上 下
20 / 126
第二章

20:好きでもない相手と、一足飛びに最後までするのは辛いでしょ、あんたも、俺も

しおりを挟む
 昨日は心も身体も距離があったのに、今日は隙間なく隣り合っている。
 時間を意識してないわけではなかった。
 でも、今、この状況がとても心地よくて、別のステージに移るのが惜しかったのだ。
「するよ、今夜は。で、できる」
「彼方サン。リラックスしてたのに、夜が更けるにつれて、落ち着き無いね?」
「は、はあ?何、言って」
「別に、明日に繰り越したってかまわないんだけど?」
 参った。
 ジンは見ていないようで、見ている。
 猟師という職業柄なのか、観察眼が鋭い。
 そのうち、全部バレてしまいそうな気がする。
 その前に、ものすごく気に入って貰えたら、この冬が終わるまではここに居させて貰えるかな?
 いや、やっぱり名字も分からない自分なんか、引くだろうな。
「……お風呂、借して」
「どうぞ」
 風呂場に行くと、またスウェットが置かれてあった。昨日と同じのだが、きちんとまた洗ってくれたようだ。
 シャワーを浴びて、身体と髪を洗って湯船に浸かる。
 昨日はビリビリと痛かったが、今日は別の風呂に入っているみたいに快適だ。
 のぼせる前に上がって、ドライヤーで髪を乾かし、薪ストーブの部屋に戻る。
 昨夜と同じく余ったフルーツティーをアイスでジンが出してくれて、彼は入れ替わりに風呂に向かう。
 飲み干し空にしたコップをキッチンで軽く洗って水切り籠へと入れる。
 そして、ジンの部屋に向かった。
 朝、起きて、もうそのままこの家に戻ってくることはないだろうと思っていたので、ベットメイクもせずにいた。だが、昨夜みたいにベットは綺麗になっていて、枕元に置かれていたものだけが無かった。
 部屋はほどよく暖房が効いてて、温かい。
 布団の上に座って待っていると、ジンが部屋にやってきた。
 彼が隣に座ると、湯上がりのいい匂いがする。
「寝る?」
 携帯を充電器に差し込みながら、ジンが聞いてくる。
「寝るよ。寝るさ!けど、ジン、やる気ないだろ?」
「何、怒ってんの?」
「だって、き、昨日は、ここにゴムとかちゃんと用意してた」
 すると、堪えきれないというように、ジンが彼方から顔を背けてぷっと笑った。
「彼方サン、かなりのやる気じゃん。でも、まだ無理だと思う。知識が何にもない状態でやられたら、俺の尻、壊されちゃう」
「壊され……」
 彼方は途中で言葉を失った。
 ジンはたまに途中から言葉が出てこなくなるようなことを言う。
「それに、好きでもない相手と、一足飛びに最後までするのは辛いでしょ、あんたも、俺も」
 否定された気がしてちょっと傷ついた。
 確かに昨夜は、ジンは好きでもない相手だった。
 でも、今は、少し違う。
 たった二十四時間で、気持ちが動いた。
 それは、命を救ってくれたから?
 食事を与えてくれたから?
 優しい言葉をくれたから?
 ……そうだね。それって、好きとはまた違うのかもしれない。
 好きという気持ちでコーティングされた、命を守るための生存本能なのかもしれない。
 それでも、ちょっと育った好意を摘み取られた気がして、ムッとしてしまうのだ。
 自分は、そんな偉そうな立場じゃないくせに。
「じゃあ、どうすればいい?昼は、ちょっとずつでもいいから成長していけって」
「電気消す」
 一瞬部屋が真っ暗になった後、ランプが付けられた。
「彼方。もっとこっち来て」
 たぶん、ジンは普通に言っているはずなのに、囁やかれた気分になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...