【完結】八ヶ岳初恋フルーツティ

遊佐ミチル

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第三章

27:辛いならやってやろうか?恥ずかしいなら、人のいない場所で

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「本当によかった、回復してくれて。俺が面倒みてるから、俺のもんだって支配的に思っているわけじゃねえけど、誇らしい」
「どういう意味?」
「先生、病気で死んだって言ったろ?どんなに手を尽くしても、痩せていって、最後は骨と皮だけになった。いろいろ作ったんだけど、どんどん食べられるものが少なくなって。でも、彼方は、逆。与えれば与えるほど回復してって、それが素直に嬉しい。---おい、そんなに熱っぽい目で見るな。キスしたくなる」
「見てない」
「ああ、そうですか」
 信号が青に変わって、またジンは車を走らせ始めた。
「春になったら何か軽作業をしてみるか?俺の紹介なら、身分証はいらないとこはたくさんある。バイト代も現金手渡し」
「嬉しい。でも、できるなら、冬からしたい」
「焦んなくていいって。夜に返してくれてるだろ。昨日は、彼方サンからしてくれて感動した。しかも、風呂場で。そのあと、のぼせて使い物にならなったけどな」
 すると、急に彼方が窓の方に顔を向けた。
「あれは、礼とかそんなんじゃなくて……自然と」
 そこからは、完全な無言だった。
 あらら?これは居心地が悪い方の沈黙だ。
 車がショッピングモールの駐車場につくと、彼方が率先して降りた。
 ずんずんと一人歩いて行こうとする。
「彼方。入り口、そっちじゃないって」
 ご機嫌斜めとまではいかないが、上機嫌でないことは確かだ。
 呼び寄せ、二人でショッピングモールの中に入っていく。
「ザワザワする」
と彼方が言った。
 平日の昼前なので、中にほとんど人の姿は見えない。
 今日がクリスマスなので、流し収めとばかりにしつこくクリスマスソングがかかり、むしろ侘しさが強調されているぐらいだ。
 間もなく土日がやってくるので、年末年始のための買い出し客でそこそこ賑わうはずだ。だからこそ、混まない今日のうちに用事は済ませてしまいたかった。
「耳の調子がよくないのか?」
「こういうところは久しぶりだから、緊張してるのかも」
「一週間ぶりぐらいに文明に触れたもんな」
「そこまで言ってない」
 ジンは彼方の頭上に両手を差し出す。
「辛いならやってやろうか?恥ずかしいなら、人のいない場所で」
「大丈夫。そこまでじゃない」
 耳が辛いのは可愛そうだが、手で耳を包んでやる行為は、彼方を捕まえたみたいな気分になるので、気に入ってる。断られたのがちょっと残念だ。
 エスカレーターに乗って二階に向かった。巨大さが売りのショッピングモールは、一階が食料品店。二階が、服屋、美容院、レストランといろいろ入っている。
「リュックの中の薬、ちゃんと飲んでるのか?見たことないんだけど」
「全然効かないんだ、あれ」
「素人判断よくないぜ。ネットで簡単に調べただけだけど、いきなり聞こえなくなるなんてこともあるみたいだし、心配だ」
「心配?僕の身体のことなのに?」
「彼方の身体のことだから、心配だ」
 白い顔が、ほんのり赤くなった。
「まさか、心配されたのも初めてなのか?」
 さっきから、ご機嫌はよろしくないようだし、今は、明後日の方向を向いてしまったので、きちんとした返事は無かった。だが、ジンには彼方が細い身体全部が嬉しいと言っているように見えた。
 こちらまで照れてしまう。
 ジンは、彼方の背中に手を当てた。
「服、とっとと買いに行こうぜ」
と促す。
「日中、着る服をとりあえず、一着。下着、靴下。こんなところか。ああ、あと、スウェット。俺のじゃでかいだろ?いつも、ズボンの裾をめくってるし」
 服屋に着いて、彼方を疲れさせないうちに、必要なものをどんどん籠に入れていく。
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