126 / 126
第七章
126:ここに、居着こうと思ったのも、やっぱりフルーツティかな
しおりを挟む
「俺、考えてやったろ?ウエルカムサービス:猟師が作る台湾プリン。猟師が作るフルーツティーって」
「それが物騒なんだって」
「物騒って何だよ。物騒って。じゃあ」
半分膨れながら、ジンは首を撚る。
「猟師が作る八ヶ岳プリン。ピアニストが入れる八ヶ岳スペシャルフルーツティー。スタッフ猫三匹による合唱(※スタッフの気分によります)でどうだ?先に別サイトにアップしたショート動画のアクセス率は、猫どもが断トツなんだろ?猫を絡めておこうぜ」
「うん。コウ、フク、マルの三匹が薪ストーブの部屋で遊んでいるところ、次が彼らに邪魔されながらピアノを弾く僕」
「俺は?」
「美馬君曰く、鹿を担いでいるジンの動画が一番、アクセス率よくないって」
「やっぱ、あいつ、殺そう」
彼方が「さっき、ジンが提案してくれたのなんだっけ?」とパソコンに集中しだしたので、床に散らばった物を脇に片付け、「ありがと」という言葉を貰いキッチンへ。
鞄からちょっとした戦利品を取り出す。
早取れの春の果物たちだ。今朝、山に向かって車を走らせている最中に、知り合いのビニールハウス農家から偶然貰ったのだ。
「ジン。そういえば、ゴールデンウィーク前に美馬君がバーベキューしようって言っていた。千山君帰ってくるんだって。五井君もホテルの手伝いが忙しくなる前だから大歓迎って。秋野君も呼ぼうって。皆仕事もあるだろうから、週末の夕方ならいい?」
彼方がパソコン画面を叩きながら、ジンに伝えてくる。
その様子があまりにも自然で、ジンはじんわりとした充実を感じた。
まるで、ずっと前からの友達が、恋人に昇格したかのようなそんな雰囲気が最高によかった。
ちりじりになったジンの同級生らと彼方はもう結構密なコミュニケーションを取っているらしい。コミュ障で友達が少ないジンはすぐに抜かれてしまいそうだ。
「僕、秋野君と初めて会う。役所関係の問い合わせで電話では話したことがあるんだけど。なんだか、不思議な気分だな。あ、そうだ。秋野君がこの宿、広報で移住者の紹介したいから本格始動したら是非取材にって」
ジンは風呂場へと向かいながら言った。
「バーベキューやるなら、千山は呼ばなくていいぞ。あいつ、嗅ぎつけて勝手に来るし」
「もう。素直に仲良くしなって!」
という彼方の声が遠くから飛んでくる。
さっとシャワーを浴び、彼方が沸かしてくれた風呂に浸かったジンは再び薪ストーブの部屋へと戻る。
あれからそんなに時間は経っていないのだが、彼方はテーブルに突っ伏してうたた寝をしていた。
きっと、日々やりたいことが増えていきこなしきれなくなっていて、子供がぱたっと寝るみたいに力尽きてしまったのだろう。
その隙に、果物の皮を次々に剥いていき、食べる用と凍らせる用に分けてカットし、今、使うようだけ手元に残し、他を冷蔵庫と冷蔵庫にしまう。
そして、久しぶりにガラスのティーポットを取り出した。
戦利品の果物は、キウイフルーツ、さくらんぼ、ビワ、ぶどう、マンゴー、ライチ。そして、時期の終わりかけたイチゴ。
それをたっぷり入れて、フルーツティーを作る。
持っていくと、彼方が目覚めた。横で眠っていた猫らも目を覚ます。
「あ、フルーツティ!!いい匂いがすると思ってたんだよ。夢かと」
ポットからガラスのカップに注いでやると、鼻をひくつかせた。
「そういえば、彼方に最初に振る舞ったのって、フルーツティだったよな」
「うん。僕、あれで生き返ったよ。ここに、居着こうと思ったのも、やっぱりフルーツティかな。あ、ジンが作るフルーツティね」
ジンはわざわざ付け足された言葉が嬉しくて、彼方に恭しくカップを差し出す。
「ストックが無くなっちゃったから、飲むの久しぶりだ。でも、前と香りが少し違うね。華やかな気がする」
「冬には冬のフルーツティ。春には春のフルーツティがあんの、八ヶ岳には」
とジンは自分のカップに注ぎながら答える
「じゃあ、夏と秋は僕、まだ知らないから」
