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第一章

13:相手は誰?

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 僕は首を振った。
「取られちゃうから」
 プロフたちは、預かっておくと言って結局自分の物にしてしまう。
 今夜の思い出が含まれた品を彼に取られてしまうのが嫌だった。
「お前、欲がないねえ。取られそうなら、隠せばいいのに。まあ、いいや。機会を見てお前に渡すよ、約束する」
「はい。おやすみなさい」
「おう。またな」
とラシードが言った。
 さらに何か言いたいのだけれど、思いつかなくて黙っていると、
「なあ」
 ラシードが続けた。
「これからも、寝所にあがるのか?」
 そうだった。
 僕は、数時間前までスルタンの寝所にいたんだった。
 上がりかけていた気分も、一瞬で沈む。
「また呼ぶ、とは言われたけれど……」
「相手は誰?」
「……それは」
 さすがに、スルタンとはいえない。
 彼の父親なのだから。
「言いたくなければ、いいけどさ。もし、悲しくなったらオレが不在にしていても勝手に部屋に入っていていいから。それが言いたかっただけ。まだまだお前に聞きたいことがあるし」
 それって、僕だけ?
 それとも、あそこで泣いていた全員にそういう優しいことをしているの?
 そう聞きたい。
 でも、できない。
「ああ、そうだけど?」ときょとんとした顔を見るのが辛い。 
 僕は誰かの特別になれないということを、歌を通してよくわかっている。
 夜の小鳥の方も。
 だから、ラシードだってきっと僕を特別とは思ってない。
 たまたま出会って、興味を持ってくれただけ。
 ラシードは、扉を明け椅子に座って船を漕いでいる寝ずの番を叩き起こす。
「おい。起きろ。仕事しろ。こいつを小鳥の宿舎まで」
「ん?ああ?あっ!ラシード様」
「おはよう。よく寝たな?」
 にっこりと笑うラシードは対して、門番は見ていてかわいそうになるほど慌てふためいている。
「上官にチクリはしねえから、ほら、仕事仕事」
 ラシードは、僕を寝ずの番に押し付けると、「ふああ」とあくび。
 もう空は明るい。
 さすがの宵っ張りも眠くなったようだ。
 もうここでお別れだと思うと僕は寂しくなった。
 でも、ラシードは、そうではないらしい。さっと踵を返し、
「じゃあな、小鳥」
と言い、あっさりと帰って行った。

 それから三日と空けずスルタンからお召があった。
 近隣の豪商の館で歌って、ご褒美のお菓子を貰って、夕方からはまた別の館でと忙しい現実に、あの夜のことをゆっくり忘れていっている最中に起こった衝撃だった。
 一回目は様子見。
 そこで気に入られなければ二度目はない。
 二度目は確認。
 これから、何度も呼ぶために、一時の興奮から来るものではないと冷静に判断するための回だと言う。
 何の準備もいらないというお達しがわざわざ合って、僕は夜着だけ着せられてまた、スルタンの寝所に連れて行かれた。
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