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第四章

47:俺、彼方に礼言われるの好きだな

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「いいね、それ。こういうことしてもらったのは初めてだ」
「内木さんは?」
「え?彼方に先生の名字教えたっけ?じゃあ、美馬情報?先生にか。ははっ」
 ジンが、そんなのありえないというような感じで笑う。
「確かに好きだったけど、そういう触れ合いは無かった。あと、東京で一晩過ごすだけの相手にもこんな優しさはなかったし、俺も向けたことがない」
「僕とジンは東京のゲイバーやハッテンバっていうところで出会ったのかって、美馬さんに聞かれた」
 するとジンの身体が少しこわばる。
 だから、彼方は慌てて付け足した。
「興味本位じゃないって。また友情が壊れるのが嫌だから、事前に色々知って地雷を踏まないようにしたいって。僕も、ジンが出会いを探してたんだって知れてよかった……かな?」
「ちょっとは嫉妬した?」
「実はほぼそっち」
 すると、ジンが彼方をぎゅっと抱きしめてきた。
「中学の時、女と一瞬付き合った。どうしても、ちゃんと抱けなくて、柔らかい身体が気持ちが悪くて、手すら繋げなくなった。なんとなく自分は男が好きなんだろうなって気づいていて、それがはっきりしてしまって、混乱して、そこから、冷たくされて傷つく相手の気持ちなんて考えられなくなった。とにかく側に寄ってくんなって。で、バスケ部のマネージャーだったから、俺が最低って雰囲気になって、俺も俺で、別世界を生きている感覚になっちゃって、あいつらとも上手くいかなくなっちゃって、パスもまともに繋げなくなって中学最後の試合はボロ負け。美馬も、千山も他の仲間も怒った。それは当たり前のことなんだけど、俺は上手く対処できなくて、で、山に逃げ込んだと。そこで、先生に優しくしてもらえたかというと、それは最初だけで、猟師修行に入ってからはめちゃくちゃしごかれた。今、彼方に少しでも優しくできるのは先生のおかげ。家をこうやって保てるのも、稼いでいけるもの。じゃなきゃ、東京あたりで相当悪いことしてた気がする」
「話してくれて、ありがと」
「俺、彼方に礼言われるの好きだな。隣に居てくれるからなのか、いつもは明け方まで緊張感が抜けてかないんだけど、彼方といると早いみたいだ」
「初めて言い合いみたいなのをジンとして、緊張した」
 すると、ジンの大きな手が彼方の耳を塞ぐ。
「初めてさん、それは悪かった。明日は大晦日だ。お詫びと言っては何だが、混まない日中に初詣に行くか?いや、言い方が違うな」
 ジンは彼方の押さえていた耳を片手だけ外して口を近づけてきた。
「俺と一緒に初詣に行ってくれよ。そういうのも、好きな人と、してみたかった。その後は、俺はおせちの残りを作って、彼方はメルルンでもやってな。で、あとは寝正月。つまり、ずっとベットで」
 艶っぽい誘いに、かあっと彼方の身体が暑くなる。
 だから、無言でジンの胸の中で頷いた。

「げえっ。出くわさないようにわざわざ早い時間にしたのにっ」
 昼過ぎに、近くにある神社に出かけた。
  混み合う極寒の夜に出かけるより、彼方には人の少ない昼のほうがいいとジンが判断したからだ。
 彼方にとっては、初めての初詣だ。
 予想通り、人はまばらで、参道には焼きそばやイカの姿焼きなどが売られている屋台が立っている。
 悲鳴を上げたのは、ちょっと騒がしいところがある美馬だ。
 参拝を済ませて、参道を戻っていたら、昨日の二人とばったり出会った。
 ジンが、美馬の隣にいる千山にズカズカと近寄っていって、
「何してんの?」
 千山は千山で、むっとした表情で、
「そっちこそ」
 もう成人した男らが頭突きしあう鹿みたいにオラつきあう。
「暇なのか?ああ、そうか。人間性が薄っぺらいから、彼女一人できないってやつ?」
「お前こそ、弄ばれてるくせに、舞い上がっちゃって。バーカーだーねぇー」
 なんというか、たぶん、ずっと二人はこんな感じの付き合いだったのだろう。
 本当に嫌いだったら、声も交わさないはずだ。
 彼方と飼い主みたいに。
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