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第六章
94:ジンを巻き込むなっ
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「どうした?早く。これから、東京に戻るよ。武田を迎えに行かせたけれど、彼方は怯えていたようだとその時言われた。心配しなくていい。折檻はしない。ただ、真山仁に私の大事な彼方がどこまで汚されたのか確認はさせてもらう。性的な刺激を覚えてしまって、それが一生味わえないのは辛いだろ?彼方に似合う綺麗な相手を見つけてあげよう。私の目の前で存分に楽しむがいい。その姿を真山仁が見たら、彼は君が遠い存在だと分かるはずだよ」
「ジンを巻き込むなっ」
彼方は叫んでいた。
先を歩いていた堀ノ堂が振り返って笑う。
「彼は、男が好きらしいね。言い寄られて、のぼせたのかい?単純だね。彼方、君は、私にピアノを弾くために育てられた。マナーもファッションも私好みに教え込んだ。今はまだ我慢してあげるが、東京に戻ったら、全部、捨てる。いや、車の中で即脱がせよう。裸で高速に乗って、マンションのエトランスもその格好で入りなさい。おしおきだ。コートだけは羽織らせてあげる。髪型もひどいな。明日、美容師に来てもらうとしよう」
「……耳がおかしくなって、ピアノが満足に弾けないからもういらないって……そう言って、僕を捨てたくせに」
声が震えた。
悲しいのでは無い。
悔しいのだ。
これまで、こんな男に飼われていて逆らえなかった自分が、本当に悔しい。
「治らない病だと武田に言われたものでね。それに君は私に従順なくせに懐かないし、前々から躾けが必要だと思っていった。なのに、あの家を飛び出すとは。幼い身体を見せて稼いだチップで逃走すると分かっていたら、取り上げておくべきだったな」
「あれは、僕が演奏して稼いだものだ」
すると、堀ノ堂はぐっと顔を近づけてくる。ジンとはまた違った威圧感だ。
「いいや。あれは、堀ノ堂一の飼い犬への周りからのおひねりだ。芸を見せたことへのね。お手、おかわり、そういう類の」
「黙れ」
「黙れだと?ははっ。一端のピアノ弾きのつもりか?でも、今じゃそれもできないじゃないか。ホテルのラウンジで頼まれて弾くのがせいぜい。貧乏な中卒猟師に飼われていてはなあ。東京に戻ったら気が済むまで弾かせてやる。君が帰らないというなら、真山仁の醜聞を流す。田舎は恐ろしいところだ。尾ひれがついて、真山仁はとんでもない怪物に仕立て上げられるぞ?きっと、彼が愛しているこの地で暮らしてはいけなくなる。彼方。君の行動一つでそうなるんだ」
そう言われた瞬間、これまでになくパーンと鼓膜が張った。
本当に破裂してしまうそうだ。
新しい耳の薬は毎日飲んでいるし、音が聞こえなくなるほどの難聴なんて最近は全く無かったのに。
「あ、ああっ」
耳を押さえて頭を振る。
それでも、耳の不調は治らない。
「どうした?」
と堀ノ堂がよってきた。
ジンみたいに、彼方の耳を塞ごうとするので、「触るなあっ!!」と渾身の力で怒鳴った。
「すっかり、田舎の不良みたいになってしまって。本当に一から躾けが必要なようだ。一生逆らえないような躾けがね。だって、そうだろ?君は自分がどこで生まれたかも分からず、名字だって知らない。私に飼われる以外に生きていけるものか。さあ、帰るぞ」
腕を取られ、羽交い締めにされそうになった。
バタバタと腕の中で暴れると、
「いいのか」
と堀ノ堂がニヤリとする。
「君の対応次第で真山仁の人生が変わってくる。従順にしておいたほうが、君にも真山仁にもいいんじゃないのか?」
ジンの名前を再度出され脅されてしまうと、もう、彼方は抵抗できなかった。
「さあ」
促され、数歩遅れて歩き出す。
雪がチラチラと降っていた。
堀ノ堂がコートの襟を立てる。
「雑木林に道が一本走っているだけ。殺人事件があってもなかなか発見できなさそうだ」
「ジンを巻き込むなっ」
彼方は叫んでいた。
先を歩いていた堀ノ堂が振り返って笑う。
「彼は、男が好きらしいね。言い寄られて、のぼせたのかい?単純だね。彼方、君は、私にピアノを弾くために育てられた。マナーもファッションも私好みに教え込んだ。今はまだ我慢してあげるが、東京に戻ったら、全部、捨てる。いや、車の中で即脱がせよう。裸で高速に乗って、マンションのエトランスもその格好で入りなさい。おしおきだ。コートだけは羽織らせてあげる。髪型もひどいな。明日、美容師に来てもらうとしよう」
「……耳がおかしくなって、ピアノが満足に弾けないからもういらないって……そう言って、僕を捨てたくせに」
声が震えた。
悲しいのでは無い。
悔しいのだ。
これまで、こんな男に飼われていて逆らえなかった自分が、本当に悔しい。
「治らない病だと武田に言われたものでね。それに君は私に従順なくせに懐かないし、前々から躾けが必要だと思っていった。なのに、あの家を飛び出すとは。幼い身体を見せて稼いだチップで逃走すると分かっていたら、取り上げておくべきだったな」
「あれは、僕が演奏して稼いだものだ」
すると、堀ノ堂はぐっと顔を近づけてくる。ジンとはまた違った威圧感だ。
「いいや。あれは、堀ノ堂一の飼い犬への周りからのおひねりだ。芸を見せたことへのね。お手、おかわり、そういう類の」
「黙れ」
「黙れだと?ははっ。一端のピアノ弾きのつもりか?でも、今じゃそれもできないじゃないか。ホテルのラウンジで頼まれて弾くのがせいぜい。貧乏な中卒猟師に飼われていてはなあ。東京に戻ったら気が済むまで弾かせてやる。君が帰らないというなら、真山仁の醜聞を流す。田舎は恐ろしいところだ。尾ひれがついて、真山仁はとんでもない怪物に仕立て上げられるぞ?きっと、彼が愛しているこの地で暮らしてはいけなくなる。彼方。君の行動一つでそうなるんだ」
そう言われた瞬間、これまでになくパーンと鼓膜が張った。
本当に破裂してしまうそうだ。
新しい耳の薬は毎日飲んでいるし、音が聞こえなくなるほどの難聴なんて最近は全く無かったのに。
「あ、ああっ」
耳を押さえて頭を振る。
それでも、耳の不調は治らない。
「どうした?」
と堀ノ堂がよってきた。
ジンみたいに、彼方の耳を塞ごうとするので、「触るなあっ!!」と渾身の力で怒鳴った。
「すっかり、田舎の不良みたいになってしまって。本当に一から躾けが必要なようだ。一生逆らえないような躾けがね。だって、そうだろ?君は自分がどこで生まれたかも分からず、名字だって知らない。私に飼われる以外に生きていけるものか。さあ、帰るぞ」
腕を取られ、羽交い締めにされそうになった。
バタバタと腕の中で暴れると、
「いいのか」
と堀ノ堂がニヤリとする。
「君の対応次第で真山仁の人生が変わってくる。従順にしておいたほうが、君にも真山仁にもいいんじゃないのか?」
ジンの名前を再度出され脅されてしまうと、もう、彼方は抵抗できなかった。
「さあ」
促され、数歩遅れて歩き出す。
雪がチラチラと降っていた。
堀ノ堂がコートの襟を立てる。
「雑木林に道が一本走っているだけ。殺人事件があってもなかなか発見できなさそうだ」
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