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第一章

3:かわいそうだ、男として

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 ガクガクと身体が震えだす。
 ヴェールを付けられていたときより、ひどい。
 そんな僕を黙って見ていたスルタンがやがて口を開いた。
「褒めるのを忘れていた。見事な金髪、それと青い目だ」
 ろうそくの明かりはぼんやりとしていて、そこまではっきりとはわからないはず。
 しかも、褒めるのを忘れていたって……。
 笑おうとしたら、なぜか、涙がこぼれてきた。
 プロフには、スルタンの前で絶対に泣くなと言われている。
 それに、逆らうなとも。
 僕が粗相をすれば一座は皆殺しなんだぞ、と何度も言い聞かされてここまで来た。
 大人しくしなければとわかっているのに、僕の身体は涙を拭おうとするスルタンの手を逃れ、勝手に寝台を後退する。
 すぐに端っこやがってきて落ちそうなところを、スルタンに腕を掴まれて床に落下するのを免れた。
「小鳥。私は君に乱暴したいわけじゃない。ただ、今晩、気持ちよく眠るために、相手をしてほしいだけだ。分かるかい?」
 覚悟を決めて頷くと、「なら、おいで」と言いながらスルタンが寝台に横たわった。
 そして、ここに座れと敷布をトントンと叩く。
 疑り深い猫みたいに慎重の側に寄っていって、横たわるスルタンと向き合うようにして座る。
 左手で右肘を押さえ身を守るようにして、スルタンが喋りだすのを待った。
「小鳥たちはある程度仕込まれていると聞いているが、本当に大丈夫か?」
 確認されて「話だけは」と僕は答える。
 小鳥は昼に歌を歌い、主催者に気に入られれば夜には嬌声をあげるのだ。
 相手は男だったり、女だったり、年配だったり若かったりさまざま。
 でも、僕にはそんな機会はないと思っていた。
 メインのパートを務められるほどの実力が無く、出番が少ないからだ。
 今日はここ新宮殿の庭の特設舞台で小鳥のお披露目会があったのだが、歌えたのはいつもと同じくほんの数パートだけ。あとはずっと舞台袖だった。
 だから、お披露目会が終わった昼すぎに、御側衆の一人がやってきて夜にスルタンの寝所に上がるように言われ仰天した。
 女みたいに男の性器を柔軟に受け入れる場所が無いから、代替えとして尻を使うと言われた。プロフに何時間もかけて大人の指を何本も入れられて柔らかくされた。泣いても喚いてもプロフはやめてくれなくて、最後にはとどめとばかりに張り型を入れられた。だから、今、寝台の上に座っていると、尻の異物感が気になってしょうがない。
「寝そべって」
 スルタンに命令され、人一人分の距離を開けて横たわる。
 下半身の付け根に手を置いて、そこを見られるのを防ぐ。
 この身体を隅々まで見られるのは嫌だ。
 拙い抵抗をする僕を、スルタンは肘枕をして見ている。
「そう緊張せずに。こちらもとんでもない高い契約を結ばされているから、大事に扱う。君らはローマ法王によって放たれた黄金の小鳥。だから、壊すな。声を枯らさせるな。怯えさせるな、といくつもの注意を予め受けている。とにかく気をつかえということだ。これじゃ、どっちが客なのかわかりゃしない」
 肘枕をしていない方のスルタンの手が、下半身に置いている僕の手をゆっくりと取り払った。
 かあっと体温が上がっていく。
「ふむ。幼児ほどの大きさしかないな。高い声を一生保ち続けるためとはいえ、かわいそうだ、男として」 
 それは、生涯小鳥として生きるための代償だ。
 双球は完全に切り取られ、肉棒も半分以下しか無い。
 そのせいで、親になる能力も無い。
 スルタンの手は、僕のかつて性器だった場所に伸びていく。
 そして、小さな肉棒を掴んだ。
 医者以外の人間に初めて触れられ、僕は途方もなく恥ずかしくなった。
「痛みはあるのか?」
 頷くと摘んだそこをスルタンが動かし始める。
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