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第五章
77:僕も好き。前よりジンのこと好き
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それでもジンは困った顔をしている。
玄関で靴を脱いでいると、「彼方、こっち」とジンが民泊のために増室した部屋に続く廊下を歩き始めた。
手前の一部屋が開けられた。
彼方も以前掃除したことがある部屋だ。
ツインのベットの片方に、ジンから譲ってもらったスウェットが置いてある。
「しばらく、彼方はこの部屋な。千山先生が、俺が猟に出て変なの貰ってきたら、免疫力が落ちている彼方に簡単に移るって。あと、これ、風邪の薬。十日分ある。耳の薬は一ヶ月分」
「ありがと」
ジンがナイトテーブルに薬局の名前が印字された袋を置く。
「まだ、しんどいだろ?寝たかったら寝てていい」
「うん」
返事をすると、さっさとジンが部屋から出ていく。
一緒の部屋で寝るのはしんどいなあと車の中では思っていたのに、いざ、こうやって距離を取られてしまう悲しいし寂しい。
でも、素直と従うしか無い。
自分は何も出来ない。
何かしようと頑張れば、空回りする。
ジンを巻き込み、そして怒らせる。
横向きで寝ていたら、ダラダラと涙がこぼれた。
「クッ。ウッ」
歯を食いしばっても嗚咽が漏れる。
「彼方。これ、スポーツドリ……」
ジンがやってきて、ナイトテーブルにペットボトルを数本置いた。
そして、彼方の額の髪を急いでかき上げる。
「しばらく熱上がり下がりするって千山先生言ってたけど、本当だな。急に熱が高くなっている」
すぐに冷却ジェルシートを額に貼ってくれた。それにプラスして、冷たいゲル状の枕を頭の下に入れてくれた。
「ジンっ、ありがとっ」
「いいよ。んな、必死になって礼を言わなくても。たしかに言うべき時に言えって、怒鳴っちゃったけどさ」
「僕のこと、面倒になったろ?」
彼方はジンの手を掴む。
「でも、捨てないで。身体は治すし、性格だって治す。まともに稼げないなら、何か別の方法でジンの役に立つから」
「あのな。彼方」
穏やかな目で見つめられて、彼方はそれが怒鳴られる以上に怖かった。
「出ていかないっ!ヤダッ。ジンの傍にいる」
「待て待て。俺は別れを告げるようとしてるわけじゃない。あんたがここに居てくれるだけで純粋に嬉しいって言いたかったんだ。だから、これまで食事を出すことや、多少の金は全然苦にならなかった。むしろ、そうさせていることを喜んで欲しいと思っていた。でも、それって俺の押し付けで、つまり、彼方の男としてのプライドを折るような形で、よりにもよって病院で超絶具合の悪い時に伝えてしまった。早い話が八つ当たりだ。堀ノ堂がいよいよ動き始めて、ちょっとテンパってたんだ。熊はこれまで何十頭も倒してきたが、政治家は未経験だし、どう攻撃してくるか分からない。あいつらきっと、いろんな言葉や行動で俺等を揺さぶって関係を終わらせたいんだ」
「撃っちゃ駄目だ」
「撃たねえよ。先生に怒られる。どんなに腹が立っても人には向けるなってきつく言われてきた。それを破るのは、猟師を辞める覚悟ができた時」
「辞めるのも駄目」
「分かってるって。んで、彼方は涙と鼻水をふこうか」
促されて、彼方は鼻を噛んだ。そして、目元を拭う。
「さっき、彼方はたぶん、普段とは違う言葉を選択したろ?捨てないで、それと、出ていかないって。俺も、昔だったら、こんな関係もう疲れたって短気だから言ってたかもしれない。そうだな、点滴を受けた処置室の時点でかな。置き去りにするぐらい平気でしたかもしれない。それだけ、自分中心で情のない性格だったんだ。先生に猟を教わって少しずと俺は変わっていったと思う。で、今、昔とは違う選択肢を選んで未知のゾーンにいる。そして、前と変わらず彼方が好きだ。だから、ゆっくり進もうぜ」
「僕も好き。前よりジンのこと好き」
