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第七章
124: 「可愛いい」「猫!」「演奏すごい」
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季節は、暦の上では春。
けれど、八ヶ岳では小雪がちらつく日もある。
道路の雪は殆ど溶けたが、日が差さない軒下などにはまだ雪が積もっている。
夕方、猟を終えて家まで車を走らせる。
一刻も早く彼方に会いたいのだが、最近、ガレージに車を止めて少しそこに留まるようになった。
ジンは、彼方に対してできるだけオープンであろうと思っているが、一つだけ秘密を持った。
静かな車内で一人、携帯の配信サイトを開くのが日課なのだ。
そこでは、彼方が生配信でピアノを弾いている。
顔は一切出さないし、一言もしゃべらない。
鍵盤を叩く手が映っているだけの配信で、曲名は、スケッチブックに手書きで書かかれピアノの上に置かれている。
明らかに素人ではない弾き方にクラッシック好きが多く集まっているようでコメントも活発だ。だが、実は何気なく聴きに来たリスナーにも人気がある。
彼方が弾いている最中、猫三匹がずっとピアノの上や、彼方が座る椅子の隣、膝の上をウロウロしているからだ。
たまに、鍵盤にいたずらをして勝手に音を増やしてしまうというのも猫ならではのご愛嬌。よくもまあ、こんな騒がしいところで、難解な曲を弾けるものだとジンは感心してしまう。
今もまた、白色の毛並みのコウと、黒色のフクがピアノの蓋の上でやり合おうとしていいて、灰色のマルが、彼方の膝に片足をかけてかまって欲しいをおねだりをしている。
「可愛いい」「猫!」「演奏すごい」
というコメントが流れるようにして消えていく。
ジンもコメントしてみたいなとは思うのだが、アカウントネームを『猟師』と付けてしまったので、コメントしたらモロバレだ。
演奏中も投げ銭が行われるが、やはり一曲終わった後がすごい。
足したらかなりの額になるとではと配信サイトのことを何も知らないジンは思っていたのだが、彼方から聞いたところによると配信者が貰える額はその十分の一程度だそうだ。なんじゃそりゃって感じだ。
それでも、彼方はあまり落ち込まなくなった。
堀之堂と面と向かって対決したのが大きな自信に繋がったようだ。
「彼方を守るためなんて言って、俺が乗り込まなくてよかったって今なら心底思うな」
ジンは独り言を言う。
好きな人のために行動することだけが大切なんじゃない。
信じて見守ることも大事だと彼方に教えられた。
たぶん、自分は、彼方のことを見くびっていたのだ。
可愛そうな人だとも思っていた。
でも、そうじゃないと彼方自身が身体を張って証明してくれた。
彼方が手が携帯の中のバイバイと振られた。それが、今日の配信はここで終わりの合図だ。ジンは配信アプリを切ると猟銃をガレージの奥に仕舞い、狩りの道具一式が入ったリュックを背負って家の玄関へと回る。
今日は、リュックに捌いた獣肉だけではなく、他の土産も入っている。
家に入る。
玄関はまだ寒いが、底冷えするほどではない。もう間もなく、薪ストーブ生活ともお別れだ。
薄暗い部屋に電気を付けると、テーブルには、ノートパソコンが。そして、教習所のパンフレットが開きっぱなしの状態でソファーに置かれてある。彼方は近々、車の免許を取ろうとしているのだ。何箇所かある教習場のパンフレットを取り寄せたらしい。
たぶん、いろんなことを同時並行でやっているうちに、配信の時間になって、片付ける暇が無かったのだろう。
最近、彼方はやりたいことが増えてきて大忙しだ。
本音を言えば、もっと自分にも構って欲しいと言いたいところだが、我慢我慢。
スタンドプレーで、スゲエソレじゃなくてなんだっけ?
