13 / 183
第一章
13:相手は誰?
しおりを挟む
僕は首を振った。
「取られちゃうから」
プロフたちは、預かっておくと言って結局自分の物にしてしまう。
今夜の思い出が含まれた品を彼に取られてしまうのが嫌だった。
「お前、欲がないねえ。取られそうなら、隠せばいいのに。まあ、いいや。機会を見てお前に渡すよ、約束する」
「はい。おやすみなさい」
「おう。またな」
とラシードが言った。
さらに何か言いたいのだけれど、思いつかなくて黙っていると、
「なあ」
ラシードが続けた。
「これからも、寝所にあがるのか?」
そうだった。
僕は、数時間前までスルタンの寝所にいたんだった。
上がりかけていた気分も、一瞬で沈む。
「また呼ぶ、とは言われたけれど……」
「相手は誰?」
「……それは」
さすがに、スルタンとはいえない。
彼の父親なのだから。
「言いたくなければ、いいけどさ。もし、悲しくなったらオレが不在にしていても勝手に部屋に入っていていいから。それが言いたかっただけ。まだまだお前に聞きたいことがあるし」
それって、僕だけ?
それとも、あそこで泣いていた全員にそういう優しいことをしているの?
そう聞きたい。
でも、できない。
「ああ、そうだけど?」ときょとんとした顔を見るのが辛い。
僕は誰かの特別になれないということを、歌を通してよくわかっている。
夜の小鳥の方も。
だから、ラシードだってきっと僕を特別とは思ってない。
たまたま出会って、興味を持ってくれただけ。
ラシードは、扉を明け椅子に座って船を漕いでいる寝ずの番を叩き起こす。
「おい。起きろ。仕事しろ。こいつを小鳥の宿舎まで」
「ん?ああ?あっ!ラシード様」
「おはよう。よく寝たな?」
にっこりと笑うラシードは対して、門番は見ていてかわいそうになるほど慌てふためいている。
「上官にチクリはしねえから、ほら、仕事仕事」
ラシードは、僕を寝ずの番に押し付けると、「ふああ」とあくび。
もう空は明るい。
さすがの宵っ張りも眠くなったようだ。
もうここでお別れだと思うと僕は寂しくなった。
でも、ラシードは、そうではないらしい。さっと踵を返し、
「じゃあな、小鳥」
と言い、あっさりと帰って行った。
それから三日と空けずスルタンからお召があった。
近隣の豪商の館で歌って、ご褒美のお菓子を貰って、夕方からはまた別の館でと忙しい現実に、あの夜のことをゆっくり忘れていっている最中に起こった衝撃だった。
一回目は様子見。
そこで気に入られなければ二度目はない。
二度目は確認。
これから、何度も呼ぶために、一時の興奮から来るものではないと冷静に判断するための回だと言う。
何の準備もいらないというお達しがわざわざ合って、僕は夜着だけ着せられてまた、スルタンの寝所に連れて行かれた。
「取られちゃうから」
プロフたちは、預かっておくと言って結局自分の物にしてしまう。
今夜の思い出が含まれた品を彼に取られてしまうのが嫌だった。
「お前、欲がないねえ。取られそうなら、隠せばいいのに。まあ、いいや。機会を見てお前に渡すよ、約束する」
「はい。おやすみなさい」
「おう。またな」
とラシードが言った。
さらに何か言いたいのだけれど、思いつかなくて黙っていると、
「なあ」
ラシードが続けた。
「これからも、寝所にあがるのか?」
そうだった。
僕は、数時間前までスルタンの寝所にいたんだった。
上がりかけていた気分も、一瞬で沈む。
「また呼ぶ、とは言われたけれど……」
「相手は誰?」
「……それは」
さすがに、スルタンとはいえない。
彼の父親なのだから。
「言いたくなければ、いいけどさ。もし、悲しくなったらオレが不在にしていても勝手に部屋に入っていていいから。それが言いたかっただけ。まだまだお前に聞きたいことがあるし」
それって、僕だけ?
それとも、あそこで泣いていた全員にそういう優しいことをしているの?
そう聞きたい。
でも、できない。
「ああ、そうだけど?」ときょとんとした顔を見るのが辛い。
僕は誰かの特別になれないということを、歌を通してよくわかっている。
夜の小鳥の方も。
だから、ラシードだってきっと僕を特別とは思ってない。
たまたま出会って、興味を持ってくれただけ。
ラシードは、扉を明け椅子に座って船を漕いでいる寝ずの番を叩き起こす。
「おい。起きろ。仕事しろ。こいつを小鳥の宿舎まで」
「ん?ああ?あっ!ラシード様」
「おはよう。よく寝たな?」
にっこりと笑うラシードは対して、門番は見ていてかわいそうになるほど慌てふためいている。
「上官にチクリはしねえから、ほら、仕事仕事」
ラシードは、僕を寝ずの番に押し付けると、「ふああ」とあくび。
もう空は明るい。
さすがの宵っ張りも眠くなったようだ。
もうここでお別れだと思うと僕は寂しくなった。
でも、ラシードは、そうではないらしい。さっと踵を返し、
「じゃあな、小鳥」
と言い、あっさりと帰って行った。
それから三日と空けずスルタンからお召があった。
近隣の豪商の館で歌って、ご褒美のお菓子を貰って、夕方からはまた別の館でと忙しい現実に、あの夜のことをゆっくり忘れていっている最中に起こった衝撃だった。
一回目は様子見。
そこで気に入られなければ二度目はない。
二度目は確認。
これから、何度も呼ぶために、一時の興奮から来るものではないと冷静に判断するための回だと言う。
何の準備もいらないというお達しがわざわざ合って、僕は夜着だけ着せられてまた、スルタンの寝所に連れて行かれた。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる