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第五章
82:俺等つきあってんだぞーって心の中で叫んでた
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「じゃあ、海、越えられる?」
「日本海すら越えてってか?それしたら、密航になっちゃうって、俺たち」
東京に行く以外にどこが近いのかと聞いたら、長野とジンが言ったのでそっち方向に進んでもらう。
「パスポート取れたら外国もいいかもな。今まで興味はなかったけれど、彼方となら行ってみたい」
「僕も」
〇〇だから無理という口癖を彼方は、退院して以来止めた。
言えば言うほど、それしか道がない気がする。自分にネガティブな暗示をかけるのはよくない。
楽しい旅が始まった。
助手席に座っているだけで、心が弾むなんて。
飼い主との旅行ではありえなかった。
「ジン。様になっている」
大きなアウトドア車を苦もなく運転する姿は、彼方からしたらすごいの一言だ。
「軽トラックも格好いいけどね」
「あれは、獣臭せえけどな」
運転していると、雪が降り始める。
フロントガラスに張りついて、たちまちワイパーで消される。
「雪、八ヶ岳に降るものより結晶が大きい気がする」
「そうだな。水分を含んでるから、雪が重いんだ。結晶の形も違う」
「同じ雪国でもなんか違うね。曇り空が重苦しい感じの色」
雪が激しくなる中、車を走らせていたジンが、ウインカーを出した。
「ここ入るか。せっかく来たんだから、店探ししたいが、この雪じゃなあ」
駐車場の大きな店に車を止めた。
「山梨にもあるチェーン店だけどな」
雪なのに結構混んでいて、十分ほど並んだ。
寒かったけれど、二人で混んでいる店に並んだのは始めてでそれが嬉しかった。
メニューより大きな品が出てくる逆詐欺で人気の店らしく、頼んだケーキもホイップが乗った甘い砂糖漬けのパンも、びっくりするほど大きい。
ジンはコーヒー。
彼方は甘いものをいただく。
「いいなあ、こういうの」
ジンが、機嫌良さげに店の天井を見ながら言った。
「内装?」
「普通のデートしてることがだよ。並ぶのだって、俺は楽しかった」
彼方もそう思っていたので、思わずニヤける。
「何、ニヤニヤしてんだよ?」
「ジンだって」
すると、ジンがコーヒーを飲みながら、窓の方へと顔を向けた。
「男同士、手を繋いでるわけでもねえし、誰にも分かんないだろうけど、俺等つきあってんだぞーって心の中で叫んでた」
「絶叫?」
「そりゃあ、もう」
とジンが頷く。
そこからは二人とも言葉少なだった。
喋らない代わりに、テーブルの下のつま先をたまに押し付け合う。
とても充実した、甘い時間だったと思う。
「じゃあ、彼方がそれを平らげたら帰るか。長居したいとこだけど、この雪じゃ八ヶ岳に着くのが遅くなる」
「また来よう?」
と彼方は言った。
そして、会計をしてくれたジンに丁寧に礼を言う。
「おう」
とジンの返事はそっけなかった。でも、喜んでいてくれているのは彼方には分かる。
雪がひどくなって来たので帰りは高速を使った。途中、湖が見えるトイレ休憩でサービスエリアに寄る。
彼方はトイレへ。ジンは雪が降る中、白鳥がやってくる湖へとそれぞれ別れた。
用を足してから、ジンのところに向かう途中、サービスエリアにいくつか入っている店ですっかりおなじみになったマークを見つけた。
「日本海すら越えてってか?それしたら、密航になっちゃうって、俺たち」
東京に行く以外にどこが近いのかと聞いたら、長野とジンが言ったのでそっち方向に進んでもらう。
「パスポート取れたら外国もいいかもな。今まで興味はなかったけれど、彼方となら行ってみたい」
「僕も」
〇〇だから無理という口癖を彼方は、退院して以来止めた。
言えば言うほど、それしか道がない気がする。自分にネガティブな暗示をかけるのはよくない。
楽しい旅が始まった。
助手席に座っているだけで、心が弾むなんて。
飼い主との旅行ではありえなかった。
「ジン。様になっている」
大きなアウトドア車を苦もなく運転する姿は、彼方からしたらすごいの一言だ。
「軽トラックも格好いいけどね」
「あれは、獣臭せえけどな」
運転していると、雪が降り始める。
フロントガラスに張りついて、たちまちワイパーで消される。
「雪、八ヶ岳に降るものより結晶が大きい気がする」
「そうだな。水分を含んでるから、雪が重いんだ。結晶の形も違う」
「同じ雪国でもなんか違うね。曇り空が重苦しい感じの色」
雪が激しくなる中、車を走らせていたジンが、ウインカーを出した。
「ここ入るか。せっかく来たんだから、店探ししたいが、この雪じゃなあ」
駐車場の大きな店に車を止めた。
「山梨にもあるチェーン店だけどな」
雪なのに結構混んでいて、十分ほど並んだ。
寒かったけれど、二人で混んでいる店に並んだのは始めてでそれが嬉しかった。
メニューより大きな品が出てくる逆詐欺で人気の店らしく、頼んだケーキもホイップが乗った甘い砂糖漬けのパンも、びっくりするほど大きい。
ジンはコーヒー。
彼方は甘いものをいただく。
「いいなあ、こういうの」
ジンが、機嫌良さげに店の天井を見ながら言った。
「内装?」
「普通のデートしてることがだよ。並ぶのだって、俺は楽しかった」
彼方もそう思っていたので、思わずニヤける。
「何、ニヤニヤしてんだよ?」
「ジンだって」
すると、ジンがコーヒーを飲みながら、窓の方へと顔を向けた。
「男同士、手を繋いでるわけでもねえし、誰にも分かんないだろうけど、俺等つきあってんだぞーって心の中で叫んでた」
「絶叫?」
「そりゃあ、もう」
とジンが頷く。
そこからは二人とも言葉少なだった。
喋らない代わりに、テーブルの下のつま先をたまに押し付け合う。
とても充実した、甘い時間だったと思う。
「じゃあ、彼方がそれを平らげたら帰るか。長居したいとこだけど、この雪じゃ八ヶ岳に着くのが遅くなる」
「また来よう?」
と彼方は言った。
そして、会計をしてくれたジンに丁寧に礼を言う。
「おう」
とジンの返事はそっけなかった。でも、喜んでいてくれているのは彼方には分かる。
雪がひどくなって来たので帰りは高速を使った。途中、湖が見えるトイレ休憩でサービスエリアに寄る。
彼方はトイレへ。ジンは雪が降る中、白鳥がやってくる湖へとそれぞれ別れた。
用を足してから、ジンのところに向かう途中、サービスエリアにいくつか入っている店ですっかりおなじみになったマークを見つけた。
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