27 / 183
第二章
27:呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます
しおりを挟む
それはすなわち、アドリーの伴侶だ。
奴隷商はアドリー一代限りの家業で、子や孫に引き継いで大きくしていくという野望を彼は持ってない。
伴侶を探してくれるような親族は皆無で、当のアドリーもその手のことにまるで積極性が無いので、探すのは自分の役目だとバットゥータは思っている。
奴隷仲買い商の使用人をやっていれば、スルタンの寵姫候補を探しに奴隷商館にやってくる王宮の担当者とも顔見知りになるし、王族、裕福な商家とも繋がりがある。
使用人のバットゥータが彼らに直接願い出ることは出来ないが、彼らの使用人にそれとなく耳打ちすることはそう難しいことではない。
案外、アドリーの周りには良縁が転がっているのだ。
できれば、健康な男児を生んでくれそうな若い女。
快活であれば身分は問わない。
頭がよければ尚良し。
芸事の一つでも秀でていればなおさら。
後半二つは、おまけのようなものなので、そこまで条件は厳しくないはずなのだが、「こんな子がいますよ。あんな子がいますよ」と勧めても「ふうん」と普段は生返事が返ってくるばかり。
なのに、今朝に限って、名前どころか姿すら分からない相手を気にしているようだ。
「……すいません。俺の身体が二つあればいいのにって、自分にイラついただけです」
「このところ、家業はジリ貧だからなあ。お前に苦労かけてるのは分かっている」
「呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます」
バットゥータが言うと、アドリーが苦笑といったように軽く顔を歪めた。
きっと、彼は遠慮して、バットゥータを呼ばない。
最近、倒れそうなほど忙しいのを知っているからだ。
転売を待つ奴隷に高く売れてもらうため、そして、転売先で大切に扱って貰うため、文字や計算を教えなければならないし、文字が得意でない同業者に契約書を読んでやったり、したためてやったりする仕事も請け負っている。契約書におかしな部分があれば奴隷の登記所に出向いて確認作業や訂正も行う。転売先だって日々開拓しなければならない。
正直、これだけこなしていると余暇なんてものは無いけれど、さらにここにアドリーの足の世話が加わってくる。
彼は他人にあらぬ方向に曲がった足を見られるのが嫌なのだ。
もちろん、それはバットゥータも同じで、どんなに疲れていたとしてもアドリーの足を擦って、求められれば、香の催淫効果で我を忘れる彼の精の解放も手伝って、許しが出るなら毎回最後までしたい。
でも、自分は使用人、いや、十一年前アドリーに買われたただの奴隷。
行き過ぎた気持ちを持っていることは重々承知している。
それは誰がどう見ても、恋というものなのだろうが、思いを確定させたらますます苦しくなる。
だから、忙しいのをさらに忙しくして、不自然に見えないよう気を付けながら、距離を置くことを最近がんばって覚えようとしている最中だ。
バットゥータは、淡々とアドリーの着替えを手伝う。
着替えが終わると寝台横に立てかけてある真鍮製の杖を差し出し、アドリーの右腰に手を当てて、ゆっくりと立たせる。
右手に杖、空いた左手をバットゥータの背中に置いたアドリーは、普段なら「さて、帰るか」と言うはずだった。
でも、今朝は、
「あのさあ」
と遠慮がちに言ってくる。
「はい?何です?」
「いや、そのさあ」
「だから、何です?いくら察しがいいって言われる俺でも、 「あのさあ」や「そのさあ」だけじゃ、動けないんですけど」
「だから、その……昨晩の相手を探してくんねえかな?と思って」
バットゥータは、動揺を悟られないよう間髪入れず茶化した。
「やっぱり、気になるんじゃないですか」
「そんなんじゃねえよ。相手がお前だと勘違いして、思いっきり乱れちゃったし、泣き言や甘ったれたことも言った気がする。さすがに、やべーだろ、それ。だから、うまく口止めしといてもらえねえかな、と思って」
