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第四章

46:やっぱ、明日出ていって

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「エアビーっていうのは?」
「それも、考え中。なあ、彼方。俺とあんたは同い年。俺は今、職と家があるけれど、やりたいこととかやらなければならないことか、優先順位をどうしようかとか、やっぱ面倒くさいとか、心も頭もごちゃごちゃで、はっきりと道は決まってない。それに家っていったって、ここは今は先生の親戚の名義だしな」
 ジンは天井を見上げた。
 何か思うことがあるようだ。
「彼方。もう耳は平気か?病院行くなら連れて行くぞ?ここらじゃ、年末開いている病院は千山のとこしかないんだけどな。あいつの親が総合病院やってる」
「大丈夫。音が聞こえるようになってきたから」
 保険証が無いのだ。
 行けるわけない。
 実費を出すなら保険証が無くても大丈夫だと以前、携帯で調べたとき知った。
 だが、問診票にフルネームを書かされるだろうし、名字が空欄なのはおかしい。
 それに、保険証以外の証明書の提出を求められることもあるらしい。
 マイナンバーカードとか、免許証。
 つまり、自分を証明するもの。
「無理するな」
「うん」
 そうやって気遣われるのが、最初は嬉しかった。
 でも、回を重ねるごとに、「お前一人じゃ、何も出来ないんだし」と暗に言われている気がする。
 完全な被害妄想。
 それも分かっている。
「今日、鹿、捕ってきた。処理が途中だから、ガレージでやってくる。車の隣にある銀の台のとこでな。グロいから体調悪いなら見に来たりはするな。終わったら入るから、風呂を沸かしておいてくんねえ?」
 夕飯は、ジンが捌いた鹿肉のローストビーフ風だった。
 今まで食べてきた豚や牛の肉と違って、薄切りでも弾力がある。
 でも、会話は少なかった。
「漁に出た日はこんなだから、気にすんな」
とは言われたが、絶対にそれだけではないはずだ。
 飼い主が、堀ノ堂一。
 彼の愛人だと、ジンの同級生に嫌悪感顕に言われてしまった。
 ジンはさっさと食べ終えてキッチンに立った。
 年末年始の仕込みをするために、以前、大量に買い込んできたがそれをせっせと作っているらしい。
 正月って何をするんだろう?
 経験したことがないから分からない。
 定位置となったソファーでバラエティ番組を見て、ニュース番組に切り替わるタイミングで彼方はいつも風呂に入る。
 だが、今夜は黙ってニュースを見ていた。
 ジンは食事の前に風呂に入ってしまったので、今夜は彼方より先に自室へ行ってしまった。
「寝るぞ」
と声も掛けられない。
 ジンに機嫌を損ねられて、「やっぱ、明日出ていって」と言われてしまえば、そこで終わりだ。
 ジンから譲ってもらったスウェットに着替えて、寝る部屋に向かう。
 部屋にランプがついていて、すでにジンがこちらに背中を向けて眠っていた。
「ねえ。ジン。隣に入ってもいい?」
 ジンが寝返りを打ちながらこちらを向き、「薪ストーブの部屋で寝るって言い出したらどうしようかと思っていた」と手を伸ばしてくる。
「もしくは、明日、ここを出ていく、とかな」
 不安に思っていたのは自分だけじゃないらしい。
 彼方は引き寄せられるように、ジンの懐に入った。
「やっぱり安心する。でも、ちょっと別人みたいな身体だ」
「彼方サン、あんた結構鋭いね。まだ、俺、気が立ってるから、それでだと思う。とにかく鎮めるのに時間がかかる」
 彼方が戸惑いながらジンの背中を撫でると、少し彼の緊張が緩んだ。
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