コクンと一口飲んだ彼方が、ジンに唇を近づけてくる。
そして、「楽しみだな」と甘い香りの口で言った。
ジンも一口飲んでから、彼方の両耳をそっと押さえ、キスを返す。
お望みの、カプッと口全体を覆い尽くすキスを。
彼方の耳はもう痛むことはない。
聞こえないということも無くなった。
全てが終わって、全てが新しく始まったのだ。
「なあ、彼方」
ジンが続けて、格好良く愛の言葉を囁やこうとした瞬間、
「あ、痛っ」
嫉妬に狂った猫たちが、尻尾でバンバンとジンの顔を叩いてきて、彼方を存分に笑わせた。
「それが物騒なんだって」
「物騒って何だよ。物騒って。じゃあ」
半分膨れながら、ジンは首を撚る。
「猟師が作る八ヶ岳プリン。ピアニストが入れる八ヶ岳スペシャルフルーツティー。スタッフ猫三匹による合唱(※スタッフの気分によります)でどうだ?先に別サイトにアップしたショート動画のアクセス率は、猫どもが断トツなんだろ?猫を絡めておこうぜ」
「うん。コウ、フク、マルの三匹が薪ストーブの部屋で遊んでいるところ、次が彼らに邪魔されながらピアノを弾く僕」
「俺は?」
「美馬君曰く、鹿を担いでいるジンの動画が一番、アクセス率よくないって」
「やっぱ、あいつ、殺そう」
彼方が「さっき、ジンが提案してくれたのなんだっけ?」とパソコンに集中しだしたので、床に散らばった物を脇に片付け、「ありがと」という言葉を貰いキッチンへ。
鞄からちょっとした戦利品を取り出す。
早取れの春の果物たちだ。今朝、山に向かって車を走らせている最中に、知り合いのビニールハウス農家から偶然貰ったのだ。
「ジン。そういえば、ゴールデンウィーク前に美馬君がバーベキューしようって言っていた。千山君帰ってくるんだって。五井君もホテルの手伝いが忙しくなる前だから大歓迎って。秋野君も呼ぼうって。皆仕事もあるだろうから、週末の夕方ならいい?」
彼方がパソコン画面を叩きながら、ジンに伝えてくる。
その様子があまりにも自然で、ジンはじんわりとした充実を感じた。
まるで、ずっと前からの友達が、恋人に昇格したかのようなそんな雰囲気が最高によかった。
ちりじりになったジンの同級生らと彼方はもう結構密なコミュニケーションを取っているらしい。コミュ障で友達が少ないジンはすぐに抜かれてしまいそうだ。
「僕、秋野君と初めて会う。役所関係の問い合わせで電話では話したことがあるんだけど。なんだか、不思議な気分だな。あ、そうだ。秋野君がこの宿、広報で移住者の紹介したいから本格始動したら是非取材にって」
ジンは風呂場へと向かいながら言った。
「バーベキューやるなら、千山は呼ばなくていいぞ。あいつ、嗅ぎつけて勝手に来るし」
「もう。素直に仲良くしなって!」
という彼方の声が遠くから飛んでくる。
さっとシャワーを浴び、彼方が沸かしてくれた風呂に浸かったジンは再び薪ストーブの部屋へと戻る。
あれからそんなに時間は経っていないのだが、彼方はテーブルに突っ伏してうたた寝をしていた。
きっと、日々やりたいことが増えていきこなしきれなくなっていて、子供がぱたっと寝るみたいに力尽きてしまったのだろう。
その隙に、果物の皮を次々に剥いていき、食べる用と凍らせる用に分けてカットし、今、使うようだけ手元に残し、他を冷蔵庫と冷蔵庫にしまう。
そして、久しぶりにガラスのティーポットを取り出した。
戦利品の果物は、キウイフルーツ、さくらんぼ、ビワ、ぶどう、マンゴー、ライチ。そして、時期の終わりかけたイチゴ。
それをたっぷり入れて、フルーツティーを作る。
持っていくと、彼方が目覚めた。横で眠っていた猫らも目を覚ます。
「あ、フルーツティ!!いい匂いがすると思ってたんだよ。夢かと」
ポットからガラスのカップに注いでやると、鼻をひくつかせた。
「そういえば、彼方に最初に振る舞ったのって、フルーツティだったよな」
「うん。僕、あれで生き返ったよ。ここに、居着こうと思ったのも、やっぱりフルーツティかな。あ、ジンが作るフルーツティね」
ジンはわざわざ付け足された言葉が嬉しくて、彼方に恭しくカップを差し出す。
