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第四章
54:今年、初のマジなキス
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「僕は、長い夢でも見ていたのか?本当はここは八ヶ岳じゃなくて、ジンにも出会っていなくて、あの部屋から動けないまま」
初詣やラウンジでの演奏など、慣れないことが立て続けにあって、彼方は眠りに引きこまれていった。
ジンの夢を見た。
あの家に帰って、薪ストーブの前でソファーにジンと隣り合って座っている夢だ。
唇が重ねられ、「ジン」と名前を呼んだ。
「何だ、起きているのか?」
え?夢の中のジンが変なことを言っている。
起きてるよ、何言ってるの?と言おうとしても、口が上手く動かない。
「おーい。彼方サン。駄目だって。このまま寝たら、スーツがシワになる。起きて、一旦起きて」
身体を起こされた感覚があって、彼方は目を明けた。
「ジン?」
彼が彼方のワイシャツのボタンを外していた。
「いつ、来たの?」
「さっき。五井に聞いたら、演奏が終わるのは零時を過ぎるって聞いたから、道も混んでいるし、ゆっくり家を出た。明けましておめでとうって年明けの瞬間に言うのは、来年だな」
「三百六十五日後?」
「そう」
唇が軽く重なる。
今度は夢ではなく、本当のジンの唇だと実感した。
「部屋にジンがいなくて、寂しかった」
「本当は、十二時前にここに着く予定だったんだ。でも、集中してやってたら、間に合わなくて。明日、弁解させてくれよ」
「うん」
「もう寝よう。クタクタだろ?」
「やらしいことは?」
「そりゃ、二日のお楽しみにとっておけ」
ジンは器用にワイシャツを脱がせ、ズボンもベルトを外してスルスルと脱がせていく。
ボクサーパンツ一枚にさせられ、同じくジンも服を脱いで、入ってくる。
「さすがホテルの羽毛布団。軽くてあったけえ」
と満足気に言った後、「今年、初のマジなキス」と本格的に唇を重ねてきた。
「すげえ。部屋もそうだけど、このおせちも」
「五段って、どこの料亭のだ」
美馬と千山がホテルの部屋に遊びにやってきた。
二人は寝ずにドライブしていたと言っていたので、テンションが高いのも納得だ。
でもそれはたぶん彼方も同じ。
ジンが昨夜言った弁解とは、手作りおせちがぎっしり詰まったお重で、それが嬉しくて写真を撮って、美馬と千山に送ったのだ。
そしたら、彼等が押しかけてきた。
「はい。家に寄って持ってきた酒」
と美馬がワインやら日本酒やらのボトルを差し出してきて、
「看護師さんたちが患者の家族から貰いすぎて飽きてしまい、だれも持ち帰らないゼリーやらお菓子やら」
と、千山が実家の病院へ届けられる箱入りのお菓子の数箱くれた。
「演奏、どうだった?」
美馬がさっそく酒の口を開けながら言う。
「まあまあ。でも、ちょっと、とちった」
「五井は耳が肥えているから、彼方君の演奏聞いて金になると思ったんだったら、家にピアノがあれば、配信とかでも稼げそう」
「何、それ?」
「簡単言えば、携帯一つでできる個人のテレビ局みたいな?特技を見せたり、おしゃべりしたりして、ギフトっていう投げ銭をもらうシステム。楽器演奏とかも需要あるんだぜ。ピアノだったら、手元だけ映すとかもあり」
「ふうん。なら、スゲエソレがうちにあればできるってことか?」
皿や箸の用意をしていたジンが会話に加わってきた。
初詣やラウンジでの演奏など、慣れないことが立て続けにあって、彼方は眠りに引きこまれていった。
ジンの夢を見た。
あの家に帰って、薪ストーブの前でソファーにジンと隣り合って座っている夢だ。
唇が重ねられ、「ジン」と名前を呼んだ。
「何だ、起きているのか?」
え?夢の中のジンが変なことを言っている。
起きてるよ、何言ってるの?と言おうとしても、口が上手く動かない。
「おーい。彼方サン。駄目だって。このまま寝たら、スーツがシワになる。起きて、一旦起きて」
身体を起こされた感覚があって、彼方は目を明けた。
「ジン?」
彼が彼方のワイシャツのボタンを外していた。
「いつ、来たの?」
「さっき。五井に聞いたら、演奏が終わるのは零時を過ぎるって聞いたから、道も混んでいるし、ゆっくり家を出た。明けましておめでとうって年明けの瞬間に言うのは、来年だな」
「三百六十五日後?」
「そう」
唇が軽く重なる。
今度は夢ではなく、本当のジンの唇だと実感した。
「部屋にジンがいなくて、寂しかった」
「本当は、十二時前にここに着く予定だったんだ。でも、集中してやってたら、間に合わなくて。明日、弁解させてくれよ」
「うん」
「もう寝よう。クタクタだろ?」
「やらしいことは?」
「そりゃ、二日のお楽しみにとっておけ」
ジンは器用にワイシャツを脱がせ、ズボンもベルトを外してスルスルと脱がせていく。
ボクサーパンツ一枚にさせられ、同じくジンも服を脱いで、入ってくる。
「さすがホテルの羽毛布団。軽くてあったけえ」
と満足気に言った後、「今年、初のマジなキス」と本格的に唇を重ねてきた。
「すげえ。部屋もそうだけど、このおせちも」
「五段って、どこの料亭のだ」
美馬と千山がホテルの部屋に遊びにやってきた。
二人は寝ずにドライブしていたと言っていたので、テンションが高いのも納得だ。
でもそれはたぶん彼方も同じ。
ジンが昨夜言った弁解とは、手作りおせちがぎっしり詰まったお重で、それが嬉しくて写真を撮って、美馬と千山に送ったのだ。
そしたら、彼等が押しかけてきた。
「はい。家に寄って持ってきた酒」
と美馬がワインやら日本酒やらのボトルを差し出してきて、
「看護師さんたちが患者の家族から貰いすぎて飽きてしまい、だれも持ち帰らないゼリーやらお菓子やら」
と、千山が実家の病院へ届けられる箱入りのお菓子の数箱くれた。
「演奏、どうだった?」
美馬がさっそく酒の口を開けながら言う。
「まあまあ。でも、ちょっと、とちった」
「五井は耳が肥えているから、彼方君の演奏聞いて金になると思ったんだったら、家にピアノがあれば、配信とかでも稼げそう」
「何、それ?」
「簡単言えば、携帯一つでできる個人のテレビ局みたいな?特技を見せたり、おしゃべりしたりして、ギフトっていう投げ銭をもらうシステム。楽器演奏とかも需要あるんだぜ。ピアノだったら、手元だけ映すとかもあり」
「ふうん。なら、スゲエソレがうちにあればできるってことか?」
皿や箸の用意をしていたジンが会話に加わってきた。
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