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第一章

7:ここに来るまで、一体どういう生活してきたんだ?

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「飲んでみろよ、フルーツティーだ。傷のせいで出荷できない果物を季節ごとに冷凍しておいて、冬になったらこうやって紅茶みたいにして飲む。名物にしている宿もある。ここら辺じゃ、普通なんだけど、東京じゃなかなか飲めないんだろ?」
 ガラスポットをジンがくるっと回すと、中のフルーツたちも湯の中で踊るように回る。
 ジンは、それを同じガラス素材のティーカップに注ぐ。
 さらに香りが立ち上がった。
 黙って差し出されたから、黙って飲んだ。
 最初は、身体の奥が冷えていたので、温度しか分からなかった。
 喉から食道へと液体が伝わっていって、胃に落ちてじわっと温かくなる。
 その心地よさに息をつくと、自分の口からフルーツの香りがする。
 ティーカップに鼻を近づけると、さらに芳醇な香りがした。
「砂糖は一切使ってない。もちろん香料も。果物だけの純粋な甘みと香りだ」
 ジンの声を聞いているうちに、
 ---グッ。
と喉が鳴った。
 感情が溢れ出しそうになったのだ。
 あと一時間もしないうちに、自分はこの男に抱かれる。
 きっと痛いし、気持ちが悪いし、情けない気分になるはずだ。 
 そして、朝には捨てられる。
 いや、終わったら早々かもしれない。
 もしくは、月五万円の契約だからと、逃げられないように鎖で繋がれるのかもしれない。
 でも、駅での凍死は免れて、まだこうやって自分は生きている。
 フルーツティーを飲み干して、カップを置くと、ジンがまた注いでくれた。飲んでも飲んでも身体の奥がぬくもりを欲しがっていて、すぐに飲み干してしまった。
「少しは落ち着いたか?」
と聞かれ、うんと素直に頷く。
 まだフルーツティーが半分ぐらい入ったポットと空のティーカップをカウンターキッチにに置きにいったジンが戻ってきて、ソファーに座る彼方の目の前にしゃがんで両手を握ってくる。
 ああ、始まる。
 目を閉じて絶望混じりの覚悟をすると、
「だいぶ、温まったみたいだな」
とジンが言って、今度は彼方の頰に手の甲で触れてきた。
「風呂、こっち。さっき沸かし直したから、いい湯加減だと思う。でも、あんたは身体の芯から冷えてるだろうから、入るとビリビリしてびっくりするかも」
 カウターキッチンの横を通って、廊下に連れて行かれた。
 真正面は行き止まり。 
 というか透明なガラスの扉になっていて、シェードカーテンが下まできっちり下げられてる。まるで、ここから先には絶対に入ってくるなというような感じだ。
 その手前を左側の引き戸をジンが空ける。
 洗面所と浴室があった。
 洗面所はさほど大きくない。
 二人でいたら狭く感じる。ジンの身体がでかいせいもあるのかもしれないが。
 浴室は、シャワーのある洗い場と大人の男がゆったりと入れるほどの大きさの白木の風呂。
「着替えはそこ。俺のだけど。あと、遠慮なんて一切せず着てる服は、一式、洗濯機に入れとけ」
 何でだと思っていると、ジンは彼方の目の前で鼻を摘んで見せる。
「あんた、ちょっと、いや、かなり臭い。冬でも臭うって相当だよ?体臭無さそうなのに。ここに来るまで、一体どういう生活してきたんだ?」
「……」
「掲示板の軽そうなプロフィールとは、まるで別人だな。もしかして、ベットで口が軽くなるタイプ?だったら、あとで、聞かせて。俺はさっきの部屋で明日の朝飯の仕込みをするから、風呂から上がったら戻ってきて。風呂が久しぶりなら、気にせず、一時間でもゆっくり入っていい。ただし、のぼせない程度で」
 ジンが去っていき、完全に足音が聞こえなくなった。
 脱いだ途端襲われるなんてことはなさそうだ。
 けれど、全ての部屋を見たわけではないから、他の奴らが潜んでいる可能性も……。
「どうでもいいや」
 セーターを脱ぎ、その下に着ていたカットソーも脱いで試しに鼻を押し付けてみた。
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