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第四章
44:僕は愛人なんてした覚えはない。ジンに寄生した覚えもない
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「あの店は、この田舎じゃ考えられない組み合わせの客層でいつも溢れていて、でも、いつしか慣れた。幼い少女とロリコン中年。老人との少年の組み合わせ。中でも、キミは異質だった。スタッフの中でも噂されてたぜ。また、堀ノ堂一がピアノ弾きの人形を連れてきたって」
「おい、千山。彼方君に当たるなって。過去にそういうことがあったかもしれないが、今は、ジンと暮らしている」
「愛人を乗り換えたにしてはしょぼいな」
「千山!」
とうとう美馬が怒鳴った。
すると、千山もかっとなり、「だって、そうだろっ!?」と美馬に怒鳴り返したのち、彼方に詰め寄ってくる。
「どう見たって、キミは堀ノ堂一の愛人だった。まだ若いんだから、大人しくあと十年はその座に収まってればいいものを。それに、美馬。お前、いい人ぶってるけれど、ジンにこの人形のこと、調べさせられたんじゃないのか。お前、携帯番号一つで、かなりの個人情報に触れることができるんだろ?」
「ジンに?そうなの」
彼方は美馬を問いただす。
「いやああ。そのう」
「ジンは相変わらず、ずるいな。キミと堀ノ堂一の関係を知っているくせに、言わずにボクらに言わせた」
「ボクらって、千山が勝手にバラしたんだろおっ!?巻き込むな。また、中学の時みたいな状態になりたいのか?あいつ、今、本物の猟師だぞ?怒りの導火線が弾けたら、何するか」
彼方は二人を置いて、玄関から外に出た。
美馬が追いかけてくる。
「か、彼方君、ちょ、ちょっと待って。ジンは本当に君のことを心配して。心を許した相手じゃないと、絶対にそんなことはしない。だから、勝手に調べたこと許してあげて」
「いつ?ジンはそのことをいつ知ったの?」
「え、ええっと、カット無料券を取りに来た日」
クリスマスの晩じゃないか。
そんな前から。
でも、全然、態度に出てなかった。
だって、その日の夜は、お互いが求めあって蕩けた日だ。
彼方にとっては初めて素肌を自分から晒した日だったし、ジンの肌を感じた日でもあった。
彼方は耳を抑える。
鼓膜が張って立ってられない。この家から遠くに離れたいのに、よろめきながらしか歩けない。
二つの足音が近づいてくるのが分かる。
美馬と千山のだ。
「家に戻ろう。こんな薄着じゃ、東京の人はすぐ風邪を引く。千山にはすぐ帰るように言う。ジンと鉢合わせしたら大変なことに……」
「言われなくたって帰る。ゲイに偏見は無いが、同級生の相手なら別だ」
遠くから車が走る音が聞こえてきて、美馬が「嘘お」と甲高い悲鳴を上げた。
ジンの軽トラックだ。
家の敷地に入ってきたかと思うと、車を止め、猟銃のケースを持って荒々しくこちらに向かってくる。ケースのチャックを今にも下ろしそうだ。
迷彩柄の服装は、猟着だ。
「彼方に何をした?」
とジンは低い声で言う。
「何もしてない、何も」
よっぽど怖いのか、美馬が早口で繰り返す。
「じゃあ、千山か。余計なことを言ったのは」
「そうだよ」
と言いながら、千山が近づいてきた。
「てめえには、彼方の耳を見ろって言っただろ」
「お久しぶりです。堀ノ堂一の愛人様。また、ぜひ、白金台のオブションに、代議士先生と足をお運びくださいねって嫌味を言ったまでだ。生きる場所が違う人間に寄生されて、頭がお花畑か、ジン。ま、この年齢で愛人業をしてる奴だ。簡単に手のひらで転がされるか」
「僕は愛人なんてした覚えはない。ジンに寄生した覚えもない」
「どうだか」
「おい、千山。彼方君に当たるなって。過去にそういうことがあったかもしれないが、今は、ジンと暮らしている」
「愛人を乗り換えたにしてはしょぼいな」
「千山!」
とうとう美馬が怒鳴った。
すると、千山もかっとなり、「だって、そうだろっ!?」と美馬に怒鳴り返したのち、彼方に詰め寄ってくる。
「どう見たって、キミは堀ノ堂一の愛人だった。まだ若いんだから、大人しくあと十年はその座に収まってればいいものを。それに、美馬。お前、いい人ぶってるけれど、ジンにこの人形のこと、調べさせられたんじゃないのか。お前、携帯番号一つで、かなりの個人情報に触れることができるんだろ?」
「ジンに?そうなの」
彼方は美馬を問いただす。
「いやああ。そのう」
「ジンは相変わらず、ずるいな。キミと堀ノ堂一の関係を知っているくせに、言わずにボクらに言わせた」
「ボクらって、千山が勝手にバラしたんだろおっ!?巻き込むな。また、中学の時みたいな状態になりたいのか?あいつ、今、本物の猟師だぞ?怒りの導火線が弾けたら、何するか」
彼方は二人を置いて、玄関から外に出た。
美馬が追いかけてくる。
「か、彼方君、ちょ、ちょっと待って。ジンは本当に君のことを心配して。心を許した相手じゃないと、絶対にそんなことはしない。だから、勝手に調べたこと許してあげて」
「いつ?ジンはそのことをいつ知ったの?」
「え、ええっと、カット無料券を取りに来た日」
クリスマスの晩じゃないか。
そんな前から。
でも、全然、態度に出てなかった。
だって、その日の夜は、お互いが求めあって蕩けた日だ。
彼方にとっては初めて素肌を自分から晒した日だったし、ジンの肌を感じた日でもあった。
彼方は耳を抑える。
鼓膜が張って立ってられない。この家から遠くに離れたいのに、よろめきながらしか歩けない。
二つの足音が近づいてくるのが分かる。
美馬と千山のだ。
「家に戻ろう。こんな薄着じゃ、東京の人はすぐ風邪を引く。千山にはすぐ帰るように言う。ジンと鉢合わせしたら大変なことに……」
「言われなくたって帰る。ゲイに偏見は無いが、同級生の相手なら別だ」
遠くから車が走る音が聞こえてきて、美馬が「嘘お」と甲高い悲鳴を上げた。
ジンの軽トラックだ。
家の敷地に入ってきたかと思うと、車を止め、猟銃のケースを持って荒々しくこちらに向かってくる。ケースのチャックを今にも下ろしそうだ。
迷彩柄の服装は、猟着だ。
「彼方に何をした?」
とジンは低い声で言う。
「何もしてない、何も」
よっぽど怖いのか、美馬が早口で繰り返す。
「じゃあ、千山か。余計なことを言ったのは」
「そうだよ」
と言いながら、千山が近づいてきた。
「てめえには、彼方の耳を見ろって言っただろ」
「お久しぶりです。堀ノ堂一の愛人様。また、ぜひ、白金台のオブションに、代議士先生と足をお運びくださいねって嫌味を言ったまでだ。生きる場所が違う人間に寄生されて、頭がお花畑か、ジン。ま、この年齢で愛人業をしてる奴だ。簡単に手のひらで転がされるか」
「僕は愛人なんてした覚えはない。ジンに寄生した覚えもない」
「どうだか」
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