27 / 126
第三章
27:辛いならやってやろうか?恥ずかしいなら、人のいない場所で
しおりを挟む
「本当によかった、回復してくれて。俺が面倒みてるから、俺のもんだって支配的に思っているわけじゃねえけど、誇らしい」
「どういう意味?」
「先生、病気で死んだって言ったろ?どんなに手を尽くしても、痩せていって、最後は骨と皮だけになった。いろいろ作ったんだけど、どんどん食べられるものが少なくなって。でも、彼方は、逆。与えれば与えるほど回復してって、それが素直に嬉しい。---おい、そんなに熱っぽい目で見るな。キスしたくなる」
「見てない」
「ああ、そうですか」
信号が青に変わって、またジンは車を走らせ始めた。
「春になったら何か軽作業をしてみるか?俺の紹介なら、身分証はいらないとこはたくさんある。バイト代も現金手渡し」
「嬉しい。でも、できるなら、冬からしたい」
「焦んなくていいって。夜に返してくれてるだろ。昨日は、彼方サンからしてくれて感動した。しかも、風呂場で。そのあと、のぼせて使い物にならなったけどな」
すると、急に彼方が窓の方に顔を向けた。
「あれは、礼とかそんなんじゃなくて……自然と」
そこからは、完全な無言だった。
あらら?これは居心地が悪い方の沈黙だ。
車がショッピングモールの駐車場につくと、彼方が率先して降りた。
ずんずんと一人歩いて行こうとする。
「彼方。入り口、そっちじゃないって」
ご機嫌斜めとまではいかないが、上機嫌でないことは確かだ。
呼び寄せ、二人でショッピングモールの中に入っていく。
「ザワザワする」
と彼方が言った。
平日の昼前なので、中にほとんど人の姿は見えない。
今日がクリスマスなので、流し収めとばかりにしつこくクリスマスソングがかかり、むしろ侘しさが強調されているぐらいだ。
間もなく土日がやってくるので、年末年始のための買い出し客でそこそこ賑わうはずだ。だからこそ、混まない今日のうちに用事は済ませてしまいたかった。
「耳の調子がよくないのか?」
「こういうところは久しぶりだから、緊張してるのかも」
「一週間ぶりぐらいに文明に触れたもんな」
「そこまで言ってない」
ジンは彼方の頭上に両手を差し出す。
「辛いならやってやろうか?恥ずかしいなら、人のいない場所で」
「大丈夫。そこまでじゃない」
耳が辛いのは可愛そうだが、手で耳を包んでやる行為は、彼方を捕まえたみたいな気分になるので、気に入ってる。断られたのがちょっと残念だ。
エスカレーターに乗って二階に向かった。巨大さが売りのショッピングモールは、一階が食料品店。二階が、服屋、美容院、レストランといろいろ入っている。
「リュックの中の薬、ちゃんと飲んでるのか?見たことないんだけど」
「全然効かないんだ、あれ」
「素人判断よくないぜ。ネットで簡単に調べただけだけど、いきなり聞こえなくなるなんてこともあるみたいだし、心配だ」
「心配?僕の身体のことなのに?」
「彼方の身体のことだから、心配だ」
白い顔が、ほんのり赤くなった。
「まさか、心配されたのも初めてなのか?」
さっきから、ご機嫌はよろしくないようだし、今は、明後日の方向を向いてしまったので、きちんとした返事は無かった。だが、ジンには彼方が細い身体全部が嬉しいと言っているように見えた。
こちらまで照れてしまう。
ジンは、彼方の背中に手を当てた。
「服、とっとと買いに行こうぜ」
と促す。
「日中、着る服をとりあえず、一着。下着、靴下。こんなところか。ああ、あと、スウェット。俺のじゃでかいだろ?いつも、ズボンの裾をめくってるし」
服屋に着いて、彼方を疲れさせないうちに、必要なものをどんどん籠に入れていく。
「どういう意味?」
「先生、病気で死んだって言ったろ?どんなに手を尽くしても、痩せていって、最後は骨と皮だけになった。いろいろ作ったんだけど、どんどん食べられるものが少なくなって。でも、彼方は、逆。与えれば与えるほど回復してって、それが素直に嬉しい。---おい、そんなに熱っぽい目で見るな。キスしたくなる」
「見てない」
「ああ、そうですか」
信号が青に変わって、またジンは車を走らせ始めた。
「春になったら何か軽作業をしてみるか?俺の紹介なら、身分証はいらないとこはたくさんある。バイト代も現金手渡し」
「嬉しい。でも、できるなら、冬からしたい」
「焦んなくていいって。夜に返してくれてるだろ。昨日は、彼方サンからしてくれて感動した。しかも、風呂場で。そのあと、のぼせて使い物にならなったけどな」
すると、急に彼方が窓の方に顔を向けた。
「あれは、礼とかそんなんじゃなくて……自然と」
そこからは、完全な無言だった。
あらら?これは居心地が悪い方の沈黙だ。
車がショッピングモールの駐車場につくと、彼方が率先して降りた。
ずんずんと一人歩いて行こうとする。
「彼方。入り口、そっちじゃないって」
ご機嫌斜めとまではいかないが、上機嫌でないことは確かだ。
呼び寄せ、二人でショッピングモールの中に入っていく。
「ザワザワする」
と彼方が言った。
平日の昼前なので、中にほとんど人の姿は見えない。
今日がクリスマスなので、流し収めとばかりにしつこくクリスマスソングがかかり、むしろ侘しさが強調されているぐらいだ。
間もなく土日がやってくるので、年末年始のための買い出し客でそこそこ賑わうはずだ。だからこそ、混まない今日のうちに用事は済ませてしまいたかった。
「耳の調子がよくないのか?」
「こういうところは久しぶりだから、緊張してるのかも」
「一週間ぶりぐらいに文明に触れたもんな」
「そこまで言ってない」
ジンは彼方の頭上に両手を差し出す。
「辛いならやってやろうか?恥ずかしいなら、人のいない場所で」
「大丈夫。そこまでじゃない」
耳が辛いのは可愛そうだが、手で耳を包んでやる行為は、彼方を捕まえたみたいな気分になるので、気に入ってる。断られたのがちょっと残念だ。
エスカレーターに乗って二階に向かった。巨大さが売りのショッピングモールは、一階が食料品店。二階が、服屋、美容院、レストランといろいろ入っている。
「リュックの中の薬、ちゃんと飲んでるのか?見たことないんだけど」
「全然効かないんだ、あれ」
「素人判断よくないぜ。ネットで簡単に調べただけだけど、いきなり聞こえなくなるなんてこともあるみたいだし、心配だ」
「心配?僕の身体のことなのに?」
「彼方の身体のことだから、心配だ」
白い顔が、ほんのり赤くなった。
「まさか、心配されたのも初めてなのか?」
さっきから、ご機嫌はよろしくないようだし、今は、明後日の方向を向いてしまったので、きちんとした返事は無かった。だが、ジンには彼方が細い身体全部が嬉しいと言っているように見えた。
こちらまで照れてしまう。
ジンは、彼方の背中に手を当てた。
「服、とっとと買いに行こうぜ」
と促す。
「日中、着る服をとりあえず、一着。下着、靴下。こんなところか。ああ、あと、スウェット。俺のじゃでかいだろ?いつも、ズボンの裾をめくってるし」
服屋に着いて、彼方を疲れさせないうちに、必要なものをどんどん籠に入れていく。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる