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第一章
10:許して。なんでもするから
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「ジンに出会えなかったらその時点で、死のうと思っていた。……でも、ちゃんと迎えに来てくれたし、払うのもの払おうとしてくれたし、やりたいプレイをしてくれていいよ。その……僕でよければ、だけど。……ちゃんと指示された通りにやるから」
カチリと小さな音がして、部屋がぼうっと明るくなった。
耳を押さえたまま顔を上げると、ベットのヘッドボードにあるランプの陶器の穴から光が漏れ出て部屋を淡く照らしていた。
ジンがベットの上で壁に背中を付けてこちらを見ていた。
「都合が悪くなると聞こえづらくなるのか。便利だな」
彼方は首を振った。
今、自分がするべきことは、ジンの側に行くことだ。
分かっている。
でも、足がすくむ。
「ふん。五万のためなら、どんなに不調でも頑張りますって?いいよ。じゃあ、こっち来い」
呼ばれて、ベット際に立つと、ジンに、ベットの上に膝立ちになるように言われた。
言われたとおりにすると、両手が伸びてきて耳を塞がれる。
大きな手は、駅のロータリーで耳を塞がれたときと同じく温かい。
じっと見つめられた。
彼方の耳を気遣ってか、ゆっくりと口を開く。
「あんた、掲示板では遊び人みたいな感じだったけど 本当に経験あんの?」
「掲示板のプロフィールは、人気ある人の文章をコピーして、ちょっと変えた」
無理して喋ると、声が頭の中で反響する。
「どおりで。文章と当人がちぐはぐなわけだ」
「メッセージはたくさん送ったけど、ジンの前に反応があったのは二人だけで。一人は僕の姿を一目見て、都合が悪くなったからって帰ってしまったし、もう一人は約束したのに現れなかった。いたずらだったのか、遠目から見てて、避けられたのか」
車酔いに近い感じを耐えながら、彼方は切れ切れに、ゆっくりと喋った。
話など途中で遮って、ジンはすぐにでも事に及びそうに思えたのだが、意外にも彼方が喋り終わるのを辛抱強く待ってくれた。
「さりげなく俺の質問無視したけど、経験無いってことだよな?」
ジンが彼方の両耳から手を外した。
そして、急にスウェットをまくり上げてきた。
「うわあ、予想以上にガリガリ。あばら骨浮いてんだけど。体重何キロ?確実に、五十キロ切ってるよな、これ」
ジンは、枕元の潤滑剤とコンドームを籐の籠にダンクシュートでもするみたいに乱暴に入れた。
「え?何で、仕舞っちゃうの?抱き枕には無理ってこと?」
返事は無い。
彼方を無視して、毛布をかぶり始める。
「じゃ、じゃあ、僕がジンにする。手とか口とか」
動画サイトで見ただけなので、実戦は初だ。
ジンの顔には、はっきりと、「無理しちゃって」と書かれていた。
「ジン。なあ、ジンってば」
彼方に背を向けて眠ろうとするので、必死で肩を揺さぶる。
機嫌を損ねられてしまえば、明日の、いや、数十分先の命も危うい。
「こんな僕が、ジンにメッセージ送って悪かった」
反応はない。
「許して。なんでもするから」
不安と情けなさで喉が詰まる。
泣き声が混じったような声で言うと、ようやくジンがこちらを向いてくれた。
「じゃあ、あんた、キスぐらいはできる?」
頷く。
「本当に?」
再度、頷く。
上半身を起こしたジンが手を伸ばしてきて、彼方の後頭部に優しく添えられる。
顔が近づいてきて、それと同時に胸に当てられた手でゆっくりと押し倒されて、仰向けになった時には、もう唇が重ねられていた。
向こうは身体もでかければ口もでかい。
かぷっと自分の唇全部を塞がれたような感覚だった。
---俺はリバだから、その日の気分でどっちでも。
カチリと小さな音がして、部屋がぼうっと明るくなった。
耳を押さえたまま顔を上げると、ベットのヘッドボードにあるランプの陶器の穴から光が漏れ出て部屋を淡く照らしていた。
ジンがベットの上で壁に背中を付けてこちらを見ていた。
「都合が悪くなると聞こえづらくなるのか。便利だな」
彼方は首を振った。
今、自分がするべきことは、ジンの側に行くことだ。
分かっている。
でも、足がすくむ。
「ふん。五万のためなら、どんなに不調でも頑張りますって?いいよ。じゃあ、こっち来い」
呼ばれて、ベット際に立つと、ジンに、ベットの上に膝立ちになるように言われた。
言われたとおりにすると、両手が伸びてきて耳を塞がれる。
大きな手は、駅のロータリーで耳を塞がれたときと同じく温かい。
じっと見つめられた。
彼方の耳を気遣ってか、ゆっくりと口を開く。
「あんた、掲示板では遊び人みたいな感じだったけど 本当に経験あんの?」
「掲示板のプロフィールは、人気ある人の文章をコピーして、ちょっと変えた」
無理して喋ると、声が頭の中で反響する。
「どおりで。文章と当人がちぐはぐなわけだ」
「メッセージはたくさん送ったけど、ジンの前に反応があったのは二人だけで。一人は僕の姿を一目見て、都合が悪くなったからって帰ってしまったし、もう一人は約束したのに現れなかった。いたずらだったのか、遠目から見てて、避けられたのか」
車酔いに近い感じを耐えながら、彼方は切れ切れに、ゆっくりと喋った。
話など途中で遮って、ジンはすぐにでも事に及びそうに思えたのだが、意外にも彼方が喋り終わるのを辛抱強く待ってくれた。
「さりげなく俺の質問無視したけど、経験無いってことだよな?」
ジンが彼方の両耳から手を外した。
そして、急にスウェットをまくり上げてきた。
「うわあ、予想以上にガリガリ。あばら骨浮いてんだけど。体重何キロ?確実に、五十キロ切ってるよな、これ」
ジンは、枕元の潤滑剤とコンドームを籐の籠にダンクシュートでもするみたいに乱暴に入れた。
「え?何で、仕舞っちゃうの?抱き枕には無理ってこと?」
返事は無い。
彼方を無視して、毛布をかぶり始める。
「じゃ、じゃあ、僕がジンにする。手とか口とか」
動画サイトで見ただけなので、実戦は初だ。
ジンの顔には、はっきりと、「無理しちゃって」と書かれていた。
「ジン。なあ、ジンってば」
彼方に背を向けて眠ろうとするので、必死で肩を揺さぶる。
機嫌を損ねられてしまえば、明日の、いや、数十分先の命も危うい。
「こんな僕が、ジンにメッセージ送って悪かった」
反応はない。
「許して。なんでもするから」
不安と情けなさで喉が詰まる。
泣き声が混じったような声で言うと、ようやくジンがこちらを向いてくれた。
「じゃあ、あんた、キスぐらいはできる?」
頷く。
「本当に?」
再度、頷く。
上半身を起こしたジンが手を伸ばしてきて、彼方の後頭部に優しく添えられる。
顔が近づいてきて、それと同時に胸に当てられた手でゆっくりと押し倒されて、仰向けになった時には、もう唇が重ねられていた。
向こうは身体もでかければ口もでかい。
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