唇は合わせられないので、手の甲に彼方は唇を押し付けた。
ジンは、ふっと笑ってくれた。
玄関で靴を脱いでいると、「彼方、こっち」とジンが民泊のために増室した部屋に続く廊下を歩き始めた。
手前の一部屋が開けられた。
彼方も以前掃除したことがある部屋だ。
ツインのベットの片方に、ジンから譲ってもらったスウェットが置いてある。
「しばらく、彼方はこの部屋な。千山先生が、俺が猟に出て変なの貰ってきたら、免疫力が落ちている彼方に簡単に移るって。あと、これ、風邪の薬。十日分ある。耳の薬は一ヶ月分」
「ありがと」
ジンがナイトテーブルに薬局の名前が印字された袋を置く。
「まだ、しんどいだろ?寝たかったら寝てていい」
「うん」
返事をすると、さっさとジンが部屋から出ていく。
一緒の部屋で寝るのはしんどいなあと車の中では思っていたのに、いざ、こうやって距離を取られてしまう悲しいし寂しい。
でも、素直と従うしか無い。
自分は何も出来ない。
何かしようと頑張れば、空回りする。
ジンを巻き込み、そして怒らせる。
横向きで寝ていたら、ダラダラと涙がこぼれた。
「クッ。ウッ」
歯を食いしばっても嗚咽が漏れる。
「彼方。これ、スポーツドリ……」
ジンがやってきて、ナイトテーブルにペットボトルを数本置いた。
そして、彼方の額の髪を急いでかき上げる。
「しばらく熱上がり下がりするって千山先生言ってたけど、本当だな。急に熱が高くなっている」
すぐに冷却ジェルシートを額に貼ってくれた。それにプラスして、冷たいゲル状の枕を頭の下に入れてくれた。
「ジンっ、ありがとっ」
「いいよ。んな、必死になって礼を言わなくても。たしかに言うべき時に言えって、怒鳴っちゃったけどさ」
「僕のこと、面倒になったろ?」
彼方はジンの手を掴む。
「でも、捨てないで。身体は治すし、性格だって治す。まともに稼げないなら、何か別の方法でジンの役に立つから」
「あのな。彼方」
穏やかな目で見つめられて、彼方はそれが怒鳴られる以上に怖かった。
「出ていかないっ!ヤダッ。ジンの傍にいる」
「待て待て。俺は別れを告げるようとしてるわけじゃない。あんたがここに居てくれるだけで純粋に嬉しいって言いたかったんだ。だから、これまで食事を出すことや、多少の金は全然苦にならなかった。むしろ、そうさせていることを喜んで欲しいと思っていた。でも、それって俺の押し付けで、つまり、彼方の男としてのプライドを折るような形で、よりにもよって病院で超絶具合の悪い時に伝えてしまった。早い話が八つ当たりだ。堀ノ堂がいよいよ動き始めて、ちょっとテンパってたんだ。熊はこれまで何十頭も倒してきたが、政治家は未経験だし、どう攻撃してくるか分からない。あいつらきっと、いろんな言葉や行動で俺等を揺さぶって関係を終わらせたいんだ」
「撃っちゃ駄目だ」
「撃たねえよ。先生に怒られる。どんなに腹が立っても人には向けるなってきつく言われてきた。それを破るのは、猟師を辞める覚悟ができた時」
「辞めるのも駄目」
「分かってるって。んで、彼方は涙と鼻水をふこうか」
促されて、彼方は鼻を噛んだ。そして、目元を拭う。
「さっき、彼方はたぶん、普段とは違う言葉を選択したろ?捨てないで、それと、出ていかないって。俺も、昔だったら、こんな関係もう疲れたって短気だから言ってたかもしれない。そうだな、点滴を受けた処置室の時点でかな。置き去りにするぐらい平気でしたかもしれない。それだけ、自分中心で情のない性格だったんだ。先生に猟を教わって少しずと俺は変わっていったと思う。で、今、昔とは違う選択肢を選んで未知のゾーンにいる。そして、前と変わらず彼方が好きだ。だから、ゆっくり進もうぜ」
「僕も好き。前よりジンのこと好き」
唇は合わせられないので、手の甲に彼方は唇を押し付けた。
ジンは、ふっと笑ってくれた。
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