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第五章
75:つまり、本音ってことだよね?
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「秋野、ええっと、俺が「市役所」って呼んでる奴な。そいつが言うには、無戸籍者が戸籍ってのは作れないことも無いらしい。ただし、膨大な調査が入る。たぶん、堀ノ堂は俺と彼方が暮らし始めたら、戸籍や公的な証明書を必ず求め動き始めると分かっていて、それを恐れて動き出した。なんせ、俺っていう登場人物はあいつらの中には登場予定が無かったんだから。あいつらのシナリオでは、ズタボロになった彼方を回収して、完璧な精神的奴隷にするつもりだったんだろ。彼方が前に持っていた携帯には、位置特定アプリが分からないように入れられてたって、美馬が調べてくれた」
「ジンの知り合いって何なの?」
「すげーだろ。でもな、散り散りなっていた俺たちを集めてくれたのは、彼方だぞ」
それは偶然だ。
誇れることではない。
だから、黙ってジンから視線をそらす。
「彼方が無戸籍者だってはっきりした場合、保証人が必要なら、俺がなる。誕生日が好きに設定できるなら、俺と一緒の日にしようぜ。でかいケーキを罪悪感無く注文できる」
「ジン。猟の修行は?」
「民泊も徐々に始めるんだったら、今年は行かねえ」
「始めちゃったら、来年だって行けなくなるかもしれないじゃないか。どうして優先順位を変えるんだよ?」
「彼方が大事だからだろ」
「僕はこれ以上、ジンの負担になりたくないんだって」
看護師がやってきて、彼方の点滴が無くなったのを見て、針を引き抜き、小さな正方形の絆創膏を張る。
「なんでこう、この部分は通じ合えねえんだろうな俺たちは」
看護師が去ってから、ジンがパンと自分の両膝を叩いた。
「でも、病人に当たってもしゃあねえよな」
ジンが彼方の身体に上にかけられていた毛布で身体を包み抱き上げようとする。
「一人で歩ける。ジンは、一から十まで僕が頼れば満足?」
「頼ろうとしないことはよく分かってる」
ジンが声を少し荒らげた。
何も出来ない居候の態度に耐えるのも限界が来たらしい。
「でもな、彼方。ちったあ、自分の置かれた状況も考えろ。これから、受付に行く。そこで金を払う。きっと十割負担に加えて、夜間特別外来費なんてのもかかる。処方箋は貰えるが、薬局が開いてないから家に戻って、明日もう一回山を降りなくちゃならない。で、さっき、千山の車の後部座席に乗せてもらったから、今夜の帰りはタクシーだ。もちろん深夜料金」
彼方は気づいたら耳を押さえていた。
ジンが自分の顎をくいっとあげてそこを指してくる。
「そっちの不調も今度見てもらおうなあ。嫌だって言っても、病院に引きずってく。処方箋渡しに薬局に来なきゃならねえから、明日か明後日のうちにな」
「……」
「出会ったときみたいなダンマリか?また、都合よく耳が痛いくなるあれか?なんで、彼方は素直になるべきときに素直にならないんだよ。お前、こういうとき、俺に一回でもありがとうって言ったことあるか?高すぎるプライドのお陰で、足元見えてないんじゃないか?」
そこまで言われて、彼方の顔のいたるところが痙攣しはじめた。
流石に言い過ぎたと気づいたらしい。
「そこまで言うつもりは無かった」
とジンが謝った。
「つまり、本音ってことだよね?」
「……悪い」
「僕が言わせた。だから、僕が悪い」
ジンが手を伸ばしてきた。
握られる。
「まだ、熱いな」
と言われた瞬間、手を振り払っていた。
猛烈な吐き気をもよおしたからだ。
どこにそんな水分を隠していたのか、噴水みたいに吐瀉物が溢れ出す。
すっぱい匂いが鼻を付いた。
自分も汚れたが、ジンも汚してしまった。
突然、頭上が電気が切れたみたいに暗くなった。
「ジンの知り合いって何なの?」
「すげーだろ。でもな、散り散りなっていた俺たちを集めてくれたのは、彼方だぞ」
それは偶然だ。
誇れることではない。
だから、黙ってジンから視線をそらす。
「彼方が無戸籍者だってはっきりした場合、保証人が必要なら、俺がなる。誕生日が好きに設定できるなら、俺と一緒の日にしようぜ。でかいケーキを罪悪感無く注文できる」
「ジン。猟の修行は?」
「民泊も徐々に始めるんだったら、今年は行かねえ」
「始めちゃったら、来年だって行けなくなるかもしれないじゃないか。どうして優先順位を変えるんだよ?」
「彼方が大事だからだろ」
「僕はこれ以上、ジンの負担になりたくないんだって」
看護師がやってきて、彼方の点滴が無くなったのを見て、針を引き抜き、小さな正方形の絆創膏を張る。
「なんでこう、この部分は通じ合えねえんだろうな俺たちは」
看護師が去ってから、ジンがパンと自分の両膝を叩いた。
「でも、病人に当たってもしゃあねえよな」
ジンが彼方の身体に上にかけられていた毛布で身体を包み抱き上げようとする。
「一人で歩ける。ジンは、一から十まで僕が頼れば満足?」
「頼ろうとしないことはよく分かってる」
ジンが声を少し荒らげた。
何も出来ない居候の態度に耐えるのも限界が来たらしい。
「でもな、彼方。ちったあ、自分の置かれた状況も考えろ。これから、受付に行く。そこで金を払う。きっと十割負担に加えて、夜間特別外来費なんてのもかかる。処方箋は貰えるが、薬局が開いてないから家に戻って、明日もう一回山を降りなくちゃならない。で、さっき、千山の車の後部座席に乗せてもらったから、今夜の帰りはタクシーだ。もちろん深夜料金」
彼方は気づいたら耳を押さえていた。
ジンが自分の顎をくいっとあげてそこを指してくる。
「そっちの不調も今度見てもらおうなあ。嫌だって言っても、病院に引きずってく。処方箋渡しに薬局に来なきゃならねえから、明日か明後日のうちにな」
「……」
「出会ったときみたいなダンマリか?また、都合よく耳が痛いくなるあれか?なんで、彼方は素直になるべきときに素直にならないんだよ。お前、こういうとき、俺に一回でもありがとうって言ったことあるか?高すぎるプライドのお陰で、足元見えてないんじゃないか?」
そこまで言われて、彼方の顔のいたるところが痙攣しはじめた。
流石に言い過ぎたと気づいたらしい。
「そこまで言うつもりは無かった」
とジンが謝った。
「つまり、本音ってことだよね?」
「……悪い」
「僕が言わせた。だから、僕が悪い」
ジンが手を伸ばしてきた。
握られる。
「まだ、熱いな」
と言われた瞬間、手を振り払っていた。
猛烈な吐き気をもよおしたからだ。
どこにそんな水分を隠していたのか、噴水みたいに吐瀉物が溢れ出す。
すっぱい匂いが鼻を付いた。
自分も汚れたが、ジンも汚してしまった。
突然、頭上が電気が切れたみたいに暗くなった。
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