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第二章
18:そっから入ってくるな
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どうやら、ジンが抱き上げてくれたみたいだ。
移動させられたといっても、再び肌に触れた感触は一緒で、同じソファーの上みたいだ。身体に何かをかけられた。指で触ると、薄い毛布のようだ。
そして、すぐに、カンカンカンカンとボウルで卵を混ぜ合わせる音が聞こえてくる。
その次は、ジュウジュウ。
浅い眠りを何度も繰り返しているらしい。
誰かがキッチンで料理を作っている横で眠るなんて初めての経験だった。
生活音がものすごく心地いい。
そして、次に目を開けたら、もう夕方だった。
薪ストーブがパチパチ爆ぜる部屋は薄暗い。
「ジン?」
男の名を呼んで見るが、返事はない。
風呂場、ジンの部屋と昨日入った場所に行ってみたが、姿はそこにもない。
出かけた?
だったら、車が無いはず。
ダウンジャケットを羽織って玄関を出て家を左回りに進むと、ガレージが見えてきた。
ジンが細長いものを抱え、パイプ椅子に座って作業していた。
「ジン」
声を縣けると、
「そっから入ってくるな」
と厳しい声が飛んできた。
「持っているのは猟銃だ。今、しまうからちょっと待て」
ジンは足元にあるケースに銃をしまうと、鍵をかけ終えてから「いいぞ」と彼方を呼んだ。
「気づいたら寝てた」
「涎垂らして爆睡してたぞ。八ヶ岳ホットケーキもっと食べたーいって寝言言ってた」
「嘘?!」
「よだれは嘘。寝言は本当。また、作ってやるよ。卵、余ったらくれって言っといたから。台湾カステラを届けに行くから、そのときまた貰ってくる。無限物物交換だ」
「うん、食べたい。あのさ、猟銃って何に使うの?」
「仕事。まだ、言ってなかったっけ?俺、猟師」
「もしかして、熊とか捕る?外国の話みたいだ」
「専任の猟師は少ないけれど、害獣駆除で鹿とか猪とか駆除する副業猟師は結構いる。じいさんの小遣い稼ぎが主だけどな。最近じゃ、ジビエなんて洒落た名前で知れてきたけど、仕留められた害獣の九割は処理も加工もされずに処分されちまう。体力がいるから、年取るとそこまでやるのが難儀なんだ。俺は、先生に習ったから、肉や皮の処理もするけど」
「ジンに先生いたんだ」
「そ。俺の親戚。もう、葬式にも結婚式にも出ないような遠縁なんだけどさ。結構名の知れた猟師で、俺は、中学を卒業してすぐ弟子入りさせてもらった。だから、漁師になって六年目。中学卒業前から先生のところには出入りしてたから、正式には歴はもっと長げえけどな」
「今も、一緒に狩りに出たりするの?」
「無理」
「どうして?あ、独り立ちしたのか?」
すると、ジンが寂しげに笑う。
「俺の独り立ちなんてまだまだだ。その逆。弟子残して、病死しやがった。一年前にな。猟師だけじゃ怪我をしたりすると一気に収入が心もとなくなるから、土日にジビエ料理を出す民泊でもするかって計画して、三年がかりでオープンまでこぎつけたんだけど、その年に」
「じゃあ、この家の持ち主って」
「ああ。先生だ。幸い保険金で改装の借金はチャラになったみたいだけど、壊すにも金がいるだろ?人が住まなければ、急速に痛むし。だから俺が、メンテナンスする代わりに家賃免除で住まわせてもらっている」
昨晩、ジンは「俺が好きだった人が大切に造った家だ」と死に場所を探していた彼方に怒鳴った。
遠縁の親族で、先生で、好きだった人。
思いは伝えた?
複雑すぎる関係は、好きという気持ちがあれば、簡単に乗り越えられるものだった?
「ごめ……」
移動させられたといっても、再び肌に触れた感触は一緒で、同じソファーの上みたいだ。身体に何かをかけられた。指で触ると、薄い毛布のようだ。
そして、すぐに、カンカンカンカンとボウルで卵を混ぜ合わせる音が聞こえてくる。
その次は、ジュウジュウ。
浅い眠りを何度も繰り返しているらしい。
誰かがキッチンで料理を作っている横で眠るなんて初めての経験だった。
生活音がものすごく心地いい。
そして、次に目を開けたら、もう夕方だった。
薪ストーブがパチパチ爆ぜる部屋は薄暗い。
「ジン?」
男の名を呼んで見るが、返事はない。
風呂場、ジンの部屋と昨日入った場所に行ってみたが、姿はそこにもない。
出かけた?
だったら、車が無いはず。
ダウンジャケットを羽織って玄関を出て家を左回りに進むと、ガレージが見えてきた。
ジンが細長いものを抱え、パイプ椅子に座って作業していた。
「ジン」
声を縣けると、
「そっから入ってくるな」
と厳しい声が飛んできた。
「持っているのは猟銃だ。今、しまうからちょっと待て」
ジンは足元にあるケースに銃をしまうと、鍵をかけ終えてから「いいぞ」と彼方を呼んだ。
「気づいたら寝てた」
「涎垂らして爆睡してたぞ。八ヶ岳ホットケーキもっと食べたーいって寝言言ってた」
「嘘?!」
「よだれは嘘。寝言は本当。また、作ってやるよ。卵、余ったらくれって言っといたから。台湾カステラを届けに行くから、そのときまた貰ってくる。無限物物交換だ」
「うん、食べたい。あのさ、猟銃って何に使うの?」
「仕事。まだ、言ってなかったっけ?俺、猟師」
「もしかして、熊とか捕る?外国の話みたいだ」
「専任の猟師は少ないけれど、害獣駆除で鹿とか猪とか駆除する副業猟師は結構いる。じいさんの小遣い稼ぎが主だけどな。最近じゃ、ジビエなんて洒落た名前で知れてきたけど、仕留められた害獣の九割は処理も加工もされずに処分されちまう。体力がいるから、年取るとそこまでやるのが難儀なんだ。俺は、先生に習ったから、肉や皮の処理もするけど」
「ジンに先生いたんだ」
「そ。俺の親戚。もう、葬式にも結婚式にも出ないような遠縁なんだけどさ。結構名の知れた猟師で、俺は、中学を卒業してすぐ弟子入りさせてもらった。だから、漁師になって六年目。中学卒業前から先生のところには出入りしてたから、正式には歴はもっと長げえけどな」
「今も、一緒に狩りに出たりするの?」
「無理」
「どうして?あ、独り立ちしたのか?」
すると、ジンが寂しげに笑う。
「俺の独り立ちなんてまだまだだ。その逆。弟子残して、病死しやがった。一年前にな。猟師だけじゃ怪我をしたりすると一気に収入が心もとなくなるから、土日にジビエ料理を出す民泊でもするかって計画して、三年がかりでオープンまでこぎつけたんだけど、その年に」
「じゃあ、この家の持ち主って」
「ああ。先生だ。幸い保険金で改装の借金はチャラになったみたいだけど、壊すにも金がいるだろ?人が住まなければ、急速に痛むし。だから俺が、メンテナンスする代わりに家賃免除で住まわせてもらっている」
昨晩、ジンは「俺が好きだった人が大切に造った家だ」と死に場所を探していた彼方に怒鳴った。
遠縁の親族で、先生で、好きだった人。
思いは伝えた?
複雑すぎる関係は、好きという気持ちがあれば、簡単に乗り越えられるものだった?
「ごめ……」
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