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第二章

19:俺たち、出会って二十四時間ぐらい

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「いい。謝罪は何度も聞いた。もう、ネチネチ言うつもりはない。あんたは知らなかったんだから」
 ジンは猟銃を収めたケースを持って立ち上がった。
「そうだ。いいもん見せてやるよ」
 ガレージの奥は扉があった。
 ジンがそこに入っていく。
 明かりが付けられ、彼方は「ぎゃああああああ」と悲鳴を上げた。
 ガレージの続きの部屋は、同じく打ちっぱなしのコンクリート。
 壁際には、鹿の角が積み重なり、鹿や猪のような毛皮が何枚も干されていたのだ。
「な、何、これ」
 そりゃあ、声も震える。
「業者が難癖をつけて引き取ってくれなくて、フリマサイトとかに流そうと思っているうちに面倒で溜まったやつ一覧」
「黒魔術でもやってるのかと思った」
「こっちもガレージとはいえ、一部屋潰しているから、なんとかしたいんだけど。春になったらやるとする。でも、俺、去年もこんなこと言ってな。さ、冷えるから部屋に戻るか」
 ジンはガレージの隅にあった箱を開けて蜜柑を数個取り出し、彼方に持たせる。
 夕食は宣言どおり雑炊だった。
 濃厚な卵、それにネギが入っていて、だしが効いている。
 コンビニのパンを食べても身体は冷えるだけだったのに、この家で出される食べ物は、身体を内側から温めてくれる。変な表現だが、内臓が存在しているのがよく分かる。
 デザートには、プリンが出てきた。そして、先程、ガレージの奥の部屋から持ってきた蜜柑も。
 天井は、梁しか気にしてなかったのだが、吊り下げ式のテレビがあった。
 ソファーに座って薪ストーブで温まりながら寝転んで見るのにちょうどいい。蜜柑やプリンを食べて、あまり役に立たなさそうな芸能人のクイズ対決や旅番組を見た。
 そうしているうちも、ジンはちょこまか動き回り、新たな食べ物をこちらに持ってくる頃にはすでに食器洗いは済んでいる。無駄な動きをしない男だ。猟師だから手際がいいのだろうか。ほら、そんなことを考えているうちに、フルーツティーが出てきた。
 ジンが、彼方の隣に座った。
 夕方彼方が目覚めてから、ソファーに一緒に座るようになって、距離が近づいた。
 それが嫌じゃない。
 溜まっていた不安をジンに向かって吐き出し、彼がそれを受け入れてくれたからなのか、服の裾が触れ合っただけで、なんだか安心する。
「次は、何か手伝う」
「キッチンは俺の動きやすいように全部配置されてる。民泊をもう一回やることになったら、料理も出すだろうから、手が鈍らないようにな」
「だったら、食器洗いとか。それも嫌なら、掃除とか洗濯とか」
「掃除はなあ。ここらで取れたミントをオイルにして希釈して、床用のウエットティッシュに染み込ませて、廊下とかサアアアアアーって拭くの好きだし、洗濯も嫌いじゃない」
 最初から、ジンがこんなマメに動けたのかは疑問だ。
 どう見たって、雑な感じしかしない。いや、雑は言い過ぎかもしれない。大雑把?あまり変わらないか。
 ジンの先生ってどんな人だったんだろう?
 少しの時間一緒に過ごしただけでも、ジンって難しいところがある奴だなって感じるから、ジンが惚れた相手なんて相当な人な気がする。
 淡い恋と本気の情念が混ざりあった彼方の知らないジン。
 見てみたいような遠慮したいような。
 出されたフルーツティーを飲む。
 やっぱり旨い。
 何度飲んでも旨い。
 ソファーの隣で寝転がっていたジンが、テレビ画面の端に表示されている時間を見ながら言った。
「ちょうどこれぐらいの時間だ」
「え?」
「昨日、彼方を迎えに家を出たの。で、タイヤがパンクしてて焦って遅れたと。随分時間が経った気がするけど、まだ、俺たち、出会って二十四時間ぐらい」
 ジンが、彼方の隣にぴったり座り、手に自分の手を重ねてきた。
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