スなんとかというピアノも勝手に購入してしまったし、婚約は、結婚へと話は飛躍してしまったし、そこら辺を彼方が完全に納得してくれている訳では無いのは分かっている。
奇跡みたいにして出会った相手だ。
絶対に手放したくない。
けれど、八ヶ岳では小雪がちらつく日もある。
道路の雪は殆ど溶けたが、日が差さない軒下などにはまだ雪が積もっている。
夕方、猟を終えて家まで車を走らせる。
一刻も早く彼方に会いたいのだが、最近、ガレージに車を止めて少しそこに留まるようになった。
ジンは、彼方に対してできるだけオープンであろうと思っているが、一つだけ秘密を持った。
静かな車内で一人、携帯の配信サイトを開くのが日課なのだ。
そこでは、彼方が生配信でピアノを弾いている。
顔は一切出さないし、一言もしゃべらない。
鍵盤を叩く手が映っているだけの配信で、曲名は、スケッチブックに手書きで書かかれピアノの上に置かれている。
明らかに素人ではない弾き方にクラッシック好きが多く集まっているようでコメントも活発だ。だが、実は何気なく聴きに来たリスナーにも人気がある。
彼方が弾いている最中、猫三匹がずっとピアノの上や、彼方が座る椅子の隣、膝の上をウロウロしているからだ。
たまに、鍵盤にいたずらをして勝手に音を増やしてしまうというのも猫ならではのご愛嬌。よくもまあ、こんな騒がしいところで、難解な曲を弾けるものだとジンは感心してしまう。
今もまた、白色の毛並みのコウと、黒色のフクがピアノの蓋の上でやり合おうとしていいて、灰色のマルが、彼方の膝に片足をかけてかまって欲しいをおねだりをしている。
「可愛いい」「猫!」「演奏すごい」
というコメントが流れるようにして消えていく。
ジンもコメントしてみたいなとは思うのだが、アカウントネームを『猟師』と付けてしまったので、コメントしたらモロバレだ。
演奏中も投げ銭が行われるが、やはり一曲終わった後がすごい。
足したらかなりの額になるとではと配信サイトのことを何も知らないジンは思っていたのだが、彼方から聞いたところによると配信者が貰える額はその十分の一程度だそうだ。なんじゃそりゃって感じだ。
それでも、彼方はあまり落ち込まなくなった。
堀之堂と面と向かって対決したのが大きな自信に繋がったようだ。
「彼方を守るためなんて言って、俺が乗り込まなくてよかったって今なら心底思うな」
ジンは独り言を言う。
好きな人のために行動することだけが大切なんじゃない。
信じて見守ることも大事だと彼方に教えられた。
たぶん、自分は、彼方のことを見くびっていたのだ。
可愛そうな人だとも思っていた。
でも、そうじゃないと彼方自身が身体を張って証明してくれた。
彼方が手が携帯の中のバイバイと振られた。それが、今日の配信はここで終わりの合図だ。ジンは配信アプリを切ると猟銃をガレージの奥に仕舞い、狩りの道具一式が入ったリュックを背負って家の玄関へと回る。
今日は、リュックに捌いた獣肉だけではなく、他の土産も入っている。
家に入る。
玄関はまだ寒いが、底冷えするほどではない。もう間もなく、薪ストーブ生活ともお別れだ。
薄暗い部屋に電気を付けると、テーブルには、ノートパソコンが。そして、教習所のパンフレットが開きっぱなしの状態でソファーに置かれてある。彼方は近々、車の免許を取ろうとしているのだ。何箇所かある教習場のパンフレットを取り寄せたらしい。
たぶん、いろんなことを同時並行でやっているうちに、配信の時間になって、片付ける暇が無かったのだろう。
最近、彼方はやりたいことが増えてきて大忙しだ。
本音を言えば、もっと自分にも構って欲しいと言いたいところだが、我慢我慢。
スタンドプレーで、スゲエソレじゃなくてなんだっけ?
スなんとかというピアノも勝手に購入してしまったし、婚約は、結婚へと話は飛躍してしまったし、そこら辺を彼方が完全に納得してくれている訳では無いのは分かっている。
奇跡みたいにして出会った相手だ。
絶対に手放したくない。
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