横に立てかけてある真鍮製の杖を差し出し、アドリーの右腰に手を当てて、ゆっくりと立たせる。
右手に杖、空いた左手をバットゥータの背中に置いたアドリーは、普段なら「さて、帰るか」と言うはずだった。
でも、今朝は、
「あのさあ」
と遠慮がちに言ってくる。
「はい?何です?」
「いや、そのさあ」
「だから、何です?いくら察しがいいって言われる俺でも、 「あのさあ」や「そのさあ」だけじゃ、動けないんですけど」
「だから、その……昨晩の相手を探してくんねえかな?と思って」
バットゥータは、動揺を悟られないよう間髪入れず茶化した。
「やっぱり、気になるんじゃないですか」
「そんなんじゃねえよ。相手がお前だと勘違いして、思いっきり乱れちゃったし、泣き言や甘ったれたことも言った気がする。さすがに、やべーだろ、それ。だから、うまく口止めしといてもらえねえかな、と思って」
奴隷商はアドリー一代限りの家業で、子や孫に引き継いで大きくしていくという野望を彼は持ってない。
伴侶を探してくれるような親族は皆無で、当のアドリーもその手のことにまるで積極性が無いので、探すのは自分の役目だとバットゥータは思っている。
奴隷仲買い商の使用人をやっていれば、スルタンの寵姫候補を探しに奴隷商館にやってくる王宮の担当者とも顔見知りになるし、王族、裕福な商家とも繋がりがある。
使用人のバットゥータが彼らに直接願い出ることは出来ないが、彼らの使用人にそれとなく耳打ちすることはそう難しいことではない。
案外、アドリーの周りには良縁が転がっているのだ。
できれば、健康な男児を生んでくれそうな若い女。
快活であれば身分は問わない。
頭がよければ尚良し。
芸事の一つでも秀でていればなおさら。
後半二つは、おまけのようなものなので、そこまで条件は厳しくないはずなのだが、「こんな子がいますよ。あんな子がいますよ」と勧めても「ふうん」と普段は生返事が返ってくるばかり。
なのに、今朝に限って、名前どころか姿すら分からない相手を気にしているようだ。
「……すいません。俺の身体が二つあればいいのにって、自分にイラついただけです」
「このところ、家業はジリ貧だからなあ。お前に苦労かけてるのは分かっている」
「呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます」
バットゥータが言うと、アドリーが苦笑といったように軽く顔を歪めた。
きっと、彼は遠慮して、バットゥータを呼ばない。
最近、倒れそうなほど忙しいのを知っているからだ。
転売を待つ奴隷に高く売れてもらうため、そして、転売先で大切に扱って貰うため、文字や計算を教えなければならないし、文字が得意でない同業者に契約書を読んでやったり、したためてやったりする仕事も請け負っている。契約書におかしな部分があれば奴隷の登記所に出向いて確認作業や訂正も行う。転売先だって日々開拓しなければならない。
正直、これだけこなしていると余暇なんてものは無いけれど、さらにここにアドリーの足の世話が加わってくる。
彼は他人にあらぬ方向に曲がった足を見られるのが嫌なのだ。
もちろん、それはバットゥータも同じで、どんなに疲れていたとしてもアドリーの足を擦って、求められれば、香の催淫効果で我を忘れる彼の精の解放も手伝って、許しが出るなら毎回最後までしたい。
でも、自分は使用人、いや、十一年前アドリーに買われたただの奴隷。
行き過ぎた気持ちを持っていることは重々承知している。
それは誰がどう見ても、恋というものなのだろうが、思いを確定させたらますます苦しくなる。
だから、忙しいのをさらに忙しくして、不自然に見えないよう気を付けながら、距離を置くことを最近がんばって覚えようとしている最中だ。
バットゥータは、淡々とアドリーの着替えを手伝う。
着替えが終わると寝台横に立てかけてある真鍮製の杖を差し出し、アドリーの右腰に手を当てて、ゆっくりと立たせる。
右手に杖、空いた左手をバットゥータの背中に置いたアドリーは、普段なら「さて、帰るか」と言うはずだった。
でも、今朝は、
「あのさあ」
と遠慮がちに言ってくる。
「はい?何です?」
「いや、そのさあ」
「だから、何です?いくら察しがいいって言われる俺でも、 「あのさあ」や「そのさあ」だけじゃ、動けないんですけど」
「だから、その……昨晩の相手を探してくんねえかな?と思って」
バットゥータは、動揺を悟られないよう間髪入れず茶化した。
「やっぱり、気になるんじゃないですか」
「そんなんじゃねえよ。相手がお前だと勘違いして、思いっきり乱れちゃったし、泣き言や甘ったれたことも言った気がする。さすがに、やべーだろ、それ。だから、うまく口止めしといてもらえねえかな、と思って」
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