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第四章
51:落ち着かない?いつものジンらしくない
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人がさほど多くない八ヶ岳も、年末年始は帰省客や観光客の車が多く、時折渋滞に出くわす。
ジンが運転する軽トラックで雪道を走っていると、大きなホテルについた。
まるで、雪山にそびえる洋風の城みたいな姿だ。
真正面は、ガラス窓が天井まで張られ、手前には椅子や丸テーブル。ラウンジになっているようだ。
隅にひっそりとグランピアノが置かれてあった。
「先ほどはどうも」
入り口横手にあるチェックインカウンターでジンが名前を告げると、五井が出てきて、颯爽とした足取りで部屋に案内してくれた。
顔見知り客がたくさんいるのか、
「今年も来てくださってありがとうございます」
だの、
「来年もよろしくお願いいたします」
だの、にこやかに挨拶をする。
部屋はホテルの最上階で、廊下に敷かれている絨毯もふかふかな感じが足の裏に伝わってくる。
部屋に入ると、五井がキリッとした態度をいきなり崩し、「ぎでぐれてありがどううううう」と彼方の手を握ってぶんぶんとしてきた。
振れ幅の大きい人だ。さっきのキリッは、営業用らしい。
彼方が笑っていると、ジンが窓辺に立った。
そこからは、八ヶ岳の景色が一望できる。
黒い山肌がかすかに見えるぐらいで、ほぼ一面が、真っ白だ。
部屋は応接間があって、左右に寝室がある。つまり、ツーベットルーム。
マスターベッドルームに、彼方のスーツと革靴が用意されていた。この二日が終わったら自分のものにしてくれていいと言う。
「五井さん。赤字じゃないの?ホテル代だってかかってるし」
「穴を開けない方が大事。それに、どのホテルもトラブルがあった場合移ってもらうようの予備の部屋を必ず残しているから、こっちの方は大丈夫」
「なら、いいんだけど」
着替えをすませ、ジンの元に戻った。
髪は五井が持ってきてくれた整髪料で整えてくれた。
こんなにきっちりした姿になるのは、本当に久しぶりだ。
「それじゃ、時間になったら下で」
と五井が足早に去っていく。
「似合う」
応接間で待っていたジンに近づいていくと、彼方を見て言う。
「俺のダウンジャケット着ているより、しっくりくる」
「僕、あれ好きだよ。暖かいし。なんで、そんなに距離取ったままなの?」
「脱がしたくなるから」
ドキッとするようなことをジンに言われ、彼方は照れる。
フィッティングもすることなく与えられたスーツだが、いつもの自分にかなり近い。
その姿を褒められるのは嬉しい。
そして、後から複雑な感情が湧いてきた。
いつもの自分。
それは、飼い主に作られたものだからだ。
「ジンの目に魅力的に映っているならよかった」
純粋な笑顔は、途中で作り笑いに変わった。
もしかしたら、鋭いジンは気づいてるのかもしれない。
また、窓の方を向きながら、ジンが言った。
「ラウンジ。寒くないといいな」
「弾いているうちに、そういうの分かんなくなるから大丈夫。間違えた、冷え切ったら温めてくれると嬉しい」
「了解」
とジンは言いながら、またこちらを向いて、今度は天井や床の隅へと視線を移した。
そして、刺繍が見事なソファーに座り心地悪そうに腰を付ける。
「落ち着かない?いつものジンらしくない」
「なんか、こういうところはな。逆に彼方は当たり前のように溶け込んでるからそれに慣れないのかもしれない」
その言い方は、的を得ていた。
彼方は、何着もこの手のものを買い与えられて、数回、袖を通しただけでいつの間にか捨てられていて、また、新しいのがクローゼットに詰まっていて。
ジンが運転する軽トラックで雪道を走っていると、大きなホテルについた。
まるで、雪山にそびえる洋風の城みたいな姿だ。
真正面は、ガラス窓が天井まで張られ、手前には椅子や丸テーブル。ラウンジになっているようだ。
隅にひっそりとグランピアノが置かれてあった。
「先ほどはどうも」
入り口横手にあるチェックインカウンターでジンが名前を告げると、五井が出てきて、颯爽とした足取りで部屋に案内してくれた。
顔見知り客がたくさんいるのか、
「今年も来てくださってありがとうございます」
だの、
「来年もよろしくお願いいたします」
だの、にこやかに挨拶をする。
部屋はホテルの最上階で、廊下に敷かれている絨毯もふかふかな感じが足の裏に伝わってくる。
部屋に入ると、五井がキリッとした態度をいきなり崩し、「ぎでぐれてありがどううううう」と彼方の手を握ってぶんぶんとしてきた。
振れ幅の大きい人だ。さっきのキリッは、営業用らしい。
彼方が笑っていると、ジンが窓辺に立った。
そこからは、八ヶ岳の景色が一望できる。
黒い山肌がかすかに見えるぐらいで、ほぼ一面が、真っ白だ。
部屋は応接間があって、左右に寝室がある。つまり、ツーベットルーム。
マスターベッドルームに、彼方のスーツと革靴が用意されていた。この二日が終わったら自分のものにしてくれていいと言う。
「五井さん。赤字じゃないの?ホテル代だってかかってるし」
「穴を開けない方が大事。それに、どのホテルもトラブルがあった場合移ってもらうようの予備の部屋を必ず残しているから、こっちの方は大丈夫」
「なら、いいんだけど」
着替えをすませ、ジンの元に戻った。
髪は五井が持ってきてくれた整髪料で整えてくれた。
こんなにきっちりした姿になるのは、本当に久しぶりだ。
「それじゃ、時間になったら下で」
と五井が足早に去っていく。
「似合う」
応接間で待っていたジンに近づいていくと、彼方を見て言う。
「俺のダウンジャケット着ているより、しっくりくる」
「僕、あれ好きだよ。暖かいし。なんで、そんなに距離取ったままなの?」
「脱がしたくなるから」
ドキッとするようなことをジンに言われ、彼方は照れる。
フィッティングもすることなく与えられたスーツだが、いつもの自分にかなり近い。
その姿を褒められるのは嬉しい。
そして、後から複雑な感情が湧いてきた。
いつもの自分。
それは、飼い主に作られたものだからだ。
「ジンの目に魅力的に映っているならよかった」
純粋な笑顔は、途中で作り笑いに変わった。
もしかしたら、鋭いジンは気づいてるのかもしれない。
また、窓の方を向きながら、ジンが言った。
「ラウンジ。寒くないといいな」
「弾いているうちに、そういうの分かんなくなるから大丈夫。間違えた、冷え切ったら温めてくれると嬉しい」
「了解」
とジンは言いながら、またこちらを向いて、今度は天井や床の隅へと視線を移した。
そして、刺繍が見事なソファーに座り心地悪そうに腰を付ける。
「落ち着かない?いつものジンらしくない」
「なんか、こういうところはな。逆に彼方は当たり前のように溶け込んでるからそれに慣れないのかもしれない」
その言い方は、的を得ていた。
彼方は、何着もこの手のものを買い与えられて、数回、袖を通しただけでいつの間にか捨てられていて、また、新しいのがクローゼットに詰まっていて。
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