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第六章

116:帰るか。俺たちの家へ

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「最後ら辺は、彼方の独断だろうが」
「そうだけど、ありがとうなんだよ、ジンには」
 ジンが彼方に封筒を返してくれた。
 そして、彼方の両耳を押さえてきた。
「間もなく出会って三ヶ月だなあ。こんな風になれるなんて思っても見なかった」
「あんた、掲示板でやりとりした彼方だよな?セーター一枚で真冬の八ヶ岳って舐めてるの?って言ってきたジンはとても怖かった」
「俺も、髪ボサボサでセーター一枚の彼方を見た時、やべえの呼んじまったなあって思った」
 ニ人は笑い出す。
「青山彼方サン、帰るか。俺たちの家へ」
「帰ったらフルーツティー飲まない?」
「おう。入れてやる」
「僕にさせてよ。寒さで凍えながら家に戻ってきたジンに入れてあげたい」
「俺よりも彼方のほうがすでに震えがひでえけどな」
 ジンが腰を少し折って、冷えた唇を重ねてきた。
「残念。駅の利用客どころか、車一台通りやしねえ!!見せつけてやりたかったのに!」
「見せつけたいって。ジンさん。勇気出したんだね。ってことは、今が正式なプロポーズみたいなものですか?」
「そうだよっ!」
 ジンが照れたように彼方の耳から手を離したので、彼方はジンの手を繋いだ。
 ニ人が立ち話しているうちに通り過ぎたのか、学生服姿の男子が歩道を歩いている後ろ姿が見える。
「中学生かな?」
「部活帰りだと思う」
「ジンもあんな感じだった?美馬くんが、ジンの実家はこっち方面だって」
「うん。そうだな」
「僕さ。八ヶ岳に来てからが、人生で今が一番楽しいよ。ジンの同級生仲間に加えて貰って、自分まで学生だったかのような気分。さっきは、中学生のジンっぽい子も見られたしね」
「俺はあんなの小柄じゃねえし。あの頃からもっとでかかった」
「はいはい」
「何だよ、はいはいって。どうする?俺はこのまま歩きたい気分なんだけど」
「僕も。家にたどり着いたら、お風呂入ろうよ。その……一緒に」
 ジンはその申し出には答えてくれなかった。
 その代わり、
「ジンのために聴かせたい曲だってたくさんあるんだって言ってくれて、最高に嬉しかった」
とボソリと言った。
 そからは無言だった。
 たまに、繋いだ手をぎゅうっと握られる。
 早く素肌のまま抱きしめて欲しかった。
 きっと、ジンだって同じ気持ちなはずだ。
 道はどんどん暗くなる。
 出会った晩、軽トラックに乗せられて、どこに連れて行かれるのか分からなくて心底怖かった。
 ポストがぽつんとある場所を通り過ぎる。
 ここで三匹の猫を拾い、堀ノ堂とジンが対決した。
 ようやく家の前にたどり着く。
「猟銃戻しにガレージ、行ってくる」
「うん」
 彼方は先に家に入り、迎えてくれた猫たちを引き連れ、お風呂のスイッチを押す。そしてキッチンカウンターに戻り、ヤカンに水を入れ、火を付けた。
 ガラスポットとカップを取り出し、ガラスポットには最後の凍らせたフルーツ一式を入れた。湯が湧いたのでそこに注いで、薪ストーブの側へと持っていく。
 ガレージから戻ってきたジンは、リュックの汚れ物を出すためにまずは洗濯機置き場へ。
途中、自分の部屋にも寄ったようだ。
 そして、ようやく彼方の隣に座ってくれた。
「これ、もう最後っぽい。冷蔵庫の冷凍室にも冷凍ストッカーにも無かった」
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