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第一章

21:僕、……見世物じゃないよ

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 たった二歳しか違わない男が、今日は大人っぽく見える。
「何を?」
「何をって」
 ラシードの手が僕の上半身を這い、さらにその下へ。
 夜着の上から、不完全な男の部分を触られた。
 僕は反射的に身体を縮めた。
 すると、ラシードが身体を起こして僕の上に素早く馬乗りになる。
「どうしたの。急に?」
「止めろって?何で?」
「僕、……見世物じゃないよ」
「オレは、お前の身体の隅々まで見てみたいんだけど」
「小鳥っていう歌を歌う見世物だけど、身体は違うよ。どっちもだろってみんな言うかもしれないけれど、僕は……」
 裾を強引にたくし上げようとしていたラシードの手が止まる。でも、気持ちの落とし所がないのか、急に僕の両肩に手を置いて体重をかけてきて、僕の唇に自分の唇を重ねてきた。
 この国に来て僕は色んな部分が汚れてしまったけれど、それをしたのは、この人の父親で、さらには、いい人が出来るまで取っておけと言ってくれたのも、その人で……。
 気づけばラシードの肩を掴んで、思いっきり突き飛ばしていた。
 芝生に尻もちをついたラシードは、いつものクセで左手で右肘を掴む僕を見て、
「どうして、オレは駄目なんだよ?」
と聞いてくる。そして、
「唇ぐらいいいだろっ?」
と膝立ちになって詰め寄ってきた。
「してない」
 僕は、肘を押さえたまま後退し距離を取った。
「唇は、いい人が出来るまで取っておけって」
「やられた相手にか?言いくるめられやがって」
 ラシードが眉根を寄せた。
 ラグに僕の涙がボタボタと溢れた。
「僕は、歌を歌うためにこの国にやってきた。父さんと母さんと兄弟が大勢いるから、みんなを食わすために、小鳥になるための手術を命がけで受けた。でもね、求められたのは、夜の行為だけ。ラシード様は僕が歌ったらすごいって褒めてくれたから、嬉しかった。でも、本当にしたかったのはこういう行為だったんだね。気づかなくてごめん。僕は馬鹿な小鳥だ」
「違うっ」
 今まで声を荒げたことのないラシードが怒鳴った。
「オレだってお前の歌をずっと聞きたいって思うよ、だってすげえもん。けど、同時にその唇を塞ぎたくなるんだよっ。わけわかんねえよ」
 ラシードが心臓の辺りをさすった。
 きっとざわざわしているんだ。
 経験したからよくわかる。
「帰ろう。送っていく」
 手首を取られ、僕は強引に起き上がらせられた。
「ラグは?本は?」
「いい。お前を宿舎に届けてから、オレ一人片付けに戻る」
「……ラシード様」
 呼びかけると、ラシードがピタリと立ち止まる。
「何だよ。拒んだくせに、泣きそうな声でオレの名前を呼ぶな」
「ごめん。僕も、何で呼びかけたのか分からない」
 そう答えれば、スルタンは、「そうか。君が自身の気持ちが分からないなら、私はもっと分からないな」と笑うはずだった。
 でも、ラシードは、
「もういいよっ!」
と叫んで、振り向いて僕の唇を指でグイグイと拭ってくる。
「さっきの取り消す」
 いつもハリのある威勢のいい声は最後は聞き取れないほど小さかった。
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