「ストックが無くなっちゃったから、飲むの久しぶりだ。でも、前と香りが少し違うね。華やかな気がする」
「冬には冬のフルーツティ。春には春のフルーツティがあんの、八ヶ岳には」
とジンは自分のカップに注ぎながら答える
「じゃあ、夏と秋は僕、まだ知らないから」
コクンと一口飲んだ彼方が、ジンに唇を近づけてくる。
そして、「楽しみだな」と甘い香りの口で言った。
ジンも一口飲んでから、彼方の両耳をそっと押さえ、キスを返す。
お望みの、カプッと口全体を覆い尽くすキスを。
彼方の耳はもう痛むことはない。
聞こえないということも無くなった。
全てが終わって、全てが新しく始まったのだ。
「なあ、彼方」
ジンが続けて、格好良く愛の言葉を囁やこうとした瞬間、
「あ、痛っ」
嫉妬に狂った猫たちが、尻尾でバンバンとジンの顔を叩いてきて、彼方を存分に笑わせた。
0
お気に入りに追加
49
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結おめでとうございます😃
私もリバは読むの怖かった😅けど、この凸凹の二人だから読めた気がします
彼方さんの成長がこれから楽しみなところで終幕で残念です😫けど、新作気になる❗から仕方ない
彼方さんのピアノがうまくなり、動画で荒稼ぎできること祈ってます
きっとそのうちおばあちゃんの弟子とかで、先生から聞きました❗
是非とも指導させて❗とおばちゃんが訪ねてくるまでが目にうかぶ
ジンと彼方の結婚生活が穏やかに続きますように💝💝💝💝💝💝
新しいお話読ませて頂きます😃ありがとうございます🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹
コメントありがとうございます。
書くのが大変な作品でしたがようやく完結までこぎつけることができました。
リバは難しいけれど、書くの楽しかったです。
彼方が今後どう成長していくのかは、鹿の子さんの脳内でということでw
今の時期に八ヶ岳に行ったら、さぞかし快適だろうなあと思いつつ、エンドマークをこの作品につけることにします。夏のフルーツティもおいしいだろうし、川釣りとかバーベキューとか楽しそう。熱帯夜も無いでしょうしねえ。羨ましい。ジンは体温高そうなので、彼方が暑がって離れて床で寝ているのに、ジンが追いかけてきて結局一緒に寝てそうとか、想像しちゃいます。
完結させた作品ってもう登場人物はエピソードを紡ぐことはないのですが、現代物の作品のせいか、いろいろ想像して楽しくなっちゃいます。
完結までたくさんのコメントありがとうございました!
毎日更新ありがとうございます
私がノロノロ家事や介護に追われてる間に着々と話がすすみ、日々の変化に乏しいなか何かしら自己のなか育つもの感じます
彼方が青山彼方ときちんとなり、ホットします
あのいけすかない男たちの血縁で飼い殺してる?犯罪者の息子でかくまれてる?とか考えてました😅一応彼方さんの成人までごはんやピアノを与えてくれたなら良いところもあったハズの方々に養われてたのね
ジンにはどうしても心穏やかにできないでしょうけど
久しぶりにラブラブ回はじまりますね✨楽しみしてます
暑いなか、執筆頑張っていただい感謝してます😃🌸🌸🌸🌸🌸🌸
コメントありがとうございます。
お忙しくされてるんですね。そんな中、読んで(たくさんのコメントも!)くださり本当に嬉しいです。
ラブラブ回が終わると、最後、短いエピローグで終わりになります。一作2ヶ月かけて書くのですが、これは、半分ぐらいの期間で書けたかな?
また現代物も書いてみようと思います。
いつもお付き合い感謝です!
いつもコメントありがとうございます。
ようやく百話まで来ました。長かった。
予定にないピアノ購入の話で、四苦八苦しました。
「初恋フルーツティ」ももう終盤。ピアノのシーンが終わると、ラストまでひたすら突っ走る展開になります。まだ話数があるので、近々一日二回更新が三回更新になりそうです。
エチエチシーンも頑張ったので、楽しんでいただけるとうれしいです!