45 / 126
第四章
45:初めてジンの口から聞いた
しおりを挟む
鼓膜がパーンと張った中、叫ぶと、頭がガンガンした。
雪の中に突っ伏して、冷たさを感じていると少し紛れる。
肩を掴まれた感触があって、気づいたらもう抱き上げられてた。
でも、普段のジンの感触と違う。
こうやって抱き上げられたことは一度や二度じゃないから、いくら耳が痛くてもよく分かる。
細胞一つ一つが張り詰めながら流れているようた。
「そこまで症状がひどいなら、さっさと病院へ」
「わざと悪化させやがって。お前に頼るんじゃなかった」
「ストレスの元を取り除かなければ、些細な事で、再発する。それに、ボクも来るんじゃなかった。六年ぶりに幼なじみに会えると感傷に浸って馬鹿みたいだ。ゲイのいちゃいつきを見せつけられただけだ」
「彼方はゲイじゃねえ。そう告げたら、お前の評価はころっと変わるのか?薄っぺらい人間性は相変わらずだな。さっさと帰れえよ。あと、美馬。約束は約束だ。ネットと電気会社の契約書は置いていけ。そっちは年明けの契約になる」
「分かった。その……ごめんな。ジン。彼方君」
美馬は足早に、千山はゆっくりと、自分の車に向かう。
別れの挨拶もせず、ジンは家の中へと帰っていく。
ソファーに降ろされた。
車のエンジン音や、タイヤが雪を踏む音が聞こえてこない。
「大丈夫か?」
耳を押さえられると、ジンがから血の匂いを感じた。
手もいつもの感覚とは違う。
身体と同じで、緊張で張り詰めているようだ。
「知ってたんだね。僕の飼い主のこと」
「謝れって?」
「謝るのは僕でしょ」
「彼方は愛人になったつもりはないみたいだし、恥じた人生じゃないなら、謝らなくていいんじゃね?」
「愛人なんかじゃないよ。でも、綺麗な人生でもない。携帯だって自分じゃ契約できないし、身分証は無いし、名字だって知らない」
「知ろうとしないからだろ」
ジンの手が離れていく。
「俺はずっと、彼方にここにいて欲しいと思っている。でも、堀ノ堂一の元に帰る可能性を彼方が残しておきたいなら、事を荒立てる必要ないもんな」
「帰らないっ。帰るわけないだろっ。耳が聞こえなくなって、捨てられたんだから」
「そのことに、腹が立っているのか?じゃあ、やり返せ」
「名字ぐらい取り返して来いって?簡単に言うなよ。僕だって、飼われていた場所を飛び出してから、まともに生活したくて何万回も考えたよ。でも、足はすくむし、耳だって」
「うん。だから、ここまで彼方は自力で来たろ?進んでないなんて言ってない。携帯だって手に入れたし、商売だって始めようとしてる。ついでに、あんたのことを好いている男が側にいて、いつだって手助けしようとスタンバイしていること、知っといて欲しい」
「好き?」
「おう」
「初めてジンの口から聞いた」
「態度では示してたつもり。フルーツティーに台湾カステラ。ケーキ。あとは、これ」
耳が大きな手で包まれた。
「でも、俺、自分で気持ちが重いって自覚あるから。彼方のこと考えるとストーカーみたいになりそうだし、いや、犯罪者かな?きっと、この家に縛り付ける」
「僕中心になるってこと?」
「かな?自分でも気持ちが悪いぐらいだけど」
ジンにずっと束縛されることを想像するだけで、心が震える。
だが、彼方は首を振った。
「嬉しいけれど、だめだよ、ジン。猟の修行は?本当は、八ヶ岳を離れる予定だったんじゃないの?」
すると、彼方の耳を覆っていたジンの手が離れた。
「美馬か。あいつ」
とふっとため息をつく。
「それは先生が亡くなる前から考えていたことだ。でも、あの人の看病や死があって、なあなあに」
雪の中に突っ伏して、冷たさを感じていると少し紛れる。
肩を掴まれた感触があって、気づいたらもう抱き上げられてた。
でも、普段のジンの感触と違う。
こうやって抱き上げられたことは一度や二度じゃないから、いくら耳が痛くてもよく分かる。
細胞一つ一つが張り詰めながら流れているようた。
「そこまで症状がひどいなら、さっさと病院へ」
「わざと悪化させやがって。お前に頼るんじゃなかった」
「ストレスの元を取り除かなければ、些細な事で、再発する。それに、ボクも来るんじゃなかった。六年ぶりに幼なじみに会えると感傷に浸って馬鹿みたいだ。ゲイのいちゃいつきを見せつけられただけだ」
「彼方はゲイじゃねえ。そう告げたら、お前の評価はころっと変わるのか?薄っぺらい人間性は相変わらずだな。さっさと帰れえよ。あと、美馬。約束は約束だ。ネットと電気会社の契約書は置いていけ。そっちは年明けの契約になる」
「分かった。その……ごめんな。ジン。彼方君」
美馬は足早に、千山はゆっくりと、自分の車に向かう。
別れの挨拶もせず、ジンは家の中へと帰っていく。
ソファーに降ろされた。
車のエンジン音や、タイヤが雪を踏む音が聞こえてこない。
「大丈夫か?」
耳を押さえられると、ジンがから血の匂いを感じた。
手もいつもの感覚とは違う。
身体と同じで、緊張で張り詰めているようだ。
「知ってたんだね。僕の飼い主のこと」
「謝れって?」
「謝るのは僕でしょ」
「彼方は愛人になったつもりはないみたいだし、恥じた人生じゃないなら、謝らなくていいんじゃね?」
「愛人なんかじゃないよ。でも、綺麗な人生でもない。携帯だって自分じゃ契約できないし、身分証は無いし、名字だって知らない」
「知ろうとしないからだろ」
ジンの手が離れていく。
「俺はずっと、彼方にここにいて欲しいと思っている。でも、堀ノ堂一の元に帰る可能性を彼方が残しておきたいなら、事を荒立てる必要ないもんな」
「帰らないっ。帰るわけないだろっ。耳が聞こえなくなって、捨てられたんだから」
「そのことに、腹が立っているのか?じゃあ、やり返せ」
「名字ぐらい取り返して来いって?簡単に言うなよ。僕だって、飼われていた場所を飛び出してから、まともに生活したくて何万回も考えたよ。でも、足はすくむし、耳だって」
「うん。だから、ここまで彼方は自力で来たろ?進んでないなんて言ってない。携帯だって手に入れたし、商売だって始めようとしてる。ついでに、あんたのことを好いている男が側にいて、いつだって手助けしようとスタンバイしていること、知っといて欲しい」
「好き?」
「おう」
「初めてジンの口から聞いた」
「態度では示してたつもり。フルーツティーに台湾カステラ。ケーキ。あとは、これ」
耳が大きな手で包まれた。
「でも、俺、自分で気持ちが重いって自覚あるから。彼方のこと考えるとストーカーみたいになりそうだし、いや、犯罪者かな?きっと、この家に縛り付ける」
「僕中心になるってこと?」
「かな?自分でも気持ちが悪いぐらいだけど」
ジンにずっと束縛されることを想像するだけで、心が震える。
だが、彼方は首を振った。
「嬉しいけれど、だめだよ、ジン。猟の修行は?本当は、八ヶ岳を離れる予定だったんじゃないの?」
すると、彼方の耳を覆っていたジンの手が離れた。
「美馬か。あいつ」
とふっとため息をつく。
「それは先生が亡くなる前から考えていたことだ。でも、あの人の看病や死があって、なあなあに」
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる