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第五章
76:彼方だから、構わない
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エネルギー切れだ。
先日、ジンが狩りをした鹿が首だけの状態で、彼方をうらめそうに見ている光景がぼんやりと浮かんだ。
結局、二日入院した。
熱は盛大に吐いた翌日には下がったのだが、精密検査に回されてしまった。
耳も診てもらった。
CTという音がガチャガチャ鳴る箱に入れられ怖い思いもしたし、採血も何度かされた。
ジンは彼方が入院していた二日とも、見舞いに来てくれたが、何を話していいのか分からなかった。
これじゃあ、出会った日よりひどい状態だ。
退院の日は、病室から一階の待合室に行くと、ジンがすでに来ていて、退院手続きも会計も済まされていた。
後は、家に帰るだけ。
猫たちにかかった治療費、それに、自分の入院費を合わせたら、年末年始に稼いだバイト代では絶対に足りない。
でも、そのことを気にすればジンは怒り出す。
一体、どうしたらいいんだ。
病院の自動ドアをジンと出て、立ち止まって聞いた。
「一緒に帰っていいの?」
「他に、どこに行くって?」
「行くとこ無いけど」
「俺は、彼方が病院抜け出していなくならないかってずっと心配だった」
「うん」
「千山先生。あ、千山の父ちゃんの方な。目立った疾患は無いって。ただ、免疫力が下がっているから、体力が回復するまでは人混みに出かけるなって」
「よかったの?」
「あ?」
「ジンは、男が好きなことを内緒にしたかったんじゃないの?身内でもないのに入院の面倒を見てたら、勘ぐられるよ」
「彼方だから、構わない」
「そう」
以前なら、特別だと感じて、嬉しくて飛び上がりそうな気分になっていたと思う。
でも、今は状況が違う。
ちゃんと、言わなければ。
と彼方は思った。
息を吸い込んで少し深呼吸して、入院中、心の中で何度も練習した言葉を声に出す。
「ジン、ありがと」
ジンが片手を上げて、彼方を引き寄せようとした。
それが、彼方には恐怖に感じた。
部屋で飼われた時期が長かったせいか、怒鳴られた経験が数えるほどしかない。
その相手は全部ジンだ。
「どうした?」
異変を察知し、ジンが聞いてる。
「平気」と答えて彼方は軽トラックに乗り込んだ。
何も平気では無かった。
大好きなあの家に連れて帰って貰っても、自分はジンを怒らせないよう人形みたいにしていなければならない。
ありがとうとちゃんと言って、抱かせろと言われたら、身体を差し出して。
少し前まではこんなんじゃなかった。
どこから狂った?
なぜ、修正できない?
車が街を抜け、山道に入る。
すごい量の雪だ。数日不在にしていたうちに、かなり降ったらしい。
普段よりかなり時間がかかってたどり着いた。
車がガレージに付けられる。
「けっこう揺れたろ?酔ってないか?病み上がりにはきつそうだ。やっぱ、アウトドア車の方が揺れないし、スピードも早くていいな」
「大丈夫。ありがと」
礼を言う。
うんばかりだと気を損ねられそうなので、別の単語も使ってみた。
先日、ジンが狩りをした鹿が首だけの状態で、彼方をうらめそうに見ている光景がぼんやりと浮かんだ。
結局、二日入院した。
熱は盛大に吐いた翌日には下がったのだが、精密検査に回されてしまった。
耳も診てもらった。
CTという音がガチャガチャ鳴る箱に入れられ怖い思いもしたし、採血も何度かされた。
ジンは彼方が入院していた二日とも、見舞いに来てくれたが、何を話していいのか分からなかった。
これじゃあ、出会った日よりひどい状態だ。
退院の日は、病室から一階の待合室に行くと、ジンがすでに来ていて、退院手続きも会計も済まされていた。
後は、家に帰るだけ。
猫たちにかかった治療費、それに、自分の入院費を合わせたら、年末年始に稼いだバイト代では絶対に足りない。
でも、そのことを気にすればジンは怒り出す。
一体、どうしたらいいんだ。
病院の自動ドアをジンと出て、立ち止まって聞いた。
「一緒に帰っていいの?」
「他に、どこに行くって?」
「行くとこ無いけど」
「俺は、彼方が病院抜け出していなくならないかってずっと心配だった」
「うん」
「千山先生。あ、千山の父ちゃんの方な。目立った疾患は無いって。ただ、免疫力が下がっているから、体力が回復するまでは人混みに出かけるなって」
「よかったの?」
「あ?」
「ジンは、男が好きなことを内緒にしたかったんじゃないの?身内でもないのに入院の面倒を見てたら、勘ぐられるよ」
「彼方だから、構わない」
「そう」
以前なら、特別だと感じて、嬉しくて飛び上がりそうな気分になっていたと思う。
でも、今は状況が違う。
ちゃんと、言わなければ。
と彼方は思った。
息を吸い込んで少し深呼吸して、入院中、心の中で何度も練習した言葉を声に出す。
「ジン、ありがと」
ジンが片手を上げて、彼方を引き寄せようとした。
それが、彼方には恐怖に感じた。
部屋で飼われた時期が長かったせいか、怒鳴られた経験が数えるほどしかない。
その相手は全部ジンだ。
「どうした?」
異変を察知し、ジンが聞いてる。
「平気」と答えて彼方は軽トラックに乗り込んだ。
何も平気では無かった。
大好きなあの家に連れて帰って貰っても、自分はジンを怒らせないよう人形みたいにしていなければならない。
ありがとうとちゃんと言って、抱かせろと言われたら、身体を差し出して。
少し前まではこんなんじゃなかった。
どこから狂った?
なぜ、修正できない?
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普段よりかなり時間がかかってたどり着いた。
車がガレージに付けられる。
「けっこう揺れたろ?酔ってないか?病み上がりにはきつそうだ。やっぱ、アウトドア車の方が揺れないし、スピードも早くていいな」
「大丈夫。ありがと」
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うんばかりだと気を損ねられそうなので、別の単語も使ってみた。
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