奴隷商はアドリー一代限りの家業で、子や孫に引き継いで大きくしていくという野望を彼は持ってない。
伴侶を探してくれるような親族は皆無で、当のアドリーもその手のことにまるで積極性が無いので、探すのは自分の役目だとバットゥータは思っている。
奴隷仲買い商の使用人をやっていれば、スルタンの寵姫候補を探しに奴隷商館にやってくる王宮の担当者とも顔見知りになるし、王族、裕福な商家とも繋がりがある。
使用人のバットゥータが彼らに直接願い出ることは出来ないが、彼らの使用人にそれとなく耳打ちすることはそう難しいことではない。
案外、アドリーの周りには良縁が転がっているのだ。
できれば、健康な男児を生んでくれそうな若い女。
快活であれば身分は問わない。
頭がよければ尚良し。
芸事の一つでも秀でていればなおさら。
後半二つは、おまけのようなものなので、そこまで条件は厳しくないはずなのだが、「こんな子がいますよ。あんな子がいますよ」と勧めても「ふうん」と普段は生返事が返ってくるばかり。
なのに、今朝に限って、名前どころか姿すら分からない相手を気にしているようだ。
「……すいません。俺の身体が二つあればいいのにって、自分にイラついただけです」
「このところ、家業はジリ貧だからなあ。お前に苦労かけてるのは分かっている」
「呼び出してくれていいですよ。どんな時だって駆けつけます」
バットゥータが言うと、アドリーが苦笑といったように軽く顔を歪めた。
きっと、彼は遠慮して、バットゥータを呼ばない。
最近、倒れそうなほど忙しいのを知っているからだ。
転売を待つ奴隷に高く売れてもらうため、そして、転売先で大切に扱って貰うため、文字や計算を教えなければならないし、文字が得意でない同業者に契約書を読んでやったり、したためてやったりする仕事も請け負っている。契約書におかしな部分があれば奴隷の登記所に出向いて確認作業や訂正も行う。転売先だって日々開拓しなければならない。
正直、これだけこなしていると余暇なんてものは無いけれど、さらにここにアドリーの足の世話が加わってくる。
彼は他人にあらぬ方向に曲がった足を見られるのが嫌なのだ。
もちろん、それはバットゥータも同じで、どんなに疲れていたとしてもアドリーの足を擦って、求められれば、香の催淫効果で我を忘れる彼の精の解放も手伝って、許しが出るなら毎回最後までしたい。
でも、自分は使用人、いや、十一年前アドリーに買われたただの奴隷。
行き過ぎた気持ちを持っていることは重々承知している。
それは誰がどう見ても、恋というものなのだろうが、思いを確定させたらますます苦しくなる。
だから、忙しいのをさらに忙しくして、不自然に見えないよう気を付けながら、距離を置くことを最近がんばって覚えようとしている最中だ。
バットゥータは、淡々とアドリーの着替えを手伝う。
着替えが終わると寝台横に立てかけてある真鍮製の杖を差し出し、アドリーの右腰に手を当てて、ゆっくりと立たせる。
右手に杖、空いた左手をバットゥータの背中に置いたアドリーは、普段なら「さて、帰るか」と言うはずだった。
でも、今朝は、
「あのさあ」
と遠慮がちに言ってくる。
「はい?何です?」
「いや、そのさあ」
「だから、何です?いくら察しがいいって言われる俺でも、 「あのさあ」や「そのさあ」だけじゃ、動けないんですけど」
「だから、その……昨晩の相手を探してくんねえかな?と思って」
バットゥータは、動揺を悟られないよう間髪入れず茶化した。
「やっぱり、気になるんじゃないですか」
「そんなんじゃねえよ。相手がお前だと勘違いして、思いっきり乱れちゃったし、泣き言や甘ったれたことも言った気がする。さすがに、やべーだろ、それ。だから、うまく口止めしといてもらえねえかな、と思って」
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる