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第一章
1:確かにこれは、夜の小鳥だな
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僕が見上げた天井は、この国に来て初めて見た高さだった。
部屋というよりは、催し物ができそうな広間といっていい。
そこに大きな寝台が一つ。
贅沢な使い方だ。
ろうそくが寝台横の小机にぽつんと灯っている。
上半身を起こし、枕の下に腰を当てて本を呼んでいる男がいた。
ろうそくの明かりで夜着から見える手や首元が浅黒い肌だというのがぼんやりと分かる。
男がこちらを向いた。
髪と瞳は黒い。
そして、布の縁にシャラシャラ鳴る薄く丸い金属がついたヴェールを被せられ、前開きの衣装を着せられた僕を見て、本を閉じながら言った。
「確かにこれは、夜の小鳥だな」
名は、ムラト三世。
世界の覇者オスマン帝国を治めるスルタン(王)だ。
ここは、イスタンブールの海を臨む宮殿で、皆からは新宮殿と呼ばれている。
街中に昔の宮殿があるからだ。
そして、この部屋はスルタンの寝所だった。
僕の背後には大きな扉があった。
ふり向くと、扉の隙間から廊下が見える。そこにはプロフが怖い顔して立っていて、小声で「行け!早く、行け」と手を伸ばし僕の背中を痛いぐらいに押してきた。
プロフは名前ではない。先生という意味だ。
僕や、その他の子に声楽を教えている。
僕は、男ばかり八歳から十八歳まで五十人ほどの声楽一座に所属していて、この国の随所を回って歌を披露する。
皆、小鳥のように歌うので、僕らは「小鳥。小鳥」とまるでそれが名前であるかのように呼ばれるのだ。
そして、今は夜で、スルタンの寝所に呼ばれたから「夜の小鳥」
寝台ではスルタンが起き上がろうとしていた。
怖くて背後に助けを求めると、扉の隙間からプロフの目が見えた。
『絶対にヘマをするなよ』
言葉に出さずともそう言っているのが分かる。
音もなく扉が閉められて、二年前に生きるか死ぬかの手術を受けた時以上の緊張がやってきた。
だって、スルタンの前で失敗をしたら命はない。
誰彼無く殺すという冷酷な人だと聞いている。
「おいで。小鳥」
スルタンは、寝台の前でしゃがんだ。
猫を手懐けるように僕を呼ぶ。
想像していたより、ずっと優しい声だ。
一歩踏み出す。
足の感覚がない。
なのに、尻に入れられた張り型がすれて、そこだけが疼く。
「もったいぶるか。その年で誰に教わった?」
無理やりつけられたヴェールの裾が緊張で震えるせいでシャラシャラ鳴るから、スルタンはわかっているはずだ。
だから、必死で頭を振った。
「冗談だ。こちらに寄って来てきてくれないなら私が行こう」
腰を上げたスルタンは、足首まである夜着の裾を翻しながらスタスタと僕に向かってやってきて、目の前に立った。
三十代の終わりぐらいだろうか。
いや、それ以上?齢が分からない。
部屋というよりは、催し物ができそうな広間といっていい。
そこに大きな寝台が一つ。
贅沢な使い方だ。
ろうそくが寝台横の小机にぽつんと灯っている。
上半身を起こし、枕の下に腰を当てて本を呼んでいる男がいた。
ろうそくの明かりで夜着から見える手や首元が浅黒い肌だというのがぼんやりと分かる。
男がこちらを向いた。
髪と瞳は黒い。
そして、布の縁にシャラシャラ鳴る薄く丸い金属がついたヴェールを被せられ、前開きの衣装を着せられた僕を見て、本を閉じながら言った。
「確かにこれは、夜の小鳥だな」
名は、ムラト三世。
世界の覇者オスマン帝国を治めるスルタン(王)だ。
ここは、イスタンブールの海を臨む宮殿で、皆からは新宮殿と呼ばれている。
街中に昔の宮殿があるからだ。
そして、この部屋はスルタンの寝所だった。
僕の背後には大きな扉があった。
ふり向くと、扉の隙間から廊下が見える。そこにはプロフが怖い顔して立っていて、小声で「行け!早く、行け」と手を伸ばし僕の背中を痛いぐらいに押してきた。
プロフは名前ではない。先生という意味だ。
僕や、その他の子に声楽を教えている。
僕は、男ばかり八歳から十八歳まで五十人ほどの声楽一座に所属していて、この国の随所を回って歌を披露する。
皆、小鳥のように歌うので、僕らは「小鳥。小鳥」とまるでそれが名前であるかのように呼ばれるのだ。
そして、今は夜で、スルタンの寝所に呼ばれたから「夜の小鳥」
寝台ではスルタンが起き上がろうとしていた。
怖くて背後に助けを求めると、扉の隙間からプロフの目が見えた。
『絶対にヘマをするなよ』
言葉に出さずともそう言っているのが分かる。
音もなく扉が閉められて、二年前に生きるか死ぬかの手術を受けた時以上の緊張がやってきた。
だって、スルタンの前で失敗をしたら命はない。
誰彼無く殺すという冷酷な人だと聞いている。
「おいで。小鳥」
スルタンは、寝台の前でしゃがんだ。
猫を手懐けるように僕を呼ぶ。
想像していたより、ずっと優しい声だ。
一歩踏み出す。
足の感覚がない。
なのに、尻に入れられた張り型がすれて、そこだけが疼く。
「もったいぶるか。その年で誰に教わった?」
無理やりつけられたヴェールの裾が緊張で震えるせいでシャラシャラ鳴るから、スルタンはわかっているはずだ。
だから、必死で頭を振った。
「冗談だ。こちらに寄って来てきてくれないなら私が行こう」
腰を上げたスルタンは、足首まである夜着の裾を翻しながらスタスタと僕に向かってやってきて、目の前に立った。
三十代の終わりぐらいだろうか。
いや、それ以上?齢が分からない。
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