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第四章
50:大晦日と、正月一日を急に拘束しといて、渋ってんじゃねえぞ
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「契約していたピアニストが、インフルエンザになってこれないって。探したけど、こんな年末じゃあ、八ヶ岳まで来てくれる代役も一月二日までは見つからなくて」
「で、彼方に弾けって?」
すると、今度は五井が彼方の肩を掴んでくる。
「ショッピングモールのどこでもピアノの動画を社員から見せてもらった。頼む。そこら辺の素人じゃ駄目なんだ。プロじゃなきゃ」
「僕、プロではない」
「でも、お金貰って演奏してきた人でしょ?音大生やコンクール荒らしとも違う、そういう音だってこっちは分かる。頼む、頼むうううう。こんな日に欠員出したら、父さんに、あ、社長。社長に、絞め殺される」
どうしたらいいのか分からなくて、彼方はジンを見た。
しょうがない、助けてやれよというようにジンが肩をすくめる。
「でも、うちの彼方サンはボランティアではやんねえからな」
「分かってる。今夜は、夕方と夜中の二時間。明日は、お昼と夕方と夜、これも各二時間。受けてくれるならこのぐらいはバイト代は出す」
五井は携帯の電卓を叩いて「かける二日分」と数字をはじき出す。
合計額は、三万円だった。
ジンを再び見る。
「彼方が決めろよ。あんたに、来た仕事だ」
今の彼方には魅力的な額だ。
一月十八日までの目標額の五万円に一気に近づける。
でも、これから家に帰ったら、おせちを食べてその後は……。
つまり、ジンとの楽しい時間が飛んでしまう。
考え込みそうになった瞬間、背中をジンにぽんと叩かれた。
まるで、「やれよ」と言われているような気がして、
「あの……充分です」
と指で丸のサインを出す。すると、ジンが横から口を出してくる。
「アホか。五井。大晦日と、正月一日を急に拘束しといて、渋ってんじゃねえぞ。二日でこれぐらいは出せ」
数字が四万に変わる。
「あと、部屋を用意しろ。超ラグジュアリースイートみたいなけったいな名前の部屋あんだろ。三泊分な」
ジンの強引な提案も、五井はよっぽど切羽詰まっているのか二つ返事で、慌ただしく彼方の仕事が決まっていく。
「余裕を持って十五時には、ホテルに来て。スーツある?あ、無いの。じゃあ、用意しておく。楽譜は?練習時間はあまり取れないと思うけれど」
「初見でいける」
「助かった」
五井が天を仰いだ。そして、来た時と同じく、駆け足で帰っていく。
「騒がしい奴だったな」
と言いながら、彼方やジン、美馬、千山も神社の駐車場に戻った。
彼方はジンの車に乗り込む。
美馬の車に乗り込む千山をバックミラーで見送りながら、帰路についた。
「よかったな。仕事が決まって。千山のに、美馬のに、それにピアノ」
「単発だけどね。けど、ジンと過ごせないのは、正直、残念」
「彼方サンのエッチ」
「はい。そうですね。覚えたての猿みたいなもんです」
彼方はジンに言い返す。
「言うね」
「それぐらい、楽しみにしてた」
「じゃあ、場所を変えてしたっていいんじゃね?期待してていいぞ、二日の日」
演奏を頼まれたのは、大晦日と、正月一日だ。
「宿泊を三泊分要求したのは、それのため??」
期待していいって、何を??
あんなことや、そんなこと??
「あ、また、メルルンからいいねの通知来た」
照れが先行して、彼方はわざと話題を反らした。
「で、彼方に弾けって?」
すると、今度は五井が彼方の肩を掴んでくる。
「ショッピングモールのどこでもピアノの動画を社員から見せてもらった。頼む。そこら辺の素人じゃ駄目なんだ。プロじゃなきゃ」
「僕、プロではない」
「でも、お金貰って演奏してきた人でしょ?音大生やコンクール荒らしとも違う、そういう音だってこっちは分かる。頼む、頼むうううう。こんな日に欠員出したら、父さんに、あ、社長。社長に、絞め殺される」
どうしたらいいのか分からなくて、彼方はジンを見た。
しょうがない、助けてやれよというようにジンが肩をすくめる。
「でも、うちの彼方サンはボランティアではやんねえからな」
「分かってる。今夜は、夕方と夜中の二時間。明日は、お昼と夕方と夜、これも各二時間。受けてくれるならこのぐらいはバイト代は出す」
五井は携帯の電卓を叩いて「かける二日分」と数字をはじき出す。
合計額は、三万円だった。
ジンを再び見る。
「彼方が決めろよ。あんたに、来た仕事だ」
今の彼方には魅力的な額だ。
一月十八日までの目標額の五万円に一気に近づける。
でも、これから家に帰ったら、おせちを食べてその後は……。
つまり、ジンとの楽しい時間が飛んでしまう。
考え込みそうになった瞬間、背中をジンにぽんと叩かれた。
まるで、「やれよ」と言われているような気がして、
「あの……充分です」
と指で丸のサインを出す。すると、ジンが横から口を出してくる。
「アホか。五井。大晦日と、正月一日を急に拘束しといて、渋ってんじゃねえぞ。二日でこれぐらいは出せ」
数字が四万に変わる。
「あと、部屋を用意しろ。超ラグジュアリースイートみたいなけったいな名前の部屋あんだろ。三泊分な」
ジンの強引な提案も、五井はよっぽど切羽詰まっているのか二つ返事で、慌ただしく彼方の仕事が決まっていく。
「余裕を持って十五時には、ホテルに来て。スーツある?あ、無いの。じゃあ、用意しておく。楽譜は?練習時間はあまり取れないと思うけれど」
「初見でいける」
「助かった」
五井が天を仰いだ。そして、来た時と同じく、駆け足で帰っていく。
「騒がしい奴だったな」
と言いながら、彼方やジン、美馬、千山も神社の駐車場に戻った。
彼方はジンの車に乗り込む。
美馬の車に乗り込む千山をバックミラーで見送りながら、帰路についた。
「よかったな。仕事が決まって。千山のに、美馬のに、それにピアノ」
「単発だけどね。けど、ジンと過ごせないのは、正直、残念」
「彼方サンのエッチ」
「はい。そうですね。覚えたての猿みたいなもんです」
彼方はジンに言い返す。
「言うね」
「それぐらい、楽しみにしてた」
「じゃあ、場所を変えてしたっていいんじゃね?期待してていいぞ、二日の日」
演奏を頼まれたのは、大晦日と、正月一日だ。
「宿泊を三泊分要求したのは、それのため??」
期待していいって、何を??
あんなことや、そんなこと??
「あ、また、メルルンからいいねの通知来た」
照れが先行して、彼方はわざと話題を反らした。
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