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第五章
69:先月、もっとヤバい状況を生き延びたから大丈夫
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「意地悪して言ったわけじゃない。でも、彼方は自分のことでいっぱいいっぱいな状況で、猫三匹面倒見るのは大変だったろ?俺だって猫は嫌いじゃないけど、巻き猟りの誘いを連続して断ってしまった。次は行かないと。彼方に倒れられたら、その看病しながら、猫も面倒見て猟もしてだと、今度は俺がへばる」
「わ……かった。美馬くんに、……預ける」
喉がいよいよ痛くなってきた。
彼方が風呂に入っているうちに、仕事帰りの美馬がやってきたようで、三匹の猫達を引き取って行った。
薪ストーブのある部屋に戻ると、静けさが戻っていた。
パチパチと薪ストーブが爆ぜる音。
そして、ジンがキッチンカウンターで料理を作る音。
彼方が好きだった空間だ。
でも、駆け回る猫たちが急にいなくなり、寂しさで胸が痛くなる。
たぶん、死にそうな猫たちを自分と重ねて救った気でいたから。
そして、現実では自分の問題は何も解決していないことに気付く。
久しぶりゆっくり取る夕食は、雑炊だった。
お陰で喉の痛みも忘れる。
「静かだね」
「会いたきゃ、近所なんだからすぐ会える」
「近所っていっても、美馬くんちは、ここから車で十分だろ?」
送って行くし迎えに行く。
このまま言葉を待っていればジンは当然のように言うはずだ。
でも自分は子供ではない。
あまりにも持っているものが少ないので、完全な大人と胸は張れないが、それでも二十一歳の男だ。
雑炊をかきこんで、「おやすみ。もう寝るね」と席を立つ。
ジンが何か言いたげな顔していたが、結局「おう」と返事をしただけだった。
ベットに入ると、すっと眠りに落ちた。
灰色の命は明日は大丈夫だろうかと心配することもない。
夜鳴きする黒と白の子猫の声に眠りを邪魔されることない。
だが、脇や股などの関節が熱くて、嫌な汗をかき始めていた。
隣にジンが入ってきたのも気づかなかった。
目覚めると、もう部屋は明るくて、額に冷たいものが張られていた。
冷却ジェルシートのようだ。
「起きたか?」
青いラベルの張られたペットボトルを数個、彼方の枕元に並べながらジンが言った。
スポーツドリンクのようだ。
すでに、猟をする迷彩柄の格好に着替えている。
「夜中にジェルシートを何度か張り替えたんだけど、すぐ熱くなるな」
「……もう……行くの?帰りは?」
喉が痛くて、あまり声がでない。
「夕方。抜けれるようならもうちょい早く」
「いいよ。僕、子供じゃないんだし」
「でも、病人だろ?」
「すぐ治る」
「夜まで熱が下がらないようなら病院な」
「行かなくていい。治す」
「治るの次は、治す、か。病気は気合いじゃどうにもなんねえぞ」
「先月、もっとヤバい状況を生き延びたから大丈夫」
「過信するなって。日中、具合が悪くなるようなら、千山に連絡。テスト休みでこっちにまた帰って来てるから」
「じゃあ、なるべく早く戻る」と言ってジンが部屋を出ていった。
具合の悪さを少しでも抑えようと演技していたので、どっと疲れが出る。
やがて、ガレージから出ていく車の音が聞こえてきて、その音も聞こえなくなった。
本当に行ってしまったのだ。
静かだ、と彼方は思った。
この家にやってきて、年末年始はピアノを弾くバイトをして、数日前は猫を拾って看病して。クリスマスのショッピングモールにも行ったし、猟にも連れて行ってもらった。
本当に静かな時間は一瞬で、ジンの側にいると、賑やかさのお溢れに預かれたような気がした。
「わ……かった。美馬くんに、……預ける」
喉がいよいよ痛くなってきた。
彼方が風呂に入っているうちに、仕事帰りの美馬がやってきたようで、三匹の猫達を引き取って行った。
薪ストーブのある部屋に戻ると、静けさが戻っていた。
パチパチと薪ストーブが爆ぜる音。
そして、ジンがキッチンカウンターで料理を作る音。
彼方が好きだった空間だ。
でも、駆け回る猫たちが急にいなくなり、寂しさで胸が痛くなる。
たぶん、死にそうな猫たちを自分と重ねて救った気でいたから。
そして、現実では自分の問題は何も解決していないことに気付く。
久しぶりゆっくり取る夕食は、雑炊だった。
お陰で喉の痛みも忘れる。
「静かだね」
「会いたきゃ、近所なんだからすぐ会える」
「近所っていっても、美馬くんちは、ここから車で十分だろ?」
送って行くし迎えに行く。
このまま言葉を待っていればジンは当然のように言うはずだ。
でも自分は子供ではない。
あまりにも持っているものが少ないので、完全な大人と胸は張れないが、それでも二十一歳の男だ。
雑炊をかきこんで、「おやすみ。もう寝るね」と席を立つ。
ジンが何か言いたげな顔していたが、結局「おう」と返事をしただけだった。
ベットに入ると、すっと眠りに落ちた。
灰色の命は明日は大丈夫だろうかと心配することもない。
夜鳴きする黒と白の子猫の声に眠りを邪魔されることない。
だが、脇や股などの関節が熱くて、嫌な汗をかき始めていた。
隣にジンが入ってきたのも気づかなかった。
目覚めると、もう部屋は明るくて、額に冷たいものが張られていた。
冷却ジェルシートのようだ。
「起きたか?」
青いラベルの張られたペットボトルを数個、彼方の枕元に並べながらジンが言った。
スポーツドリンクのようだ。
すでに、猟をする迷彩柄の格好に着替えている。
「夜中にジェルシートを何度か張り替えたんだけど、すぐ熱くなるな」
「……もう……行くの?帰りは?」
喉が痛くて、あまり声がでない。
「夕方。抜けれるようならもうちょい早く」
「いいよ。僕、子供じゃないんだし」
「でも、病人だろ?」
「すぐ治る」
「夜まで熱が下がらないようなら病院な」
「行かなくていい。治す」
「治るの次は、治す、か。病気は気合いじゃどうにもなんねえぞ」
「先月、もっとヤバい状況を生き延びたから大丈夫」
「過信するなって。日中、具合が悪くなるようなら、千山に連絡。テスト休みでこっちにまた帰って来てるから」
「じゃあ、なるべく早く戻る」と言ってジンが部屋を出ていった。
具合の悪さを少しでも抑えようと演技していたので、どっと疲れが出る。
やがて、ガレージから出ていく車の音が聞こえてきて、その音も聞こえなくなった。
本当に行ってしまったのだ。
静かだ、と彼方は思った。
この家にやってきて、年末年始はピアノを弾くバイトをして、数日前は猫を拾って看病して。クリスマスのショッピングモールにも行ったし、猟にも連れて行ってもらった。
本当に静かな時間は一瞬で、ジンの側にいると、賑やかさのお溢れに預かれたような気がした。
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