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第三章

26:だから、パンティ買おうぜ

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 軽トラックの助手席に彼方を乗せて、街に出る。
 ショッピングモールは、甲斐大泉駅から数駅先だ。
 田舎の路線なので、一駅がやたら長い。つまり、車を走らせてもそこそこ時間がかかる。
「まず、服と下着を買うか。そのあと、彼方は美容院。俺は、いろいろ用事を済ませてくる」
「服はジンのでいいのに」
「下着まで兼用したいって?」
「そうは言ってない」
「こう言っちゃなんだけど、彼方サンのパンティ、尻んとこ擦り切れてんだよ」
「今、何て??」
「一枚をずっと履いてて、んで、洗濯は水道で手もみ洗いしてただろ。いくら高級品でもそりゃボロボロになる。だから、パンティ買おうぜ」
「パンティ言うな」
 初めて出会った夜は、会話もままならなかったのに、ちょっとずつ続くようになってきた。
 それに、こうやって会話が途切れると、以前は無音が苦痛だったが、今はそれが心地よいものに変わってきている。
「助手席に乗ってするドライブ、初めてだ」
 彼方は初めてが多い。
 普通に育ってきたなら、当たり前にしか感じないことも、彼にとっては新鮮に感じるものらしい。
 たぶんだが、ファーストキスもつい先日だったに違いない。
 悪いことをしたなあと感じるが、自分だけしか知らない身体に、これからもっと記憶に残るようなことをすると思うと下半身が落ち着きを無くす。
 でも、悟られないようにしないと。
「ドライブっていっても軽トラだ。しかも、これ、仕留めた害獣積む用だし」
「ジン、猟師の仕事は?もしかして、僕に構ってるせいで、できてない?」
「いいや。年末は、ちょっと浮かれた素人猟師も山に入ってくる。狩りのシーズンは、日本全国だいたい十一月十五日から三月十五日まで。北海道は冬が長いからもう少し長い。狩りの解禁期間は決まってるんだ。けど、平日サラリーマンやってる連中は週末とかしか来れないだろ。で、大型連休になる年末年始はわっと増える。あいつら、わざとかと思うぐらい撃たれそうな場所にいたりするから神経使うんだ。だから、今月もう一人では山に入らない。もちろん、集団で狩りしなきゃいけない場合は声がかかれば行く。巻き狩りって言うんだ」
「そうか」
「物物交換に使う獣肉は、大型冷蔵庫にたっぷりある。極端な話、光熱費と、携帯料金さえ払えば、この冬は越えられる。まあ、狩りの仕事がなくても別荘の屋根の雪下ろしのバイトとか、ちょこまか仕事は入ってくるから、暇なのは年内ってとこかな」
「そんな仕事があるんだ?」
「おう。春は果樹園、夏は草刈り。山の木の枝打ちなんてのもある。秋もやっぱ果樹園かな。そして冬は、狩り。狩りしない連中は、春夏秋の三シーズン働いて、冬は休むってのもいる。働き方はさまざま。でも、雪下ろしのバイトは今の彼方じゃ無理だぞ。あれは、かなり体力要るし、慣れてないと屋根から落ちる」
「体力?」
 彼方がジンが貸したダウンジャケットの中に手を入れて、上半身をごそごそし始める。
「肉、少しついたよ」
「だな」
「間もなく出荷される」
「豚かよ」
とジンは吹き出した。
 まだまだ口は重いが、たまにひょうきんなことを言うようになった。
 打ち解けてくれてきたのだと思えて、ジンは彼方の変化が嬉しい。
 交差点に差し掛かり、赤信号に捕まった。
 彼方の頭に手を伸ばし、ツンと突く
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